これに照らせば、足元の状況は、米ドルのショートポジション(売り持ち)と株のロングポジション(買い持ち)を持つ投資家にとっては、楽観が幸福に変わっている時期であるだろう。
しかし、通貨先物市場では、米ドルのショートポジションがかなり積み上げられ、逆に、豪ドルと円のロングポジションは歴史的に高い水準にあり、反転リスクが増大していることを暗示している。
つまり、格言の「幸福とともに消えていく」のとおりになれば、米ドル安から米ドル高へ、そろそろ反転するかもしれないということだ。
筆者は、必ずしも、米ドルの反転を確信しているわけではない。だが、現時点においては、米ドルの安値追いに対して慎重なスタンスを取りたいと思う。
■「円キャリートレード」崩壊のメカニズム
ところで、米ドル/円は、2008年12月と2009年1月に87.12円レベルの安値をつけて、「ダブルボトム」を形成していた。前述した「当時は、米ドル安ではなく、米ドル高に対する恐怖がマーケットを覆っていた」の記述とは、かなり相違するものである。
実は、米ドル/円だけが、米ドル全体のパフォーマンスと遊離していたのだ。それは、「リーマン・ショック」以降、円と米ドルの両方がリスク回避先通貨として買われたことから生じた「ねじれ」であった。
具体的に説明する。2005年から「円キャリートレード」が盛んに行われ、米ドル/円を含めて、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)相場における円のロングポジションは、莫大なレベルまで積み上げられていた。
その結果、「リーマン・ショック」に端を発した米ドル資産への逃避により、(米ドル以外の)外貨安/円高までもが引き起こされ、雪崩を打った形で円高が次の円高を呼び、「円キャリートレード」を一気に崩壊させたのだ。
この事実から得られた重要な結論とは、米ドルとは異なり、円が資産として評価されたのは「円キャリートレード」の崩壊による受動的な要素が大きく、円そのものの価値が評価されたわけではないということだ。
■円高が進まなければ、円ロングの投げ売りが出てくる!
そうなると、仮に米ドル全面安がこれから進むとしても、かつてのような円高をもたらす原動力が見当たらない。「円キャリートレード」はすでに崩壊し、死語になってしまったからだ。
米ドル安の受け皿が、ユーロや豪ドルから、円に取って代わることは想定しにくい。
しかし、米ドルが反騰してきたならば、事情は異なってくる。前述のように、豪ドルと円のロングポジションの積み上げが突出しており、米ドル高は、対円、対豪ドルで進行しやすいと考えられる。
また、東京金融取引所のくりっく365のデータによると、日本人投資家による円のロングポジションは、くりっく365の取引開始以来、最高の水準まで積み上げられているという。
これは、警戒のサインとして受け止めたいもので、特に注意したい。
足元では、米ドル/円は90円割れを回避し、底打ちの兆しを見せている。これ以上円高が進行しなければ、円のロング筋の投げ売りが出てくることも想定しておくべきであろう。

■9月と10月は、米ドル高へ転換しやすい時期!
最後に、サイクル論の視点から見れば、9月と10月は、米ドル高へ転換しやすい時期でもある。
サイクル論の解釈はかなり主観的な要素を伴うため、必ずしも確率の高いアナリシス手法とは言えないが、これまで述べてきた状況を総合的に考慮すると、ここで今一度、冷静に相場を見極める必要があると思う。
(2009年9月18日 東京時間18:00記述)
※9月25日(金)のコラムは、海外出張のため、お休みさせていただきます。
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