■「トラリピ」vs「iサイクル注文」裁判で、新たな判決が!
リピート系発注機能(※)の元祖とも言える「トラリピ」のマネースクウェア・ジャパンと、後発ながらライセンス供与されていることや、度々リニューアルを重ねるなどの企業努力もあって、リピート系発注機能の“顔”となりつつある「iサイクル注文」の外為オンライン。
(※「リピート系発注機能」とは、自動的に次々と発注・決済を繰り返す注文方法の総称として、ザイFX!が命名したもの)
【参考コンテンツ】
●システムトレード(シストレ)口座を徹底比較!:(4)リピート系発注機能【トラリピなど】


この2社が、リピート系発注機能の特許を巡って裁判で争っていることは、当コーナーでも何度かお伝えしてきましたが、2017年7月20日(木)に、新たな判決が下されました。
一体何に、どんな決着がついたのでしょうか!? 新たな判決について紹介する前に、ここまでの経緯をざっとおさらいしておきましょう。
■裁判その1→裁判その2→裁判その1判決→裁判その1控訴
マネースクウェア・ジャパンは、「知的財産は重要な経営資源の一つである」という考え方のもと、自社技術の特許を取得していることを以前から盛んにアピールしていました。
その特許を理由に、“トラリピ的なサービス”である「サイクル注文」および「iサイクル注文」を提供している外為オンラインをマネースクウェアHDが特許侵害で提訴したのが、2015年2月19日(木)のことでした。
【参考記事】
●マネースクウェアHDが外為オンライン提訴!FX業界に波紋! 特許は侵害されたのか!?
この裁判の対象となったのは、マネースクウェア・ジャパンの持ち株会社、マネースクウェアHDが持っている「トラリピ」に関する3つの特許(正確には提訴当初は2つの特許、係争中に1つ追加)で、外為オンラインの「サイクル注文」および「iサイクル注文」がこれらの特許を侵害しているとして、サービス差し止めを訴えていました。
そして、この裁判の判決を待たずして、2016年6月29日(水)にマネースクウェア・ジャパン側が再び、外為オンラインを特許侵害で訴えました。
【参考記事】
●「トラリピ」VS「iサイクル注文」第2ラウンド!?未決着の訴訟を抱えたまま新たな訴訟提起
この時は、「外為オンラインの『iサイクル注文』が、マネースクウェアHDの特許第5941237号を侵害している」として、サービス差し止めを請求しました。
その後、2017年2月10日(金)に、先の「3つの特許を侵害している」として提訴した裁判の判決が下され、「マネースクウェアHDの請求を棄却する」つまり、外為オンラインの勝訴、マネースクウェア・ジャパン側の敗訴という結果になりました。
【参考記事】
●どっちが勝訴? トラリピVSサイクル注文の特許権をめぐる地裁の裁判で判決が出た!
しかし、マネースクウェア・ジャパン側はこの判決を不服とし、2週間後の2017年2月24日(金)に知的財産高等裁判所に控訴を提起しました。
■裁判その2判決→裁判その3→裁判その2控訴へ!
それから5カ月たった2017年7月20日(木)、冒頭でお伝えしたとおり、両社の裁判に新たな判決が下されました。
それは、5カ月前の控訴に対してではなく、2016年6月29日(水)になされた2つ目の提訴に対してで、判決は「原告(株式会社マネースクウェアHD)の請求を棄却する」、つまり、外為オンラインの勝訴、マネースクウェア・ジャパン側の敗訴となりました。

ということで、マネースクウェア・ジャパン側の2連敗! これは痛い!と客観的には思ってしまうのですが、今回もマネースクウェア・ジャパン側はこの判決を不服とし、すかさず控訴手続きに入っているようです。
さらに、本判決が出される前日の2017年7月19日(水)に東京地裁に新たな訴訟を提起しているとのことで、知財を武器に戦う姿勢を貫いています。
■特許が公になった日に即提訴! それってもしかして…
ところで、この裁判の対象となった「特許第5941237号」はどのようなものなのかと思い、特許権の情報が掲載されている「特許公報」を確認してみると、気になる日付が。この「特許第5941237号」の発行日、つまりこの公報が発行され、特許が公になった日にちが2016年6月29日(水)となっているんです!
そう、この日はまさに、マネースクウェア・ジャパン側が外為オンラインに対して2つ目の訴訟を提起した日。となると、外為オンラインを訴えるためにこの特許を取得したのでは? と邪推してしまいますよね…?
もう少し詳しく「特許第5941237号」の特許公報を見ていくと、この特許の大元は、2010年5月に出願され、2014年8月15日(金)に登録された特許第5597027号。この特許第5597027号に対し、登録前の2014年8月8日(金)に分割出願(※)がなされており、2015年10月2日(金)に特許第5815815号として登録されました。
(※「分割出願」とは、特許の1つの出願中に2以上の発明などが含まれていた場合に、元の出願の一部を抜き出して行う新たな出願のこと。元の出願が登録される前に行わなくてはならないため、正確には分割出願がなされる際には元の出願に特許番号はつけられていないが、ここでは便宜上「特許第〇〇号」の分割出願という形式で記載している。以下同。)

