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西原宏一_メルマガ取材記事
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FX情報局

衝撃の13分間。崩れ落ちたトルコリラ/円の
真相とは? 暴落の震源地は日本にあった!?
のかも…(1)

2017年10月25日(水)14:28公開 (2017年10月25日(水)14:28更新)
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【副業FXで勝つためのメルマガ】田向宏行さんのFXメルマガは儲かるのか? ダウ理論の転換トレードで検証したらこうなった!

 ここに1枚のチャート画像がある。

トルコリラ/円 10分足(10月9日、クリックで拡大)
トルコリラ/円 10分足(10月9日)

(出所:サクソバンク証券

 中央に刻まれた真っ赤な大陰線。血に染められたかのような、その大陰線は短時間のうちにトルコリラ/円に起こった惨劇を鮮やかに記録している。

2017年10月9日(月)、体育の日。いつもなら忙しい月曜日の朝だが、この日、日本は祝日で、ゆったりまどろんでいる人もきっと多かったことだろう。そんなゆったり気分だったはずの日本時間朝方に、いきなり襲ってきたのがトルコリラの暴落だった。

約2円半も異なる安値のレートは市場の混乱の反映か

 暴落の理由はなんだろう?

 各マスメディアはトルコと米国が相互にビザ発給を停止し、トルコと米国の関係が悪化することを懸念したためだと報じていた。

 トルコリラ/円、前週末、10月6日(金)の終値は31.10円台付近。そして、トルコリラ/円を取り扱っているおもなFX口座および取引所がこの朝つけた安値はざっと以下のとおりだった。

※安値はBID(FX会社側の買値、投資家側の売値)の1時間足チャートで確認

 この中で安値のレートが一番低かったのはヒロセ通商「LION FX」。その安値、27.173円で計算すれば、トルコリラ/円は前週末から12.8%も下落したことになる。これはかなりの下落率だ。

 そして、各社の安値を見ると、29円台半ばから27円台前半まで、約2円半もの差があることがわかる。

 トルコリラはただでさえ、取引量の少ないマイナー通貨。そして、日本時間早朝は1日の中で特に取引量が少ないと思われる時間帯だ。さらに、この日は日本が祝日だったから、輪をかけて取引量が少ないものと思われた。

 そんな状況に襲いかかったトルコリラ急落だけに、各FX会社で安値のレートにかなりの差が出ているのは仕方がない現象だとも思える。約2円半もの差があること自体が、市場の混乱を映し出しているとも言えそうだ。

「トルコと米国のビザ発給相互停止」は大問題なのか?

 各FX会社の安値を調べるため、各FX会社のトルコリラ/円チャートをいろいろと見ているうちに、ふと疑問がわいてきた。

 以下は先ほどとは別の会社、FXプライム byGMO「選べる外貨」の取引ツール「PrimeNavigator」に表示されたトルコリラ/円の10分足チャートだ。

トルコリラ/円 10分足(10月9日、クリックで拡大)
トルコリラ/円 10分足(10月9日)

(出所:FXプライム byGMO

 中央に黒々と描かれた2本の大陰線が衝撃のすさまじさを物語っている。しかし、その上に開いている窓が存外小さい。

 この窓の大きさ──つまり、前週末の終値とこの週の始値の差はどれぐらいだろうか?

FXプライム byGMO「選べる外貨」の前週末、10月6日(金)の終値は31.133円。この週、10月9日(月)の始値は30.652円。

その差、0.481円。下落率1.5%という計算になる。

 この数字は大きいと言えば大きいが、といっても、たまにはある変動の範囲内だろう。大事件というほどではない。

 そもそも今回、ニュースとなった「トルコと米国のビザ発給相互停止」とは、トルコに行きたい米国人、米国に行きたいトルコ人にとっては大問題だろうが、トルコリラ相場にとっては、どれほど重大な問題なのだろうか?

 トルコ情勢の門外漢である筆者には今一つピンと来ないが、それは筆者だけでなく、世界中の市場関係者や情報ベンダーの記者たちも、もしかしたら、よくわかっていないということはないだろうか? トルコリラ相場下落の値幅が大きなものだったから、そこから逆に考えて、「トルコと米国のビザ発給相互停止」が大変なニュースだと思った──ということはないだろうか?

