メディアでは、尖閣諸島をめぐる日中問題、検察の証拠改ざん問題、偶然を装った廊下での日中首脳会談など、さまざまな重要課題がクローズアップされており、為替相場や日本の為替介入についての報道が薄らいだ感がある。
もちろん、それらは現時点で為替相場の動向よりも重要な課題であるので、このようなメディアの反応も理解できる。
しかし、報道が薄らいだからといって、単独介入という手段を用いた日本に対する欧米諸国の反応が和らいだわけではなく、相変わらず冷やかな目で見られている。
為替相場や世界情勢に無頓着な人々は、「円高は輸出企業に打撃を与えるので、介入は正しい行為だった」と短絡的に考えがちだ。
だが、変動相場制を採用している以上、為替相場はマーケットの実勢に任せるべきであり、国家が介入によって需給をねじ曲げ、意図的に為替レートを誘導すべきではない。
もちろん、有事の際に国家が介入したり、外国為替市場をサポートすることは否定しない。ただし、その場合には世界を納得させるだけの大義名分が必要だ。
しかし、1ドル=82円という水準は有事ではないし、輸出企業が苦しんでいるという理由だけで、世界が納得するはずはない。
■日銀の量的緩和の規模は米国の20分の1に過ぎない
そもそも、輸出企業がもうからないから為替レートを円安に誘導するという発想が本末転倒であり、本来は、企業が為替レートに合わせた戦略を採るべきだ。
それでも、国家的見地から円安誘導が必要な場合には、金融政策によって誘導すべきであろう。
つまり、「金融緩和」を行うべきだ。
これ以上金利を下げることができないなら、米国と同じように「量的緩和」を検討すべきだ。それもできないというのであれば、為替相場は市場実勢に任せるしかない。
日銀が10月5日(火)に追加の金融緩和を決定したが、その内容は米国と比べると非常に弱いものである。
日米ともに、もともと「実質ゼロ金利」なのだから、金融緩和策を採るならば、量的緩和を行うしかない。ところが、日銀が行う量的緩和の規模は、米国の20分の1に過ぎない。

グローバル化した金融市場においては、それぞれの国の都合で政策を採択しても有効なものとはならない。
米国と相対的に比べるならば、日銀が行うこの程度の量的緩和策では「非常に弱い金融緩和策である」とマーケットに判断されてしまう。
結論として、日本は金融政策での円安誘導を行っていないことになる。
■欧米の批判を考慮すると82円台程度では介入できない
これまで為替介入で批判を浴びていたのは、恒常的な為替操作によって人民元安方向に誘導している中国だった。だが、今回の介入によって、日本も中国と同じ立場に立たされた。
それどころか、日本の介入に乗じて、中国は人民元相場をわずかに元高方向へ誘導し、操作をしていないとアピールしている。世界の批判を日本に向けさせようとしているのだ。
中国にまで「はしご」を外された日本には、先進国としての誇りはないのだろうか?
今のところ、日本が実施した市場介入は9月15日(水)だけだったと考えている。
9月24日(金)の東京市場で、再度「円売り・米ドル買い介入」のような値動きが見られたが、個人的には、これは介入ではなく、介入を装った短期売買ではないかと考えている。
このように、介入を装って、短期的な売買で利益を上げようとする行為を「なんちゃって介入」と呼ぶ。9月24日(金)の東京市場の値動きは、その「なんちゃって介入」だと考えているのだ。
基本的な考え方は変わっていない。
結論として、米ドル/円の「米ドル安・円高トレンド」が持続・継続しており、今のところ、トレンド転換の兆しはまったくないと判断している。
現時点では、介入が行われたのは9月15日(水)の1日だけだろう。
だが、80円を割り込むような展開になれば「スムージング・オペレーション」を大義名分に、再び介入が行われる可能性は否定しない。
ただ、欧米からの批判を考慮すると、82円台程度の水準では介入を行えないのではないかと見ている。
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