「資料2」は、ユーロ/円の適正価格の目安である購買力平価からのかい離率です。

ユーロ/円の購買力平価は、足元で110円程度ですから、最近は適正価格よりユーロは割安になっていることになるわけです。
さきほど述べたように、1.3ドル程度のユーロの対米ドル相場は、適正価格より割高でした。だから、中期的に一段安見通しとなったわけです。これに対して、100円程度のユーロの対円相場は、適正価格よりすでに割安なのです。
中長期的な債務問題を抱え、その政策対応として低金利も長期化の見通しになっているユーロだけに、対円でも一段と割安を拡大していく可能性はもちろんあるでしょう。
たとえば、「資料2」をみると、かつてユーロは対円でも適正価格より2割以上の割安になったこともありました。今回も購買力平価より2割の割安になるなら90円を割る計算になります。
ただし、まだ割高な対米ドルでのユーロ下落余地と、すでに割安となっている対円でのユーロ下落余地では差があるでしょう。つまり、対米ドルでのユーロ一段安見通しとは異なり、対円でのユーロは意外と下落余地が限られるのではないかと思うわけです。
たとえば、ユーロ/円は100円を大きく割り込む可能性も低く、仮に割り込んだとしてもそれは短期的な動きにとどまるのではないかと私は考えています。
■中長期的にユーロ/円は下がり過ぎの限界圏
次に、「資料3」をご覧ください。
「資料3」は、ユーロ/円の5年移動平均線からのかい離率です。「資料3」を見ると、100円台前半を中心に推移してきたここ数カ月のユーロは、中長期的にかなり下がり過ぎの限界圏で動いていたと言えそうです。

この5年移動平均線からのかい離率からすると、当面、数カ月以内に100円を大きく割り込むユーロ安があれば、それは記録的なユーロの下がり過ぎということになります。
以上から、ユーロは100円を大きく割り込む可能性が経験的には低いと思うし、それが起こったとしてもそのまま長期化はせず、短期的な動きにとどまるのではないかと考えているわけです。
■米英と欧州の金融システムの違いとは?
いずれにしても、中期的にはユーロは対米ドル中心に下落余地が大きいと思いますが、ただ、短期的にはいったん戻す局面があるのではないかと私は考えていますので、それも最後に少し述べたいと思います。
最近のユーロを巡る動きについて、一方的過ぎるのではないかと感じることがいくつかありますが、その1つは債務危機対策への批判です。独仏を中心としたユーロ圏の債務対策は、抜本的ではないとの批判が強いようです。
ただ、欧州専門家の一部には、「それほど悪くない対策」と評価する見方もあります。このように評価が異なる原因の根本をたどると、それは米英と欧州の金融システムの違いにありそうです。
米英、つまり、「アングロサクソン流」は投資銀行、証券会社の直接金融が主役であるのに対し、欧州は間接金融が主役ということです。
欧州専門家の一部が、今回のユーロ圏の債務対策を「それほど悪くない」と評価しているのは、間接金融が主役の欧州の金融システムでは、銀行支援のための流動性対策が中心になるのが当然で、それは期待どおりに、ある意味では期待以上にできているという意味です。
ところが、債務対策が不十分と厳しく評価する見方は、流動性対策ではなく、FRBやBOE(イングランド銀行)のように中央銀行が直接債券を買い支える、QE(量的緩和)をECBが実施しないことが不満の中心になっているようです。
債券を発行したり、株で直接資金を調達する直接金融のもとでは、確かに中央銀行が債券を直接購入するのが量的緩和になりますが、銀行を通じた間接金融において中央銀行の対策が同じでなければ効果はないというのも「一方的過ぎる」気がします。
欧州は米英ではないし、もちろんECBもFRBではないから、「合格点の対策」も同じではないと思います。
私は、そもそもECBが2011年に2度も利上げを行ったことが、債務危機を再燃させた一因だと思っているので、その意味ではECBの政策的失敗はあったと思います。
ただ、最近にかけては、さすがに「欧州発世界恐慌」も懸念される中で、これまで述べてきたように、アングロサクソン流とは異なる欧州金融システムの中では合格点に近い対応になっていると思います。
夏までのECB利上げは特に批判せず、債務危機が再燃したら、途端に抜本的対策を求める大合唱になっているような風潮にも一方的で行き過ぎたものを感じます。
これも目先的にユーロ下落がそのまま行くことにはならないのではないかと感じる理由の1つなのです。
次に、豪ドルについてお話しします。
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