たとえば、福田総理が突然の辞任表明を行ったのは昨年9月1日のことでした。ただ、この日の円相場は決して円安にはならず、むしろわずかながら円高に振れました。では「安全神話」はどうだったかといえば、日本国債のCDSスプレッドはほとんど変化しませんでした。
このように見ると、「福田ショック」と「中川ショック」の違いは、前者は「安全神話」(日本国債CDSスプレッド)に変化がなく、だから円売りにもつながらず、後者は「神話」が崩壊したから円売りになったということでしょう。
その上であらためて最初の疑問に戻りましょう。「中川ショック」とは、「福田ショック」を上回り、円の「安全神話」崩壊のきっかけになるほどの重大な出来事だったのでしょうか。
冷静に考えると、とてもそうとは思えないというのが実際ではないでしょうか。そうであれば、前日、2月16日のGDPマイナス12%成長が発表されたことなど「神話」崩壊のきっかけが集中したためというふうに考えるのが基本でしょう。
私からすると、低金利で低成長が続き、今や「虎の子」の貿易黒字まで急減してきた円を「安全資産」とする考え方自体に行き過ぎ感を覚えるところではありましたから、その意味では何が「神話」崩壊のきっかけになってもおかしくなかったとは思います。
■ユーロが反発に転じた「本当の理由」
このように円安となる中で、クロス円(※)も軒並み反発(円安)に転じました。こういった中で、ユーロや英ポンドのような欧州通貨も、円に対して、そして米ドルに対しても反発しました。
このところ中東欧通貨危機などの懸念が囁かれ、欧州通貨売りといった流れになっていたのが反転したのです。
ではなぜ、欧州通貨売りは反転したのでしょうか。中東欧危機が終わったのでしょうか。そうでなければ、それを凌ぐような円売りや米ドル売りの材料が出てきたからでしょうか。後者の説明が一般的に多そうですが、私はあまり関係なく、金利差の問題ではないかと思っています。
(編集部注:「クロス円」とはドル以外の通貨と円との通貨ペアのこと。たとえば、ユーロ/円、英ポンド/円、豪ドル/円など)
■ユーロ/円の動きは日独金利差でうまく説明できる
たとえば、日独長期金利差は基本的に「ユーロ優位」ですが、それがこの間、急縮小してきました。その中でユーロは対円で売られてきたのです。ところが、その金利差「ユーロ優位」縮小は先週前半で小休止となりました。その中でユーロ反発となったのです。

このように見ると、この間のユーロ/円の動きは日独金利差でうまく説明できます。そして今回だけでなく、ここ数ヵ月のユーロの対円安値は、昨年12月上旬、今年1月中旬とも、やはり日独金利差「ユーロ優位」縮小が底打ちしたタイミングとほぼ一致しています。
こんなふうに見ると、先週まで欧州通貨が売られてきたのは中東欧危機もあるかもしれないが、むしろ日独金利差「ユーロ優位」縮小による結果であり、その後、欧州通貨が反発に転じたのは、その「ユーロ優位」縮小が一巡したことの影響が大きかったのではないでしょうか。
さて、こんな具合に、いろいろ動きのある為替ですが、私はこの間「短期円安、中長期円高」と考えてきました。具体的なドル/円レートで言えば、3〜4月が95〜100円、年末が75〜80円です。その考え方に変わりはありません。


吉田 恒
(よしだ・ひさし)
立教大学文学部卒業後、自由経済社(現・T&Cフィナンシャルリサーチ)に入社。財務省、日銀のほかワシントン、ニューヨークなど内外にわたり幅広く取材活動を展開。2004年1月より同社代表取締役社長。また、投資情報コングロマリット・T&Cグループの持ち株会社であるT&Cホールディングス取締役にも2004年2月より就任。緻密なデータ分析に基づき、2007年8月のサブプライムショックによる急激な円高など、これまで何度も大相場を的中させている。
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