大窓が開かず、大陰線ができるのはおかしくはないか

 この「トルコと米国のビザ発給相互停止」の第一報が流れたのはいつのことだったのだろう?

 ブルームバーグを叩いて調べてみると、「U.S. Suspends All Non-Immigrant Visa Services in Turkey」というタイトルで日本時間10月9日(月)午前2時28分にヘッドラインが出て、午前2時43分に記事本文が出ていたことがわかった。

 この週のFX取引が本格的にスタートする結構前である。

 もしも、このニュースがトルコリラ相場にとって本当に大変なことであったなら、取引開始時点でそのことを織り込み、大きな下窓を開けていなくてはおかしい。

 もう一度、FXプライム byGMO「選べる外貨」のトルコリラ/円チャートを見てみよう。

トルコリラ/円 10分足(10月9日、クリックで拡大、再掲載)
トルコリラ/円 10分足(10月9日)

(出所:FXプライム byGMO

 チャート上に大窓は開いていない。

 どうしても目を奪われるのは中央にある2本の大陰線だ。

 しかし、繰り返しになるが、「トルコと米国のビザ発給相互停止」が本当に大問題であるのなら、大陰線ができるのではなく、大窓が開いていなくてはならないはずなのだ。

原因とされるニュースは出ていたのに当初暴落はしていない

 週明け、月曜日朝のFX会社の取引開始時刻は各社異なるが、トルコリラ騒動が起こったこの時期、多くのFX会社では午前7時から取引が開始されていた。

 先ほどチャートを掲載したFXプライム byGMO「選べる外貨」も午前7時の取引開始だ。

 そこで、少し時間を遡ってみる。

 この時期に国内主要FX会社では唯一、午前6時に取引が開始されるのがヒロセ通商だ。同社のチャートを確認してみよう。

トルコリラ/円 15分足(10月9日、クリックで拡大)
トルコリラ/円 15分足(10月9日)

(出所:ヒロセ通商

午前6時台には大して動いていない。動いていないのだ。

 上のチャートはヒロセ通商「LION FX」の15分足チャート。15分足なので、午前6時台の60分間には計4本のローソク足が描かれている。そして、その4本のローソク足から、6時台のトルコリラ/円相場は大して動いていないことがわかるのだ。

 さらに本記事冒頭で掲げた1枚のチャートをもう一度見てみたい。

 こちらは月曜早朝、午前3~4時に取引が開始される貴重なFX会社・サクソバンク証券のチャートだ。同社はこの時期、午前3時にはもう取引が開始されている。

【参考記事】
月曜日の窓埋めトレードを狙ってひと儲け! 午前3時からトレードすればニ度オイシイ…!?

トルコリラ/円 10分足(10月9日、クリックで拡大、再掲載)
トルコリラ/円 10分足(10月9日)

(出所:サクソバンク証券

 3時台、4時台、5時台、6時台……下に小さな窓を開けてこの週の取引を開始したあとは確かにジリジリと下げてはいるものの、そのあとに起こった衝撃に比べれば、何ほどのこともない。

サクソバンク証券のチャートを見ると、決定的な下げが起こったのは日本時間午前7時台になってからのことだった、ということを非常に明瞭に確認することができる。

今回のトルコリラ暴落の原因とされる「トルコと米国のビザ発給相互停止」のニュースはすでに流れていたのに、相場はそれほど大きくは動かないまま、数時間が経過していたということだ。

 これはどういうことなのだろうか?

各マスメディアが報じていないトルコリラ暴落の理由

 ここから先の話には推測が入ってくる部分も結構あるのだが、その点はご容赦いただきたい。

 筆者の推測のざっくりとした全体像をまず書いてみれば、午前7時台に大きな下落が起こったのは、日本の主要FX会社の取引が開始され、積み上がったトルコリラ/円の買いポジションがストップロス注文や強制的なロスカットにあったから──ということになる。

 なんだ、そんなことかと思うFXトレーダーもいるかもしれない。しかし、筆者が見た限り、このことを各マスメディアは報じてはいないのだ。トルコリラが暴落した理由はあくまで「トルコと米国のビザ発給相互停止」にあり、とされているのである。

 正直言うと、ザイFX!の為替ニュースのコーナーでも10月9日(月)当日はそのような内容のニュースを流していた。

【参考ニュース】
米国・トルコのビザ発給停止合戦でトルコリラが大きく下落し、一時30円の大台割れ

 また、ニュースがすでに出ているにもかかわらず、すぐには相場が反応せず、なぜかあとから材料として蒸し返され、相場が動くという現象もたまに見かけるところではある。けれど、今回はあとから動いた値幅があまりにも大きすぎないだろうか。

なぜ日本でトルコリラ買いのポジションが積み上がっている?

