世の中の仕組みと人生のデザイン | 橘 玲

世の中の仕組みと人生のデザイン l 橘 玲

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経済的独立すなわち自由は、世の中の仕組みを正しく理解し、最適な人生の戦略をデザインすることで、もっとも確実に達成できる。
世の中(世界)はどんな仕組みで動いているのだろう。そのなかで私たちは、どのように自分や家族の人生を設計(デザイン)していけばいいのだろうか。経済、社会から国際問題、自己啓発まで、さまざまな視点から「いまをいかに生きるか」を考えていきます。質問も随時受け付けます。

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【DIAMOND PREMIUM MAILMAGAZINE】世の中の仕組みと人生のデザイン
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(2017年1月5日配信分より抜粋)

 昨年末に久しぶりにアメリカを旅したのだが、ホテルでCNNを観ていたら、「トランプが親族を政権チームに加えるのはおかしい」という批判をずっとやっていた。「ヒラリー・クリントンが娘のチェルシーを政権入りさせても共和党は文句をいわないのか」というわけだ。

 その後、オバマ大統領が「ロシアのサイバー攻撃が行なわれた証拠がある」と発表したことで、「トランプが大統領になったのはプーチンの陰謀だ」という報道が溢れた。

 そのあとは、中国が南シナ海で米海軍の無人潜水機を奪取した事件を、トランプがTwitterで「unprecedented(前例のない)」の代わりに「unpresidented(大統領としてふさわしくない)」と書き間違えたことを繰り返しネタにしていた。トランプが大統領職にあるこれから4年間、アメリカでは同じような「ニュース」がえんえんと繰り返されることになるのだろう。

 なぜこんなことになったのか。2017年の最初に、このことを「ポピュリズム」をキーワードに考えてみたい。なぜならトランプは、ヨーロッパを席巻する右派ポピュリズムの「成功の法則」をそのままアメリカに持ち込んで、「世界最強の権力者」の座を勝ち取ったのだ。


■先進国型の右派ポピュリズムとは?

 ポピュリズムの定義は難しいが、私の理解では、それはなんらかの主義(イズム)というよりも、大衆を動員する政治手法のことだ。そのためポピュリズムは、左派から右派までさまざまな政治的主張と組み合わせることが可能だ。

 南米のように貧富の格差が大きく、膨大な数の貧困層を抱える社会では、ばらまき的な福祉政策で大衆の歓心を買おうとする左派ポピュリズムが台頭する。古くはアルゼンチンのペロン政権から最近ではベネズエラのチャベス政権まで、南米の政治はポピュリズムによって動いているといっても過言ではない。

 リベラルデモクラシー(代表民主政)は、選挙によってもっとも多くの票を集めた政治家に権力を賦与する仕組みだから、有権者を効果的に動員しようとするポピュリズムは民主政の同義語のようなものだ。実際、フィリピンのドゥテルテ大統領をはじめとして、アジアやアフリカ、中東の国々にもポピュリストと呼ばれる政治指導者はいくらでもいる。

「カネで有権者を釣る」左派ポピュリズムは後進国(発展途上国)に特有の政治現象とされ、洗練された先進国では克服されたと考えられてきた。だがユーロ危機で財政破綻寸前に追い込まれたギリシアでは急進左派連合のチプラス政権が誕生し、スペインでは新左翼のポデモスが、イタリアでは人気コメディアンが率いる「反資本主義」の5つ星運動が党勢を拡大している。ヨーロッパは「北」と「南」に分断されており、“後進性”の強い「南」では左派ポピュリズム(空想的理想主義)がいまも強い誘引力を持つのだ。

 ところがもっとも政治的に進んでいるはずの「北のヨーロッパ」で、新しいタイプのポピュリズムが台頭してきた。国ごとにさまざまな政策を掲げる政党があるが、近年ではその主張は「反移民」「反EU」に収斂している。これを、(後進国型の)左派ポピュリズムに対して、先進国型の右派ポピュリズムと呼ぼう。

 この右派ポピュリズムは、イギリスをEUから離脱させただけでなく、デンマークやオランダでは(閣外協力ではあれ)政権の一角を占め、オーストリアでは連立政権で内閣を組織したばかりか、昨年12月の大統領選挙(再選挙)ではあと一歩で「極右」の大統領を誕生させるまでに迫った。

 今年もヨーロッパでは重要な選挙が予定されているが、3月のオランダ議会選挙で移民排斥を求める自由党が票を伸ばし、4月末と5月はじめに行なわれるフランス大統領選では国民戦線のマリーヌ・ルペンが決選投票に進むことが確実視されている。さらにヨーロッパのリベラル勢力を支えるドイツのメルケル政権も、9月の連邦議会選挙では、難民受け入れを批判する「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進に大きく揺さぶられることが予想されている。

 右派ポピュリズムはこれまで、「移民(難民)問題」を抱えるヨーロッパに特有の現象だと考えられてきたが、トランプ旋風は、大西洋を越えたアメリカでもまったく同じことが起きていることを示した。なぜ「ポピュリズム」は、これほどまで大きな影響力を持つようになったのだろうか。


