■事の発端は米国!? 他の新興国通貨も似たような動き
今回のアルゼンチンペソ暴落と、それを回避するための中銀による急激な利上げの背景には、大きな存在があります。
その大きな存在とは、先ほども少し出てきた米国です。
米国の10年物国債の金利、いわゆる長期金利は、FRB(米連邦準備制度理事会)が今後も継続的に利上げを実施していきそうだという見方も背景に、2018年に入ってから上昇が加速しました。2月に、いったん3%手前で失速したものの、先ほど触れたように、4月に3%を超える場面がありました。

(出所:Bloomberg)
そういった状況に加え、トランプ政権の大規模な景気刺激策による米国の景気拡大期待があわさり、新興国から米国への資金移動が加速しているようで、為替市場では4月中旬ごろから、米金利の上昇につれて米ドル高が進んでいます。
以下は、米ドルの相対的な強さを確認するために良く見られるドルインデックスの日足チャートですが、たしかに米長期金利が3%乗せに向かって上昇する動きにあわせて、ドルインデックスも強い動きとなっています。

(出所:Bloomberg)
こうした米国の事情が、アルゼンチンペソの下落やBCRAの断続的な利上げの背景になっているのであれば、アルゼンチンだけでなく、他の新興国でも同じような状況になっているかもしれません。
そこでアルゼンチンを含む、おもだった新興国通貨の対米ドルでの年初来の騰落率を調べてみました。

※2018年1月2日(火)~2018年5月7日(月)の期間
※Bloombergのデータを基にザイFX!が作成
米ドルが全面高になっているわけではないものの、今回取り上げたアルゼンチンペソだけでなく、高金利で日本の投資家からの人気も高いトルコリラや、ロシアルーブル、ブラジルレアルなども、対米ドルで結構、売られているのがわかりますね。また、南アフリカランドも、大きくはありませんが対米ドルで下落しています。
やや意外(?)なのがメキシコペソでしょうか。NAFTA(北米自由貿易協定)再交渉への期待もあるのか、わずかではありますが、年初と比較すると対米ドルで上昇していますね。
以下ではアルゼンチンペソ、トルコリラ、ブラジルレアル、ロシアルーブルの、2018年以降の対米ドル相場の日足チャートを、米ドルに対してどれだけ下落・上昇したかがわかりやすいように、縦軸を反転させて並べたものです。

(出所:Bloomberg)
こうやってみると、やはり、どの通貨も米ドルに対して弱い動きをしています。
アルゼンチンペソが対米ドルで市場最安値を更新したのは5月3日(木)。お伝えしたように、翌日4日(金)に、一気に6.75%の追加利上げを行ったことで、いったんアルゼンチンペソ安は落ち着きました。
一方で、トルコリラとブラジルレアルは、5月4日(金)に安値を塗り替えています。まったく同じではありませんが、新興国通貨の多くが、似たような動きをしているようにも見えますね。
しかし、そもそもトルコリラに関しては、トルコの政治的な不透明要素も影響していると考えられます。
また、ロシアルーブルが4月に急落したのは、ロシアが2016年の米大統領選にサイバー攻撃などで介入したことを理由に、米財務省がロシアに対して追加経済制裁を実施したことも理由となっていそうです。さらに、米国が英国、フランスと合同でシリアに軍事行動を起こしたことで、シリア政権を軍事支援するロシアの動向が警戒された面もあったと思います。
そう考えると、新興国通貨の下落の要因は一様ではありません。そして、メキシコペソのように例外もありますが、傾向としてはだいたい、似たような動きをしている通貨が多いことも確かです。
今後も米金利の上昇と米ドル高が続き、新興国から米国への資金移動が断続的に引き起こされるようであれば、今回のアルゼンチンのように、新興国は緊急の利上げや為替介入などを通じて、自国通貨の下落や国外への資金流出に歯止めをかけるための対応に追われることになるかもしれませんね。
(ザイFX!編集部・堀之内智)
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