■10月31日に行われた単独介入の実質的な効果は薄い!
米ドル/円は10月下旬に、わずか数銭、あるいは、20~30銭程度ではあったものの、連日のように歴史的最安値を更新し続けた。
そして、10月31日(月)には、日本時間早朝のオセアニア市場オープン時にマドを開けて急落し、75.32円の安値をつけて歴史的最安値を更新した。それまでの最安値は10月27日(木)のNY市場でつけた75.67円であったが、一気に下落した。
米ドル/円が節目の75.50円を割り込み、75円台前半をつけたことで、日本の安住財務相は日銀に対して「円売り・米ドル買い」介入を指示し、単独介入に踏み切った。
これを受けて、10月31日(月)の東京市場では、米ドル/円は75円台前半から79円台ミドルまで急上昇した。この日の高値は79.53円で、後日、この介入の規模が数兆円にのぼる過去最大級のものであったことが明らかにされた。
したがって、現時点の米ドル/円の歴史的最安値は75.32円である。
10月下旬の値動きでは、歴史的最安値をたびたび更新していたが、更新したと言ってもわずか数銭程度に過ぎず、相場が走り出す雰囲気はなかった。それは介入警戒感があったためだ(「ドル/円は最安値更新で、売りシグナルが再点灯!『フラッグ』形成で72円まで急落も」など参照)。
個人的な正直な感想は、「出るべきもの(単独介入)がようやく出てきた」
といったところだ。
10月31日(月)に日本が単独介入を実施するよりも前に、このコラムでも何度か記述してきたが、筆者は次のように考えていた。
「協調介入は難しい(=欧米の合意は得られない)。だから、あるならば、日本の単独介入(円売り・米ドル買い介入)だが、たとえ単独介入でも介入が実施されれば、米ドル/円は上昇する。ゆえに、米ドル/円を売ることも難しい」
その一方で、多くの市場参加者が、米ドル/円をロング(買い持ち)にしている状態だったため、上がったところを売りたいと考える市場参加者もたくさんいた。
介入を期待する声が多かった中で、日本の単独介入が実施された。
しかし、この単独介入の実質的な効果は薄い。つまり、介入をきっかけにして、米ドル/円が上昇するわけではないと考えている。
■介入が行われても、マーケットの与件に何も変化はない
10月31日(月)の米ドル/円の値動きを見ると、75円台から介入が入り、その後、断続的に介入が繰り返されたと思われる。
78円台でも介入が実施されており、この日の高値は79円台ミドルとなったが、その高値水準の79円台まで介入で担ぎ上げたもようだ。つまり、79円台前半でも介入が実施されたということになる。
そういった状況下であるため、目先の米ドル/円は売り難いセンチメント(市場心理)となっている。
しかし、介入が入らなければ、マーケットは改めて「米ドル売り・円買い」の流れとなるだろう。現時点において、日本の単独介入が実施された以外には、マーケットの与件に何も変化はない。
今後、「介入が頻繁に実施されるのか、否か?」「日本の財務省は75円台という特定の水準を守りたかったのか?」といったことが徐々に明らかにされると、筆者は見ている。
これまでも、米ドル/円はやりようがない状況が続いていると見ていたが、その状況に変わりはない。
なお、日本以外のG7(先進7カ国)の国や中央銀行は、日本の行った介入に対しておおむね批判的である。大っぴらに反対するか、無言であり、基本的には反対している。欧米諸国の賛成がまったくないのだから、G7による協調介入の可能性はない。
■TPPへの参加表明で、日本は介入をやりにくくなった
10月31日(月)に単独介入が行われてからしばらくの間、米ドル/円は78.00円レベルで、ほとんど値動きがない状態が続いた。
「78.00円近辺をサポートするために、こっそりと介入を続けているのではないか?」といったウワサもあったが、今のところ、その真偽の確認は取れない。ただ、その可能性もあり得ただろう。
しかし、隠密介入(覆面介入)があったとしても、大勢に影響はない。日本の単独介入が実施されても、米ドル/円は一時的に反発上昇するだけで、大きな流れが変わるわけではない。
実際のところ、米ドル/円は直近で円高気味に推移しており、今週に入ってからは76円台をつける場面も見られている。
繰り返しとなるが、日本の当局が隠密介入(覆面介入)を行っているのか、いないのかは、今のところは確認できない。ただ、どちらにしても大勢には影響はないと考えている。
ところで、日本の現政権がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉に参加することを表明した。
日本がTPP交渉に参加することの是非については、ここでは述べない。
しかし、日本が「自由を標榜するTPP」への参加を表明したことは、「今後、日本が円売り・米ドル買い介入を実施し難くなった」という意義を含んでいる。
外国為替市場で「円売り・米ドル買い」介入を実施していながら、その一方で自由貿易を標榜するのでは、その対応に根本的な矛盾があるためだ。
■介入が行われても、米ドル/円のトレンド転換はなかった
それでは、次のページで、米ドル/円の300本足(300週分)の週足チャートからご覧いただきたい。
2007年6月以来、ずっと「米ドル安・円高トレンド」が続いており、現在に至るまで、一度として転換したことはない。
まる4年もの間、「米ドル安・円高トレンド」のままであり、このことが大前提となる。当然のことながら、今現在も、トレンドは「米ドル安・円高」である。
10月31日(月)に日本の「円売り・米ドル買い」介入が行われたが、今のところ、トレンド転換を示すシグナルは出ていない。
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