 筆者は世界全体のFX取引やインターバンク市場の動向を詳しく把握しているわけではないが、世界全体で俯瞰しても、トルコリラについては日本の個人FXトレーダーが積み上げたトルコリラ/円の買いポジションが多いのではないか、との印象を持っている。

 それはなぜか?

 まず、以下の記事で紹介しているとおり、最近は世界のFX会社の取引高ランキングのトップ10のうち、実に8社が日本のFX会社となっている状況だ。

 さらに2017年5月あたりから、日本のFX業界では「第2次トルコリラ戦争」と呼んでもいいようなトルコリラ/円のスペック競争が激化していた。

 この競争によって、いくつかのFX会社では、トルコリラ/円のスワップ金利(スワップポイント)がとても高くなっており、魅力的なものに見えていたのは事実である。

【参考コンテンツ】
FX会社おすすめ比較:トルコリラ/円が取引できるFX会社はここだ!「トルコリラ/円スワップ金利の高い順」

 ついでに言えば、トルコリラ/円のスプレッドもひと頃に比べると、ずいぶん狭くなっている。原則固定型のスプレッドで一番狭いFX会社は1.9銭原則固定だ。

【参考コンテンツ】
FX会社おすすめ比較:トルコリラ/円が取引できるFX会社はここだ!「スプレッドの狭い順」

火の元は積み上がったトルコリラ/円の買いポジション?

 そして、低金利の通貨を売って、高金利の通貨を買うキャリートレードでは、円は売る側の通貨として定番の存在だ。また、日本のFXトレーダーになじみが一番あるのは円絡みの通貨ペアである。

 基軸通貨である米ドルを絡めた米ドル/トルコリラという通貨ペアが、世界の為替市場においては、本来、トルコリラ絡みの主力通貨ペアとなるところだろうが、米ドル/トルコリラという通貨ペアを扱っている日本のFX会社は非常に少ないのが現実だ。

 こんなことから、ポジションが積み上がっているとするなら、米ドル/トルコリラで米ドル売り・トルコリラ買いをしているよりも、日本人がトルコリラ/円でトルコリラ買い・円売りをしている量の方が多いのではないかと感じるのである(あくまで推測だが…)。

 そして、10月9日(月)午前7時以降に、そういった積み上がったトルコリラ/円の買いポジションがストップロス注文や強制的なロスカットにひっかかり、トルコリラの下落が加速したのではないだろうか。

 ただし、「トルコと米国のビザ発給相互停止」というニュースでジンワリ下がっただけであれば、そのような動きにまでは発展しなかったのではないかと想像する。

下ヒゲが長く伸びたトルコリラ/円、7時4分の足

 ここでトルコリラ/円急落時の動きをもっと細かく見てみたい。

 以下はサクソバンク証券のSaxoTraderで見た10月9日(月)午前7時前後、トルコリラ/円の1分足チャートだ。

トルコリラ/円 1分足(10月9日、クリックで拡大)
トルコリラ/円 1分足(10月9日)

(出所:サクソバンク証券

 短い時間軸の足は各FX会社でそんなにたくさんは遡れないものだが、サクソバンク証券のSaxoTraderでは、短い時間軸の足についても、かなり前まで遡ってチャートを表示できる。これは、このような検証を行うときにとても重宝する仕様だ。

 さて、このチャートを見ると、午前7時に入ってから下げ足が速まっていることがわかるが、下方向へ最初に特に大きな圧力がかかったのは7時4分の足だ。下ヒゲが長く長く伸びており、この足の始値と安値の差は1円近くもある。

トルコリラ/円 1分足(10月9日、クリックで拡大、再掲載)
トルコリラ/円 1分足(10月9日)

