■ドイツが「世紀の取引」の容認に覚悟を決めたとの見方も
ところで、米国金利の今後の動向を考える上で、欧州発のリスク回避相場がどうなるのかも、カギを握りそうです。次に、その行方についても少し考えてみたいと思います。
今週は、週後半の8日(木)~9日(金)にECB(欧州中央銀行)理事会、EUサミットという2大イベントが予定されており、世界中の注目を集めているようです。
その結果しだいでは、世界経済は本当に大変なことになってしまいそうで、「欧州発の世界恐慌のがけっぷちに立っている」という声すらあります。
ただ、だからこそ、「今回は、期待はずれはない」とか、「『世紀の取引』が成立する準備が着々と進んでいる」との見方も、マーケットの一部で見受けられます。
その「世紀の取引」とは、イタリアなどを支援するために不可避とされるECBの関与について、これまで最も反対してきたドイツが、財政規律の強化を条件に、すでに容認する覚悟を決めているというものです。

具体的には、ECBがIMF(国際通貨基金)へ融資し、それをもとにイタリアを支援するというもので、じつは、すでにECBの定款には、IMFのような国際機関を相手とした融資を認めるという条項があります。
ECBのドラギ総裁が今月初めに「条約の範囲内でECBの協力は可能」と発言していましたが、これがまさに、この条項を受け入れる布石であったと、一部の市場関係者の間で受け止められたのです。
ただ、それを無条件で認めるというわけではありません。財政規律を強化するために、具体的に財政統合を進め、そしてEU条約を改正するというのが、ドイツのメルケル首相の戦略のようです。
それに対して、大統領選挙を来年に控え、自国の国債格下げは絶対に回避したい思惑を持つフランスのサルコジ大統領も乗る形で、水面下で調整が進んでいるとされています。
■「ユーロ共同債」が実現しなくても、リスク回避は一段落する
欧州の債務危機を解決する「即効策」などなく、財政規律の強化が最も肝心というのがメルケル首相の主張であり、そのメンツを立てながら、一方で、ECBがルール内で最大限の支援を行うことを容認する覚悟を、ドイツがすでに決めているとの見方があります。
それどころか、IMFを通じた新興国からの欧州支援や、SDR(特別引出権)活用策についても、これもドイツが難色を示していたものの、準備が進みつつあるとの見方さえあります。
11月下旬に、それまで「ユーロ圏の資金の避難先」とされてきたドイツ国債まで価格が急落(利回りは上昇)し、「いよいよユーロ崩壊か」といった悲観論が急拡大しました。
そうではなくて、その逆で、「世紀の取引」が成立して、ユーロ圏内の質への逃避が逆流する兆候こそが、「安全資産」であるドイツ国債の反落だったのではないかとの見方すら、マーケットの一部にはあるようです。

ユーロ圏において「世紀の取引」が成立するのか、それとも、再び世界を失望させ、いよいよ「欧州発世界恐慌」に向かうのか、どちらでしょうか?
最初のほうでも申し上げましたが、米国をはじめとして世界的に景気回復期待が高まっている中で、後者の「欧州発世界恐慌説」は大げさだと、私は思っています。
また、世界的に景気不安が一服しているからこそ、すでに取りざたされているようなIMFやECBの「役割」が実現するだけでも、十分に意味があるでしょう。
もちろん、これまで難しいと思われてきた「ユーロ共同債」のようなことが実現すれば、それは好ましいことであり、本当の意味での「サプライズ」となります。
ただ、夢のような解決策が出てこなくても、ここまで続いてきた欧州発のリスク回避相場が一段落すると思っていますが、どうでしょうか?
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