世の中の仕組みと人生のデザイン | 橘 玲

世の中の仕組みと人生のデザイン l 橘 玲

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経済的独立すなわち自由は、世の中の仕組みを正しく理解し、最適な人生の戦略をデザインすることで、もっとも確実に達成できる。
世の中(世界)はどんな仕組みで動いているのだろう。そのなかで私たちは、どのように自分や家族の人生を設計(デザイン)していけばいいのだろうか。経済、社会から国際問題、自己啓発まで、さまざまな視点から「いまをいかに生きるか」を考えていきます。質問も随時受け付けます。
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【DIAMOND PREMIUM MAILMAGAZINE】世の中の仕組みと人生のデザイン
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(2016年8月11日配信分より抜粋)

前回はアメリカの経済学者レイ・フィスマンと経済ジャーナリスト、ティム・サリバンの『意外と会社は合理的』(日本経済新聞出版社)から、組織の内部と外部の関係を考えた。

 人類が組織をつくり、それに「法人」という架空の人格まで与えたのは、個人がばらばらに働くよりも「法的なひと」の下にまとまった方がずっと効率的だからだ。これがアダム・スミスが見出した「分業」の威力で、これによって私たちは目も眩むような高度文明社会を築き上げた。だが組織がこれほどまでに効率的であれば、なぜすべての仕事を組織の内部で行なわないのだろうか? この単純な疑問が話の発端だ。

 それに対して経済学者ロナルド・コースは、物理学における摩擦熱のようにあらゆる経済取引は「コスト」という摩擦熱を持つと考えた。事業が拡大する過程では、外部の業者といちいちやりとりするよりも、取引を内部化してしまった方がコストは安くなる(摩擦が小さくなる)。これが組織が巨大化していく理由だが、じつは組織にも固有の摩擦熱があり、そのコストは図体が大きくなればなるほど幾何級数的に膨らんでいく。こうしてどこかの時点で組織の内と外のコストが逆転し、組織内で取引するよりも外部の業者に任せてしまった方が安くなる。

 この(組織の)摩擦熱がなければ、SF映画で描かれるように、世界はひとつの巨大企業によって支配されることになるだろう。だが現実には、身の丈を越えた組織は自らの重さで押しつぶされ、市場から淘汰されていく。このようにして、グローバル企業から自営業まで、さまざまな規模の経済主体が重層的に組み合わされた複雑な市場が成立するのだ。
 
 こうした「複雑系」としての市場の構造を考えれば、大企業だから有利で、中小企業や自営業だから不利とは一概にはいえない。多様な生物が生態系のなかで棲み分けているように、市場も一方的に強者が弱者を搾取する弱肉強食の世界ではない。巨大組織が、その巨大さゆえに適応できなくなったニッチなマーケットで上手に自分のアドバンテージを活かすことが、個人や小さな組織の成功への道になるだろう。

 このことを確認したうえで、今回は組織のマネジメントについて見てみたい。


■コンサルはほんとうに役に立つのか?

 MBAを取得してマッキンゼーなど一流コンサルティング会社で働くコンサルタントは憧れの職業だが、その一方でいまやもっともバカにされる職業のひとつにもなった。ビジネスの現場では、「コンサルは仕事のことをなにひとつわかっていない」とか、「あいつらのいう通りに“改革”するともっとヒドいことになる」というのが「常識」になりつつある。

 コンサルはほんとうに役に立つのか、それとも現代の呪術師なのか。

 フィスマンとサリバンは、組織になぜマネジメントが必要かの説明を、インドのマハーシュトラ州の繊維工場から始める。ここにはインドでももっとも大きな繊維都市があるが、どの工場も在庫が倉庫に積みあがり、重機が通路をふさぐなど、驚くほど非効率で危険きわまりない状態だった。
 
 そこで経済学者は、こうした工場に無料で超一流のコンサルを派遣し(アクセンチュアが協力した)、マネジメントを改革することでどの程度の効果が出るかを計測しようとした。ちなみにこの寛大な申し出を受けたインド企業は66社だが、29社は25万ドルのコンサルサービスが無料になる機会を断り、最終的に調査対象となったのは14社だった。

 コンサルたちが到着したときの工場の状況は、次のように描写されている。

「資材置き場では糸が劣化し、色や品質などによって分類されることもなく放置され、従業員は倉庫中を歩きまわって必要な資材を探していたが、そもそもその資材があるかどうかもわからない状況だった。糸をつむぐ機械の紡錘は壊れており、労働者が新しいものに交換するたびに糸を巻きなおさなければならなかった。

 工場の床も散らかっており、廊下は重機でふさがれ、壊れた機械の部品や打ち捨てられた道具が散乱していた。設備は破損し、汚れ、使用期限をとっくに過ぎているものばかりだった。ある工場オーナーは資材置き場の鍵をヒモで首から下げていたため、従業員は何か必要なものが生じるたびにオーナーを呼ばなければならなかった。ある工場の従業員は荷さばき所を使おうとするたびに、重い設備を移動しなければならなかった」

 こうしたカオスそのものの工場に対して、コンサルの処方箋はシンプルだった。彼らは経営者の権限に手をつけることなく、場当たり的な仕事の進め方を近代的マネジメントの標準的なルールに置き換えたのだ。

 たったこれだけで、無秩序と混乱は秩序に変わった。資材置き場では糸の袋が丁寧に積み重ねられ、分類され、湿気から守るために底上げした床に置かれた。以前は書類が山積みになっていた事務所には、再編成された組立ラインへのインプットとアウトプットに優先順位を付け、その流れを追跡するチャート図が置かれるようになった。

 不良品率は半減し、生産が5%増えたにもかかわらず在庫は20%ちかく減少した。この工場改革の効果は年間20万ドルの増収をもたらすと推計され、正規のコンサルタント料(25万ドル)を払ったとしてもじゅうぶんすぎるほど元がとれることが実証された。――MBAやコンサルにもちゃんと意味があったのだ。

 だがこの研究結果を聞いても、経営大学院の関係者以外、感心するひとはあまり多くないだろう。設定があまりに極端だからだ。だがここには、「経営はなぜ必要か」という問いに対する興味深い知見が隠されている。

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※メールマガジンを一部抜粋して掲載しています。

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著者

著者

橘 玲
たちばな あきら
橘 玲

作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)など。ダイヤモンド社との共同サイト「海外投資の歩き方」も運営。