(出所:サクソバンク証券

大変動はトルコリラ/円より米ドル/トルコリラで先に起きた

 次に同じくサクソバンク証券のSaxoTraderで、米ドル/トルコリラの同じ時間帯の1分足を見てみよう。

米ドル/トルコリラ 1分足(10月9日、クリックで拡大)
米ドル/トルコリラ 1分足(10月9日)

(出所:サクソバンク証券

 こちらはトルコリラ安の方向が上下逆となり、上昇するほどトルコリラ安が進行しているチャートになる。7時4分の足を見ると、やはりここで大きな相場変動があったことがわかるが、よく見ると、トルコリラ/円の足とは状況が違っている。

 トルコリラ/円の7時4分の足はその前の7時3分の足と大きく離れてはいなかった。そして、7時4分の足そのものに大きな値幅が刻まれていた。長い長い下ヒゲがついていたのだ。つまり、大きな価格変動は7時4分台に起こったことになる。

 それに対し、米ドル/トルコリラの7時4分のローソク足はそこまで長いものになっていない。その代わり、この7時4分の足はのっけからポーンと跳ね上がっている。7時3分の足と7時4分の足の間に大きな窓が開いているのだ。

米ドル/トルコリラ 1分足(10月9日、クリックで拡大、再掲載)
米ドル/トルコリラ 1分足(10月9日)

(出所:サクソバンク証券

 ここから米ドル/トルコリラの大きな価格変動はおそらく7時3分59秒から7時4分00秒といった短い間に起こったのではないかと思われるのである。

 つまり、大きな価格変動はトルコリラ/円よりも米ドル/トルコリラで少し早めに始まっていたのではないか、ということだ。

 それはトルコリラ/円よりも米ドル/トルコリラの方が取引しやすい存在──海外投機筋がトルコリラ売りを仕掛けた痕跡ではないだろうか。そして、自身が取引するのは米ドル/トルコリラだが、狙いは積み上がった日本のトルコリラ/円買いポジションを刈ることにあったのではないだろうか。

投機筋が狙いたくなるような条件が揃っていた

 筆者は海外投機筋に取材して、このことを聞いたわけではない。これはあくまでさまざまなチャートなどを見て考えた、筆者の想像の世界の話ではある。しかし、この想像はそんなに飛躍した話だろうか。

 条件は揃っているのだ。

 ただでさえ取引量の少ないトルコリラというマイナー通貨。常日頃から取引量の少ない日本時間早朝という時間帯。さらに取引量を輪をかけて少なくする日本が祝日であるということ。これらのことについては、すでに本記事冒頭で触れたとおりだ。

 そして、「トルコと米国のビザ発給相互停止」というニュースによって、ジワジワと下がっていたトルコリラ/円は心理的節目となる30円の大台を割れる寸前にあった。

さらにもう少し下の29円付近には直近安値があった。トルコリラ/円は2017年1月と4月に29円付近(※)で2回安値をつけているのだ。

そして、直近安値のすぐ下はストップロス注文が入りやすいポイントである。

(※この安値のレートはFX会社によって結構差があるが、30円より下の水準で2回安値をつけたことは間違いない)

トルコリラ/円 日足(クリックで拡大)
トルコリラ/円 日足

(出所:Bloomberg)

 つまり、トルコリラ/円は少し売り崩せば、売りが売りを呼ぶ可能性が高そうな状況にあったということだ。

 今一度、トルコリラ/円の1分足を見てみよう。

トルコリラ/円 1分足(10月9日、クリックで拡大、再掲載)
トルコリラ/円 1分足(10月9日)

(出所:サクソバンク証券

「下方向へ最初に特に大きな圧力がかかった」と先に書いた7時4分の足がまさに30円の大台を串刺しにしているではないか。

 ちなみに同じ時間帯の米ドル/トルコリラは3.7リラ台であり、何の節目でもない水準にあった。

 そして、これだけではないのだ。

「衝撃の13分間。崩れ落ちたトルコリラ/円の真相とは? 暴落の震源地は日本にあった!?のかも…(2)」へつづく)

(文/ザイFX!編集長・井口稔 編集協力/ザイFX!編集部・庄司正高)

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