■欧米の右派ポピュリズムとイスラーム原理主義のテロリストは共生関係

 ポピュリズムとは、左派・右派にかかわらず、大衆を動員する政治手法のことで、有権者を惹きつけるもっとも効果的な方法は、彼らの理性ではなく感情に訴えることだ。これが「反知性主義」で、社会を不当に支配しているエリートを批判し、「理屈(知性)よりもひとびとの本音(感情)に寄り添うことが真のデモクラシーだ」と主張する。

 ポピュリズムの特徴は、複雑な現実を単純な図式に落とし込んで、善悪二元論の勧善懲悪の物語をつくることだ。ハリウッド映画が典型だが、人類は「俺たち」を善=光とし、「奴ら」を悪=闇として、光と闇のたたかいの果てに最後は正義(善)が勝つ、という物語をえんえんと紡ぎつづけてきた。ポピュリストの政治家はこのことをよく知っているので、感情に訴える巧妙な物語で大衆を動員する。ここでのポイントは、「物語(フィクション)」である以上、それが事実かどうかは(無視できるわけではないものの)二の次だということだ。ポピュリズムは原理的に、「Post-truth(客観的事実が意味を持たない)」なのだ。

 ポピュリズムのもうひとつの特徴は、議会による議論よりも国民投票や住民投票によって決着をつけるよう求めることだ。知性ではなく感情に訴えるポピュリストの手法は、議会での複雑な議論ではなく、一発勝負の直接民主政でもっとも大きな効果を発揮する。これが、イギリスの国会議員の大半がEU残留を支持していたにもかかわらず、国民投票で離脱派が逆転勝利した理由だ。この構図は米大統領選でも同じで、それが一種の国民投票であるからこそ、トランプのポピュリスト的戦略が予想外の結果をもたらしたのだ。

 左派ポピュリズムの定番の物語が、「善良な民衆が悪の権力者(最近では外国資本やグローバリズム)によって搾取されている」というものだとすると、右派ポピュリズムの物語は、「何者かがあなたや家族の生命・生活を脅かしている」というものだ。ヨーロッパの場合この脅威はイスラーム(ムスリム移民)で、トランプはこの構図をそのままアメリカに持ち込んで、メキシコなどからのヒスパニックの移民がアメリカの中流白人層の仕事を不当に奪っていると主張し、それにイスラーム過激派の治安上の脅威を加えた。

 ひとびとの知性ではなく感情に直接訴える物語は、とてつもなく強力だ。「愛する子どもの生命が危ない」といわれれば、その警告を無視できるひとはいないだろう。そのうえこの警告には、フランスやベルギー、ドイツなどでのテロ(さかのぼれば9.11の同時多発テロ)といった強力な「証拠」もある。2015年のシャルリー・エブド襲撃事件のときは、多くのメディアは「テロリストはごく一部の狂信者でイスラームとは関係ない」と口をそろえたが、IS(イスラーム国)の戦闘員やシンパのテロがヨーロッパ各地で次々と起こると、こうしたクリシェ(決まり文句)は現実の前に説得力を失い消えていった。


 これは成熟した先進国が、「安全」にきわめて大きな価値を置く「リスク社会」になったからだ。統計上は、子どもが誘拐される危険は交通事故にあう確率よりはるかに低いが、それでも最近のマンションでは、「知らない大人に声をかけられても無視するように教えているから、子どもに挨拶しないでください」との回覧がまわるという。こうした状況は日本だけでなく先進国に共通で、これほどまでリスクに敏感になった社会が、カフェで談笑していたひとたちが無差別に銃撃されたり、花火や祭りを楽しんでいたところに大型トラックが突っ込んでくるような非日常的な凶行を許容できるはずはない。この圧倒的なリアリティによって、右派ポピュリズムはリベラルな文化多元主義のきれいごとを粉砕していく。

 この問題が解決困難なのは、イスラーム原理主義のカルト集団が、リスクを極度に恐れるようになった欧米社会の弱点を知悉したうえで無差別テロを仕掛けていることだ。これによって右派ポピュリズムに火がつき、ムスリム移民が差別され排斥されれば、過激なイスラームの支持者が増えて戦闘員のリクルートが容易になる。彼らにとっては、十字軍の時代からつづく「西欧対イスラーム」の殺し合いの構図をつくりだすことが、自らの勢力を拡大するもっとも効果的な手段なのだ。

 その意味で、欧米の右派ポピュリズムとイスラーム原理主義のテロリストは一種の共生関係にある。そして残念なことに、この強力なつながりを切り離す方途はいまのところ見当たらない。


■「移民・治安・失業」を武器に右派ポピュリズムは影響力を拡大

 右派ポピュリズムのもうひとつの定番の物語は、「移民が善良な国民の仕事を奪っている」というものだ。アメリカの場合はこれに、「中国(かつては日本)が為替操作や貿易障壁によって不正な利益を得ている」という物語が加わる。イギリスをEUから離脱させたのは、この物語のちからだ。