さらに、その特許第5815815号が登録される少し前の2015年9月24日(木)に、この特許に対する分割出願がなされ、2016年9月9日(金)に特許第6001744号として登録されています。

さらにさらに、この特許6001744号の分割出願が2016年2月19日(金)の時点で出されており、実は特許6001744号より先に認められていて、今回の訴訟の対象となった「特許第5941237号」として2016年5月27日(金)に登録、2016年6月29日(水)に発行されているんです。

特許事情に詳しくない記者には不思議に感じられるのですが、「先に出願したものより後に出願した分割出願が先に認められる」というケースは、場合によってはあり得ることみたいです。
実は、この「特許第5941237号」は、通常と比べて審査結果が早く得られる「早期審査」が申請され、対象となっていました。そんなところからも、マネースクウェア・ジャパン側の急ぎっぷりがうかがえるような…。
ちなみに上の図をよく見ると、今回の「特許第5941237号」と並んで、もう1つ別の分割請求が出されていることがわかりますね。
■特許第5941237号は、特許第6001744号よりもざっくり?
では、2016年6月29日(水)に発行され、すぐ訴訟の対象とされた「特許第5941237号」は、その一段階前の特許第6001744号と何が違うのでしょうか。2つの特許請求の範囲の冒頭部分を比べてみると…
青文字が削除や追加、赤文字が文言変更部分になりますが、パッと見の印象として、「元あった文言を削除、もしくは、よりざっくりとした文言に変更している」という感じがします。
特許侵害が成立するための条件が、「『特許権を侵害している』とするものが、『特許請求の範囲』として記された構成要件を一部も欠くことなく満たしている」ということであることを踏まえると、「請求の範囲」を、よりざっくりした文章や文言にしておいた方が「構成要件を満たしている」と言いやすい…?
となると、やはりこの分割請求は外為オンラインを提訴するために…?
もっとも、特許の分割出願というのは知的財産を重んじる企業にとって戦略的に行うことは当然であり、ごくごく一般的なことだそうなので、マネースクウェア・ジャパン側が非道だとか非情だとかいうことは、まったくありません。ただ、一筋縄ではいかない戦いだということは、確かなようですね。
■外為オンラインも応戦! 現在も特許出願中!
もちろん外為オンラインも、ひたすら防戦しているだけではありません。マネースクウェア・ジャパン側が最初に提訴してきた裁判の判決が出る前の2016年4月15日(金)に、逆に「iサイクル注文」に関する特許を取得しています。
【参考記事】
●マネースクウェアHDと東京地裁で係争中でも関係なし!? 外為オンラインが特許取得!
これは、出願自体は裁判が始まるより前、さらに言うと「iサイクル注文」がリリースされるよりも前の2014年5月になされているため、たまたま登録されたのが係争中になってしまった、ということのようです。
また、最初の裁判の時点で、マネースクウェア・ジャパン側が後から追加してきた3つ目の特許(特許第5826909)については、外為オンラインが「無効である」と主張し、それが認められる判決が出ています。
さらに、外為オンラインは、2017年6月にリリースされた新サービス、「サイクル注文・ワイド方式」に関する特許を現在、出願中。
【参考記事】
●レンジ相場でリスクを軽減してコツコツ稼ぐ!サイクル注文&iサイクル注文に新機能登場
「サイクル注文・ワイド方式」とは、あらかじめ決めた「中心レート」を境にして、そこから上には「売」のイフダン注文を、そこから下には「買」のイフダン注文を自動的に設定できる新機能です。
両社一歩も譲らずといった感じのリピート系発注機能にまつわる知的財産権争い。切磋琢磨のおかげで、トレーダーにとってうれしいサービスが発明されるなら、大歓迎ですが…。やや押され気味? のマネースクウェア・ジャパンですが、今後どう動いていくのか…。
控訴審や新たな裁判のゆくえも含めて、引き続き、両社の戦いを見守っていきたいと思います!
>>>マネースクウェア・ジャパン[M2JFX]の最新スペック詳細はザイFX!の比較コンテンツをご覧ください
>>>外為オンライン[外為オンラインFX]の最新スペック詳細はザイFX!の比較コンテンツをご覧ください
(ザイFX!編集部・上岡由布子)
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