■「驚くべき税制改革」はどうなった?
以上がスピーチのあらましですが、投資家目線で気になる税制改革に関しては、トランプ大統領から特に新しい考えは示されませんでした。
言い直せば、議会が税制改革法案を審議するにあたり、具体的な行動の指針になるようなことは大統領からは出なかったということです。
強いて言えば、諸外国の高関税のせいでハーレー・ダビッドソンのオートバイが輸出市場であまり売れていないことを例に出し、貿易面で米国が不公平な戦いを強いられていることが強調されました。
これは、下院税制改革案「Better Way」で提唱されている国境税調整(Border Tax Adjustments)に対し、トランプ政権が若干歩み寄る姿勢になっていることを間接的にシグナルする効果があったと思います。
【参考記事】
●トランプ氏の記者会見は期待はずれだが、国境税に注目! 中期ドル買いの好機到来(1月12日、西原宏一)
■新ヘルス・プランが実施されるまでは長い道のりという印象
アフォーダブル・ケア・アクトに代わるヘルス・プランに関しては、「州ごとにルールを決めるやり方ではなく、全米共通のルールにすることで一層競争を促すべきだ」と主張しました。
これは正論に違いありませんが、保険事業のルールを決め、監督する仕事は、歴史的に州政府が行ってきたので、その慣習を改変するのは、並大抵の努力ではできないと思います。
したがって、トランプ政権がこの部分にあまりこだわるようだと、新しいヘルス・プランの策定が大幅に遅れるリスクもはらんでいると言えます。
また、「州政府ではなく、全米共通のルールにすべき」という主張を除いては、新しいヘルス・プランを具体的にどうする?ということに関し、トランプ大統領から踏み込んだ提案はありませんでした。
議会の方でも新しいヘルス・プランに関するアイデアは煮詰まっていないため、草案をまとめ、それを可決、立法化するのは長い道のりだという印象を与えました。
■法案成立に時間がかかるほど相場は長持ち!?
以上のことをまとめると、なるほど、トランプ大統領の今回の演説は、聴く者を気持ちよくさせる耳触りの良いスピーチでしたが、法案の審議をスピードアップさせる要素には乏しかったです。
トランプ大統領のスピーチを聞いた投資家は、米国の現状に自信を持ち、これまでよりは明るい展望を持つと思われることから、おのずと米ドルは強含むと予想されます。

(出所:Bloomberg)
また、トランプ大統領の演説は全体に景気支援的だったので、米国の長期金利には上昇のバイアスがかかると思います。

(出所:Bloomberg)
ところで、懸案となっているアフォーダブル・ケア・アクトや税制改革法案がテキパキと成立するというシナリオが相場にとって最善のシナリオか?と言えば、それはそうとは限りません。
今の相場は「熱すぎもせず、冷たすぎもせず」のほどよい湯加減、言い直せば「ゴルディロックス」の状態なのであり、税制改革法案の成立がずっと先まで「お預け」になれば、それだけ長い間、この買い材料を相場的に楽しむことができるという考え方もできると思うのです。
もっと別の表現に直せば、今回の演説は「相場が長持ちする」ことを支援するような内容だったということです。
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