■当面の追加緩和の可能性は、かえって下がってしまった
しかし、会田さんは、「今回の補完措置が決まった背景を考えると、当面、追加金融緩和が行われる可能性は低くなった」と言う。どうしてなのか?
「これに関しては、2015年10月30日(金)の金融政策決定会合で追加金融緩和を行わなかったことが尾を引いています。この時、日銀は物価、成長率の見通しを大きく引き下げましたが、それにもかかわらず、追加金融緩和をしませんでした。
10月にかけては株式市場や為替市場も荒れていて、日経平均は一時、1万6000円台に、米ドル/円相場は118円台あたりまで下落しました。
このように、物価・GDP成長率の見通しの引き下げやマーケットの混乱にも関わらず追加金融緩和をしなかったということは、今後、追加金融緩和を行う時に、それ以上のロジックが求められることになります。
おそらく、黒田総裁は追加金融緩和をしたかったのだと思います。黒田さんは、『できるだけ早期に物価上昇率2%』というコミットメントへの思い入れが強いからです」(会田さん)

2015年10月の日銀金融政策決定会合で「黒田総裁は追加金融緩和をしたかったのだと思う」と語る会田さん
■「補完措置」は妥協の産物だった…
「しかし、日銀の金融政策を決定する政策委員会は合議制なので、9票のうち5票とらないと総裁提案が通りません。黒田総裁と2人の副総裁の3人が票を入れても、残り6票のうち、2票が必要です。
残り6票のうち、石田浩二さん、佐藤健裕さん、木内登英さんの3人の委員は、今の金融緩和の枠組みに懐疑的で、追加金融緩和にはノーの姿勢です。実際、12月の補完策の決議でも反対票を入れています。
残り3人のうち、原田泰さん、白井さゆりさんは黒田総裁の考えに近くて、現在の金融緩和策を積極的にサポートするスタンスですし、布野幸利さんもそれに近い立場のようです。ですが、原田さんの最近の発言内容を聞いていると、『できるだけ早期に』という点にはあまり思い入れがなさそうです。
原田さんの考えとしては、今の政策を続けて雇用環境の改善が続いていけば、いずれ賃金上昇を伴って2%の物価上昇を達成するので、今の緩和を粘り強く継続していくべきだというスタンスのようです。
特に、2015年10-12月期は雇用環境がさらに良くなっているので、今は追加金融緩和をする必要はないという考えのようで、白井さん、布野さんも、ほぼ同様のスタンスのようです」(会田さん)

政策委員会の中で、意見が割れていた。 日銀が決定した「補完措置」は、意見が異なる政策委員の妥協の産物だったとは…
「以上のような状況から、黒田さんをはじめとした執行部は、追加金融緩和の提案に5票を集める見通しが立てられなかったのだと思います。そして、こうした意見が異なる政策委員の妥協の産物として今回の補完措置が決定されたということになります。
このような背景を考えると、今後の追加金融緩和の可能性はむしろ下がった、と考えられます」(会田さん)
(「ソシエテ ジェネラル・会田卓司氏に聞く(2)サプライズ的な日銀追加緩和はあるのか?」へつづく)
(取材・文/小泉秀希 撮影/和田佳久)
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