まずは、ユーロ/米ドルの月足チャートをご覧いただきたい。
これは180本足(180カ月分)のチャートだ。
ユーロ/米ドルは、2001~2002年頃を起点にして大きく上昇を始めており、俯瞰(ふかん)してみると、その上昇は2008年まで持続した。
この6~7年におよぶ上昇の過程については、トレンドラインとして、緑の破線でサポートラインが引ける。つまり、2001年頃から2008年前半にかけては、明確に「ユーロ高・米ドル安トレンド」である。
だが、2008年に緑の破線のサポートラインを割り込み、クラッシュ(大暴落)を起こした。これでトレンド転換が起こり、「ユーロ安・米ドル高トレンド」に転換したと考えられる。
2008年後半から2009年年初にかけては「ユーロ安・米ドル高トレンド」であり、安値は1.2300ドルレベル、高値は1.4000ドルレベルの安値圏での「保ち合い相場」を形成していたが、2009年は総じて見れば「ユーロ高・米ドル安」気味に推移した。
結果的に、2009年が「ユーロ高・米ドル安」気味に推移した理由は、米国が米ドルの超低金利政策(ゼロ金利政策)をとり、かつ、米ドル資金をじゃぶじゃぶに供給したので「ドル余り現象」が起こり、米ドルからユーロへの資金移動が起きたからだろう。
これは、いわゆる「ドル・キャリー・トレード」であり、米ドルよりもユーロの金利のほうが高かったので、その金利差享受を狙った動きでもある。
2009年後半まで、この「ドル・キャリー・トレード」拡大の動きが見られた。
ところが、2009年後半になると、ギリシャの財政問題がきっかけになって、ユーロ/米ドルは下落を始める。
月足チャートを見てわかるとおりに、2009年12月以降は1.51ドル台から1.18ドル台へと大きく下落した。
ただ、1.18ドル台の安値をつけてからは、現時点で1.42ドル台までの大きなリバウンド(反発上昇)を見せている。
これは、予想外に大きい反発だったと個人的に感じているが、米国の金融緩和策(量的緩和策)を先取りして、再び「ドル・キャリー・トレード」が拡大したためなのだろう。
■中長期で見れば、ユーロ/米ドルは高値圏での乱高下か
11月上旬に行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)で、追加の量的緩和策が決められた。その規模は、事前予想の5000億ドルを上回り、6000億ドルの金融緩和策となった。
マーケットは、この米国の金融緩和策(量的緩和策)をかなり織り込んだ状態だと考えているが、相対的に、ユーロ/米ドルはまだ高い水準にとどまっている。
月足チャートには、2008年の高値と2009年の高値を結ぶラインを、中長期のレジスタンスラインとしてピンクの破線で引いた。
また、便宜的に、現時点で中長期のサポートラインと考えられるものを青の破線で表示した。
さて、あくまで個人的な思惑に過ぎないものの、足元のユーロ/米ドルが、ピンクの破線を上限、青の破線を下限として、大きく上下動をしていると見ている。
つまり、中長期のスタンスで見れば、ユーロ/米ドルが高値圏で乱高下しているとも考えられる。
ちなみに、今後の値動きしだいでは「ヘッド&ショルダー(※)」の可能性も考える必要があるかもしれない。
ただし、現時点でそのような発想は時期尚早であり、その説明はあえて省く。説明する必要が明白になったときに、このコラムで示すこととする。
(※編集部注:「ヘッド&ショルダー」はチャートのパターンの1つで、天井を示す典型的な形とされている。人の頭と両肩に見立てて「ヘッド&ショルダー」と呼び、仏像が3体並んでいるように見えるため「三尊」と呼ぶこともある)
■「ダブル・トップ」は完成したが、フェイルが起きた
続いて、ユーロ/米ドルの週足チャートをご覧いただきたい。
これは300本足(300週分)のチャートだ。
週足チャートを俯瞰(ふかん)してみると、緑の破線で示した1.2300ドルレベルを基準にして、ピンクの破線で示したような「2つの山」が見える。
つまり、ユーロ/米ドルは典型的な「ダブル・トップ」を完成した。
この「ダブル・トップ」のネックライン(基準となる下値)は1.2300ドルレベルであり、これを下抜けた時点で「ダブル・トップ」が完成し、その時点で「売りシグナル」を点灯させている。
チャートのセオリーでは、「ダブル・トップ」が完成した場合は、その後に大きく下落する。
しかし、典型的な「ダブル・トップ」を完成したにもかかわらず、今回はそのセオリーどおりには動かず、フェイル(失敗・ダマシ)を起こしたと判断している。
■ようやく、欧州の不良債権問題が注目され始めた
ユーロ/米ドルは「ダブル・トップ」を完成したものの、フェイル(失敗・ダマシ)を起こし、新たな上昇を始めたと考えている。
しかし、これだけ大きな上昇があったものの、スタンスとしては「ユーロ買い・米ドル売り」でついて行く気持ちにはなれなかった。
これだけ大きく上昇し、かつ、1.42ドル台まで上昇したのだから、このユーロ/ドルの値動きにはついていけなかったと反省している。
ただし、フェイル(失敗・ダマシ)が事前に誰にもわからないことを踏まえると、フェイル(失敗・ダマシ)が起こる場合、だまされることが大事だと、決して「負け惜しみ」ではなく、考えている。
今後の展開において、「ヘッド&ショルダー」が作られる場合や、逆に、大きな「フラッグ」が作られるようなケースになれば、フェイル(失敗・ダマシ)でだまされたことが、後々の勝ちにつながる。
相場で戦う場合、100%勝つことはできない。
100%勝つためには「フェイル(失敗・ダマシ)」が起こる場合に、事前にそれが「フェイル(失敗・ダマシ)」であると気づく必要があるが、それは不可能なことだ。
個人的には、「フェイル(失敗・ダマシ)」が起こる場合に進んでだまされることも「次に勝つための布石」であると考えている。すなわち、生き残る術(すべ)である。
ユーロ/米ドルが1.18ドル台から1.42ドル台まで上昇する過程で、次のように述べてきた(「FRBの追加緩和は相場に織り込まれた。再び欧州の不良資産問題が重大視される」を参照)。
・1.51ドル台から1.18ドル台までユーロ/米ドルが下落した理由は、欧州の金融機関が保有している不良債権(不良資産)問題だ。だが、その問題は何も解決していない。
・それにもかかわらず、1.18ドル台から1.42ドル台まで上昇してくる過程において、欧州の不良債権問題は無視され続けてきた。
このところのユーロ/米ドルの上昇は、米国の金融緩和策(量的緩和)が材料にされている。
米国が量的緩和策を行う場合、米ドルからユーロへ資金が流れるだろうといった考え方が先取りされて、このような値動きになったわけだ。
だが、11月になってようやく、欧州の不良債権(不良資産)問題にマーケットの目が集まり始めたと感じている。
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