■世界の外国為替市場ではトルコリラ/円の取引金額は0.1%
さらに、世界の外国為替市場において、トルコリラはどんな取引状況になっているか、見てみよう。
国際決済銀行(BIS)が発表した、2016年の世界の外国為替市場における通貨ペア別取引金額が次の円グラフだ。

(出所:国際決済銀行のデータより、ザイFX!編集部が作成)
シェア第1位はユーロ/米ドル。以下、米ドル/円、英ポンド/米ドルと続き、米ドルが絡んだ、いわゆるドルストレートの通貨ペアが上位を占めていることがわかるが、トルコリラ/円は第37位で、全体のわずか0.1%に当たる取引金額しかない。これは建玉金額ではなく、取引金額のデータではあるが、建玉金額もおそらく非常に少ない数字になるものと思われる。
これらのデータを見ると、建玉数量が18.99%で第2位、取引数量が13.72%で第2位という、くりっく365におけるトルコリラ/円が実に特異なものであることがわかるだろう。
世界的にも珍しい為替の取引所取引を提供するくりっく365。この取引所では、マイナー通貨ペアであるはずのトルコリラ/円のシェアが米ドル/円に次ぐ第2位というポジションにあるのだ。その特異性は世界のFX業界の中でも際立ったものになっていると思われる。
■約160億円分ものポジションが一気に消滅した!?
ここで前回の記事で取り上げたトルコリラ/円の1分足チャートに今一度、戻ってみよう。
【参考記事】
●衝撃の13分間。崩れ落ちたトルコリラ/円の真相とは? 暴落の震源地は日本にあった!?のかも…(1)
(出所:サクソバンク証券)
トルコリラ/円は7時4分の大きな下げのあとも、乱高下しつつさらに大きく下落した。ただ、どこまでも奈落の底に沈んでいったわけではなかった。7時10分を少し過ぎたあたりで反転し始めている。このサクソバンク証券のチャートでは安値をつけたのが7時13分となっている。
このときの市場は混乱していたようだから、安値をつけた時刻はFX会社によって少し違っているかもしれないが、おおよそ7時10分過ぎぐらいから反転し始め、その後、2~3日で30円台後半まで戻す展開となったことは変わらない。
(出所:サクソバンク証券)
ここでポイントになると思われるのは「7時10分」という時刻だ。
7時10分には何があるのだろうか?
それはくりっく365の取引開始時刻なのである。
月曜朝は7時から取引が始まるFX会社が非常に多い中、なぜかくりっく365は10分だけ少し遅れて、中途半端な時刻から取引が始まるのだ。
土日のうちに何か大きな出来事があり、月曜日オープンから相場が一方向に大きく動いたときなどは、くりっく365でポジションを持っていると、一歩遅れて対応しないといけないことになる。
そして、今回のようなケースで取引が開始されれば、7時10分の取引開始直後にくりっく365ではストップロス注文が執行されたり、強制的なロスカットが行われたりすることだろう。何しろトルコリラ/円の買い建玉は大きく積み上がっていたのだ。
そして、それによって、さらに相場は下落することになるだろう。
そう考えて、投機筋は7時10分の少し前に大規模な売り仕掛けを行うのではないだろうか? 7時10分というくりっく365の取引開始時刻は絶好のターゲットになってしまうのではないか。
実際、この日、くりっく365のトルコリラ/円は1日で約5万3000枚も建玉数量が減少している。トルコリラ/円のレートを仮に30円とすれば、約5万3000枚とは日本円にして約160億円分ものポジションということになる。それがおそらく7時10分の取引開始直後の数分のうちに一気に減少したのだ。

(出所:東京金融取引所の発表データより、ザイFX!編集部が作成)
この流れは店頭FXの方にも波及し、また、そこでストップロス注文が執行されたり、強制的なロスカットが行われたりすることもありそうだ。
そのとき、相場はパニックの頂点に達する。そして、そのときこそが売りを仕掛けたと筆者が想像する投機筋が買い戻しを入れるチャンスである。こうしてパニックの中、買い戻しが入り、相場は反転していったのではないだろうか?
■原因とされるニュースで下がった分は数十銭だけ?
まとめると、トルコリラ/円を売り崩す諸条件が揃ったと考えた海外投機筋がパンパンに膨れ上がったくりっく365のトルコリラ/円買い建玉を狙い、7時10分のくりっく365取引開始前に大きくトルコリラを売り(その前からも少しずつ売っていたかもしれないが)、そして、くりっく365の取引開始後にさらに相場が急落するのを見て買い戻しに入った──これが筆者の想像の全体像である。
10月9日(月)の暴落騒動があった翌週末、10月20日(金)時点でトルコリラ/円は30円台後半を推移していた。暴落騒動が起きる前のトルコリラ/円は31円台前半だった。だから、相場は戻しきらなかったのだが、この31円台前半と30円台後半の数十銭の値幅だけが「トルコと米国のビザ発給相互停止」というニュースを直接反映したものではないだろうか(※)。
(※その後のトルコリラ/円はまた下落し始めているが、それについては後述する)
(出所:サクソバンク証券)
実際、上のチャートに緩やかな右肩下がりの矢印で示したとおり、急落前の緩やかな下落トレンドを延長すると、ちょうどよく10月20日(金)あたりの実勢レートにたどりつくのだ。繰り返しになるが、ファンダメンタルズを反映した下落の値幅はこれぐらいなのではないだろうか。
10月9日(月)、体育の日に刻まれたトルコリラ/円の長い長い下ヒゲは、積み上がり過ぎたくりっく365における買いポジションと、それを情報開示していることによってもたらされた投機筋の売り仕掛けによって形成されたものであり、本来はなくてもよかったものではなかったのか──筆者はそのように想像している。
そんなことも含めて、それが相場だと言われれば、たしかにそのとおりではあるのだが…。
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)