■HYIPが日本の業者ならば、日本の法律で戦う
では、HYIPの運営元が海外業者ではなく、日本国内の業者だった場合はどうでしょう? この場合、日本国内の法律に基づいて考えていくのだと思うのですが…?
「んー…」と唸った山口弁護士ですが、もし、そういう相談があり、訴訟を提起するとなった場合を想定して考えてくれました。
「まずは、契約書や取引の説明画面を見て、金融商品取引法(金商法)で定義されている『金融商品取引業』の登録が必要な取引に該当しそうなものかどうかを考えます。その結果、もし、該当しそうであれば、そういう詐欺まがいの行為をはたらく業者であれば、通常、金融庁への登録なんてしませんので、僕なら無登録営業で何をしているの? というところから始めますね」
ここで、「金融商品取引業の登録」について補足しておきます。
金商法では、法律で定められた取引を業として行う場合、金融商品取引業の登録をすることが義務付けられています(金商法2条8項、29条)。無登録で金融商品の勧誘や販売をすると、刑事罰が科されることになっているんです(金商法197条の2)。紛れもない違法行為となります。
金融庁のウェブサイトでは、登録業者を一覧で確認することができますので、自分が取引しようとする業者が登録を受けた業者なのかどうか確認するというのも、変な業者に騙されないためには大切なことだと言えるでしょう。

■「1日1%の配当」って、どんな金融商品になるの?
ところで、HYIPのように、「1日1%の配当」がある金融商品って、いったいどんな金融商品になるんでしょうか? 中にはファンドみたいなものもありそうな感じは受けるんですが…。
「正直、『1日1%の配当を作る』というだけで、金商法の規制対象になる取引かどうかを判断するのは難しいところです。問題は、その配当をどうやって生み出すかというしくみ。もし、金商法の規制対象に該当しないのであれば、取引の実態なんてないということを主張して、やはり詐欺ではないか? という方向も考えなくてはなりません」
HYIPの中には、あとから入ってきた人の資金を配当に回して自転車操業をしているだけというものもあるというウワサを聞きます…。でも、この場合は紹介者が増殖するタイプのものではなく、連鎖していないワケですから、先ほど教えていただいたネズミ講には当たりませんよね?
「連鎖していないのであれば、ネズミ講には当たらないでしょう。そうなると、金融商品としてのしくみが備わっていないのに、そういう金融商品だと偽って販売しているということで、個人的な感覚でいくと、やはり、それも詐欺だと考えます」
個々のHYIPの中身の詳細を確認したワケではありませんが、今ある情報で可能性を考えた場合、なんだかんだHYIPを日本の法律に当てはめると、最終的に詐欺にあたる可能性が高いってことみたいです。
■金融商品まがいのものを販売した業者に対する判例
ここで山口弁護士は、金融商品としてのしくみを持っていないのであれば、それは金融商品まがいのものであるとして、業者側の責任を認めた東京地裁の判決があると言い、ある事件を紹介してくれました。
事件の概要はこうです。
【 金融商品まがいのものの事例 】
ある業者がファンドの形態をとって高配当を謳い出資金を募っていた。しかし、実際は、ろくに運用されず、ただ単に出資金を取り崩して配当に回していただけだった

山口弁護士は、「この事例であれば、出資金の取り崩しなんてしている時点で、もはや金融商品としてのしくみはないと言える。そうであれば、真っ向から金融商品まがいの商品を販売した詐欺商法であると主張して戦うのが、私たち消費者被害専門の弁護士の感覚だ」と言います。
ほかにも、最近よく挙がっている相談例としては、太陽光発電に関する出資を募るというものがあるそう…。なんだか怪しそうな匂いがプンプンしますが、山口弁護士が実際に受けた相談は、こんな話だったそうです。
【 太陽光発電に関する事例 】
まず出資者が太陽光パネルを購入。それを業者が借り受けて、発電所的なところに設置する。そこで売電収益を得るので、パネルの賃料として出資者にお金を払うというもの。業者はこれを投資商品ではなく、あくまで賃貸借だと主張。でも、相談者に、どうやって勧誘されたのか? と確認すると、「年間30%などの高配当をくれると言われた」とのこと

山口弁護士、これは、たぶんあかんヤツですよね…?
「そうですね…。僕自身は、そもそも実態がない詐欺だと見ていますが、あくまで業者の言い分を前提とすると、相談者以外にも出資者はいるみたいなんです。このように見るとファンド(集団投資スキーム)ということになる。そうであれば、当然、金商法の規制が及びます。
それを無登録で単なる賃貸借として販売しているんだから、違法ですよね? という話をしていくつもりです」
実際、こういった投資詐欺のような事例では、裁判になっても業者から関係資料の提出がされず、運用の実態がない詐欺だったというのが露呈するケースが結構あるみたい…。
HYIPについても、もし裁判となれば、こうした事例と同じように、金商法の規制が及ぶものならその中で、それに該当しないのであれば先ほどの事例のように、金融商品もどきの詐欺であると主張して裁判を戦う可能性が考えられるそうです。
(「仮想通貨の売り方は法的規制の対象外!?年利30%のようなウマい儲け話はない!」へつづく)
(取材・文/ザイFX!編集部・向井友代 撮影/和田佳久)
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