「でも、しっかりした輸出産業のない国は通貨安のメリットをあまり享受できません。その点、ドイツはもちろん、スペインもしっかりした輸出産業があるので、ユーロが安くなれば、輸出産業が儲かって、プラスの面が出てきます。
でも、イタリアはそうではないんです。イタリアはGDP比での政府債務残高も大きいですしね」

■ユーロ圏全体の財政状態は実はあまり悪くない
島本さんはユーロ圏の財政状態は全体として見れば、実はあまり悪くないと話す。ユーロ危機を考える上で、これも大きなポイントだ。
「政府債務残高のGDP比ですが、日本は200%を超えています。けれど、ユーロ圏全体で見ると、これは100%も超えていません」

(出所:OECD、2011年12月)
また、財政赤字のGDP比は米国や日本は10%弱ですが、ユーロ圏全体は4%程度といったところです」

(出所:OECD、2012年3月)
つまり、GDP比で見たとき、借金の全体(政府債務残高)を見ても、毎年の借金(財政収支)を見ても、ユーロ圏は日本や米国より、はるかに健全ということなのだ。
なのになぜ、ユーロ圏に対する危機が叫ばれ、これほどまでに揺れているのか?
「それは全体としては悪くないけれど、デコボコがあるからです。ユーロ圏には、ものすごくいいドイツもあれば、ものすごく悪いギリシャもある」

(出所:OECD、2011年12月)

(出所:OECD、2012年3月)
「だから、ユーロ圏全体で財政同盟を作り、さらには一歩進んで財政統合を行えば問題はありません。財政同盟というのはお互いの国が財政を助け合いましょうという状態、財政統合は財政を一本化してしまいましょうという状態です。
現在はまだ、そこへ至る前々々段階ぐらい。そして、財政同盟→財政統合へ至る大きな一里塚となるのがユーロ圏全体を1つの国とみなしてユーロ共同債を発行することです。
これが実現できるかどうかが今後の大きなカギになるでしょう」
■ユーロ共同債実現に向けて、ドイツ総選挙に注目
今はギリシャ、さらにはスペイン、イタリアなどの国債が売られる一方、財政が健全なドイツの国債は非常に買われている。そして、もしも、ユーロ共同債が出れば、ドイツ国債ほどではないが、日本国債や米国債よりも健全なソブリン債(※)が出現することになる。
「今でも、ユーロ圏は全体として見れば、財政状態は悪くないわけですから、ユーロ共同債を出してしまえば、大方の問題は解決するはずなんです。
ただ、これを実行するのは政治的には非常に難しい」
(※編集部注:「ソブリン債」とは、各国の政府や政府機関が発行する債券のこと)

「『どうせ働かないギリシャ人と財政統合する方向へ持っていくことはできない』というのがドイツのメルケル首相の立場。
そして、政治家というのはいったんそのように言ったら、なかなか立場を変えられないものです。立場を変えると、今まで支持してくれた国民から支持を得られなくなってしまいますからね。
でも、ドイツでも野党のSPD(ドイツ社会民主党)などは、『ユーロ共同債を出すべきだ、財政統合すべきだ』という主張をしていて、それなりに支持を集めているんですよ。
来年、2013年1月にはドイツで総選挙があります。そうすると今年、2012年のフランスと合わせ、ユーロ圏中核国の新しい政治体制ができあがります。ユーロ共同債実現へ向けて、これが今後の大きな注目点になるでしょう」
(「ソシエテ ジェネラル島本幸治さんに聞く(3) ユーロはジリ安が続くが、暴落はない」へつづく)
(取材・文/ザイFX!編集部・井口稔 撮影/和田佳久)
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