■大局では米ドル/円上昇だが、「窓」の扱いが難しい
先週末(10月31日(金))の「日銀の追加緩和策」が発表された後の値動きは、強烈な上昇だった。
従来の高値、110円台前半を越えて発せられた「買いシグナル」に従い、この日(10月31日)のうちに、112円台ミドル程度の高値をつけている。
週明け月曜日(11月3日)は、東京市場が休場だったのだが、海外市場では、「窓(Gap)」を空けて、112円台後半程度で始まり、この日の海外市場では、114.20円近辺の高値をつけている。
この「窓(Gap)」の扱いが、非常に難しい、と考える。
今回のケースでは、米ドル/円が上昇しているので、今回のこの「窓(Gap)」は、「買いシグナル」と考えることができる。
しかし、この急騰(110円台から114円台への急上昇)の調整(下落)が起こる場合は、「窓埋め」をする可能性もある。
通常は、「窓埋め」をするケースが多いのだが、必ず、窓を埋めるとは限らないので、判断が難しいのだ。
つまり、調整下落のメドとして、112.50円近辺を想定する必要がある、ということだ。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
大局では、米ドル/円の上昇トレンドになんら変化はない、と考えるが、110円台から114円台への急上昇のスピードが速すぎるので、あるいは、見方によれば、105円台から114円台への急上昇のスピードが速すぎるので、調整の下落が起こっても不思議ではない、と考えている。
■なぜ、このタイミングで日銀は追加緩和を決定したのか?
先週末(10月31日)に日銀は追加の緩和策を発表した。
「なぜ、このタイミングなのか?」
いろいろな理由が考えられる。
まず、黒田日銀総裁は、財務省(旧大蔵省)の出身だ。財務省(旧大蔵省)にしてみれば、消費税の引き上げは、悲願だろう。
今回(この年末まで)の消費税引き上げチャンスを逃すと、今後、どうなるのか、予測がつかない(先々にわたり、消費税引き上げを実施できない可能性も出てくる)。
安倍政権は、「小渕問題」で大失敗を起こし、支持率が低下しており、消費税引き上げの強行突破を敢行し難い状況にある。
安倍政権の閣僚の問題は、「小渕問題」に留まっておらず、その収拾は不透明だ。
そして、従来の金字塔だった「アベノミクス」にも、すでに黄色信号が点っていた。
そこで、新たな旗印として、追加の金融緩和策を掲げて、「アベノミクス再び」を狙ったのではないだろうか?
■これまでのアベノミクスとは結局、何だったのか?
ここで注意喚起をしておくが、過去のアベノミクスとは、実質的に、「日銀の金融緩和策による株価の上昇」でしかない。
もう少し突っ込んで言えば、「円の金融緩和に伴う為替の円安による日本株の上昇」という現象に過ぎない。
本来は、アベノミクスで―――アベノミクスが、従来と異なる新たな政策とするならば―――新たな政策(金融緩和策以外の具体的な景気刺激政策)を提示するべきなのだが、今のところ、そういった新たな政策は、まったくなかった。
安倍政権に替わってからの公共事業の拡大は、旧態依然とした「ばら撒き」にすぎず、「新たな政策」とは、とても呼べない。
うがった見方をすれば、現政権から日銀へ、その旨の懇願があったのかもしれないし、仮に、そういった「お願い」がなかったとしても、日銀総裁が、現政権に、「暗黙の恩」を売った可能性もあり得る。
消費税を引き上げたい、といった共通の目的があるのだから、「阿吽(あうん)の呼吸」だったのかもしれない。

日銀は政府と「阿吽(あうん)の呼吸」で追加緩和に踏み切ったのか? 写真は日銀本店
■「貧富の差の拡大」、「社会的矛盾の拡大」が心配
今回の日銀の追加の金融緩和策に関しての議決は、賛成5、反対4だったと聞く。
つまり、ギリギリの投票結果だった。
日銀の金融政策の変更としては、十分に合意があったわけではなさそうだ。
それを見ても、唐突な印象が残る(=このテーマが、緊急に持ち上がったのではないか、と推察される)。
このような、十分に多方面からの合意のない政策の効果が、果たして、どの程度、維持されるのか?
確かに、市場(金融市場に限らず、さまざまなマーケット)は、サプライズ(驚愕)した。
もっともサプライズ(驚愕)したのは、米ドル/円の外国為替市場だった、とも言えそうだ。
しかしながら、実質を伴わない(つまり、具体的な景気刺激策を伴わない)、単なる金融緩和策では、確かに、日本の株価を上昇させるだろうが、そのほかの部分に、矛盾を転嫁させることになるのではないか、と危惧する。
つまり、今回の追加の金融緩和策は、「貧富の差の拡大」、「社会的矛盾の拡大」という「つけ(将来の問題)」に、姿かたちを変えたのではないか、と、心配している次第だ。
(2014年11月05日東京時間 13:15記述)
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