「あなたや愛する家族の生命が狙われている」という物語はすべてのひとに影響を与えるが、「あなたの仕事が奪われている」という物語は、その効果が明確に二極化する。当たり前だが、仕事を奪われるおそれがないひとたちにとってもはなんの意味もないたわごとに過ぎないからだ。

 先進国ではどこも格差の拡大が大きな社会問題になっているが、格差社会の「勝ち組」には右派ポピュリズムの物語はなんの効果もない。彼らの典型はアメリカの東海岸(ニューヨーク・ボストン・ワシントン)や西海岸(ロサンゼルス、サンフランシスコ)に住む富裕層で、金融やITなどの知識産業や弁護士・会計士・医師などの専門職に従事している。彼らニューリッチは移民と経済上の競合関係にないばかりか、移民の低廉な労働力から利益を得ているから、右派ポピュリズムの移民排斥の主張には批判的だ。そのうえ彼らは生活に余裕があるから、貧しい境遇の移民や難民に同情することもできる。こうした事情はヨーロッパでも同じで、彼らが「リベラル」の中核になっている。

 その一方で、格差社会の「負け組」もふたつのグループに分かれている。ひとつは「社会的弱者」「マイノリティ」と呼ばれるひとたちで、アメリカでは黒人層、ヨーロッパではムスリム移民が典型だが、アファーマティブアクション(積極的差別是正措置)や社会福祉の対象となっている。もうひとつのグループは中流から脱落しつつあるひとたちで、彼らは生活が苦しくなったものの福祉の受益者にはなっていない。そして右派ポピュリズムは、このあやうい中流層に向かって「“弱者”を装い働きもせずに福祉で暮らしている奴らに善良な市民が搾取されている」という物語を囁くのだ。

 格差社会では、一般に思われているように、「1%」の富裕層と「99%」の貧困層が対立しているのではない。日本の“ナマポ”批判を見てもわかるように、中流以下の層が二分され、「負担者(福祉の受給額より納税額が多いひとたち)」が「受益者(納税せずに生活保護などを受給しているひとたち)」を激しくバッシングするのだ。

 さらにやっかいなことに、すくなくとも欧米においては、右派ポピュリズムのこの物語は一定の説得力を持っている。それは、「負担者」と「受益者」の関係が固定化しているからだ。わかりやすくいえば、福祉の対象になるのはいつまでたっても、アメリカでは黒人、ヨーロッパではムスリム移民なのだ。

 これはもちろん、彼らの「自己責任」ということではない。リベラル派の主張するように、明示的な、あるいは暗黙の差別や偏見があって、特定のマイノリティが社会的に成功できないのかもしれない。

 しかしリベラルのこの論法は、原理的な困難を抱えている。それは説得すべき対象である白人主流派に対して、「レイシスト(人種差別主義者)」のレッテルを貼りつけることになるからだ。さらに事実として、リベラルな福祉政策はマイノリティの貧困を解決するという結果を出すことができない。そうなると、リベラルの論理では、白人主流派の「見えない差別」がますます激しくなっている、ということになるほかはない。

 相手を「悪」と決めつけてから説得しようとすれば、ほとんどのひとは反発して去っていくだろう。それに対して右派ポピュリズムは、こうした「PC(政治的な正しさ)」をまやかしだと批判する。彼らの理屈では、「社会的弱者」が貧困から抜け出せないのは福祉によって働かなくても生きていけるからだ。麻薬中毒と同じように、福祉依存症から立ち直らせるには福祉を止めるしかない。働かなくては生きていけない状況に置かれれば、働きはじめるというわけだ。

 当然のことながら、話はそう単純ではないだろう。しかしその一方で、右派ポピュリズムの主張がすべて間違っているということもできない。どちらが正しいか判然としないのであれば、自分にとって気分のいい方を選ぶのは当たり前のことだ。このようにして、「安全」と同様に「経済」の物語でも、既存のリベラルは右派ポピュリズムの前に敗れ去っていくほかない。

 だがこのことは、欧米の政治が右派ポピュリズムによって支配されるということを意味するわけではない。これまで述べてきたように、ポピュリズムは複雑な現実を単純化して感情に訴える「物語」だから、政権の座に着いたり与党の一角を占めるようになれば、そのフィクションは現実政治の前に破綻せざるを得ないのだ。

 日本における「維新」の運動でも見られたが、ヨーロッパにおいても、ポピュリスト政党が政権に近づくと原理主義と現実主義に分裂して内紛を起こしたり、連立相手の大政党の右傾化によって吸収されていく、というのが一般的だ。イギリスのEU離脱でも、立役者となったイギリス独立党が国政に関与できるようになったわけではなく、逆に党の存在意義を失いつつある。

 しかしそれでも、「移民・治安・失業」という物語の核が変わらない以上、右派ポピュリズムはひとびとに大きな影響力を行使しつづける。これからの世界が、そのフィクションに振り回されるのは避けられないだろう。

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※メールマガジンを一部抜粋して掲載しています。

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著者

著者

橘 玲
たちばな あきら
橘 玲

作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)など。ダイヤモンド社との共同サイト「海外投資の歩き方」も運営。