世の中の仕組みと人生のデザイン | 橘 玲

世の中の仕組みと人生のデザイン l 橘 玲

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世の中(世界)はどんな仕組みで動いているのだろう。そのなかで私たちは、どのように自分や家族の人生を設計(デザイン)していけばいいのだろうか。経済、社会から国際問題、自己啓発まで、さまざまな視点から「いまをいかに生きるか」を考えていきます。質問も随時受け付けます。

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【DIAMOND PREMIUM MAILMAGAZINE】世の中の仕組みと人生のデザイン
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(2017年6月1日配信分より抜粋)

 道徳心理学、ポジティブ心理学を研究するアメリカの心理学者(ヴァージニア大学教授)ジョナサン・ハイトは、『しあわせ仮説The Happiness Hypothesis』(新曜社)で「古代の知恵と現代科学の知恵の融合」を説いている。

 ここでの「現代科学の知恵」とは、これまで紹介してきた脳科学、進化心理学、行動経済学などの「新しい知のパラダイム」のことだ。一方、ハイトが「古代の知恵」と呼ぶのは古代インド哲学、とりわけ仏陀の思想だ。――ヒンドゥーの「神聖性の倫理」を学ぶため、ハイトは3カ月間、インドに住み込んでインタビューを行なった。

 こうした研究と体験を経て、ハイトは「幸福はあいだから生まれる」と述べる。「あなたと他者のあいだ、あなたと仕事のあいだ、あなたとあなたより大きな何かとのあいだに、正しい関係を築くことで(幸福が)訪れる」というハイトのアドバイスは、日本人なら素直に受け入れられるものだろう。

 マインドフルネスがアメリカでブームになっていることからわかるように、西欧世界ではいま、「合理主義」「個人主義」では幸福になれないのではないか、との疑念が広がっている。それは「現代科学の知恵」によって、わたし(適応的無意識)は合理的ではないし、徹底して社会的な動物であるヒトは「個人」では生きられず、幸福という感情は社会(共同体)からしか手に入らないことが明らかになったからだ。

 ハイトの「しあわせ仮説」のキーワードは、「象と象使い」だ。


■「自己」は4つのかたちで分裂している

 ハイトはまず、「自己」は4つのかたちで分裂していると述べる。「心対体」「右脳対左脳」「新皮質対旧皮質」「制御されたプロセス対自動化されたプロセス」だ。


【心対体】

 フランスの哲学者モンテーニュは、髪の毛が逆立つ、心臓がどきどきする、舌がもつれて話せない、腸や肛門括約筋が「意思とは関係なく、むしろ意思に反して「勝手に」膨張したり収縮したり」することから、身体の各部位がそれぞれ感情や意図をもっていると考えた。こうした活動はいまでは自律神経系によるものだとわかっているから、これは一見、トンデモ説のようだが、腸には1億以上の神経細胞からなる広大なネットワークが張り巡らされており、「第二の脳(内臓脳)」と呼ぶことも可能だとハイトはいう。

 内臓脳は、食物から栄養を抽出して処理する「化学精製工場」に必要な計算をすべてこなしているが、脳から命令を受けているわけではなく、頭脳と「内臓脳」をつなぐ神経系が切断されても問題なく機能しつづける。

 内臓脳が腸を洗浄すべきだと「決めた」とき、過敏性腸症候群が発症する。内臓脳が感染状態を見つけると、頭脳に不安を引き起こして、病気の状態にふさわしく慎重に行動するよう誘導する。

 さらに内臓脳は、アセチルコリンやセロトニンといった、頭脳に影響を及ぼす化学物質にも敏感に反応する。プロザックなどの抗うつ剤で、最初の副作用が吐き気や腸機能の変化に関連しているのはこのためだ。

 腹部には3つのチャクラ(結腸、肛門、生殖器)があるとする古代インドの理論は、頭(こころ)だけでなく身体(内臓)にも脳があるという知見に基づいているのだ。


【右脳対左脳】

 マイケルガ・ガザニガの分離脳の実験では、重度のてんかん患者を対象に右脳と左脳を連結する脳梁を切断したところ、右脳に人格らしきものが立ち現われた。もっとも有名なのが「他人の手症候群」で、左手が勝手に行動し独自の目的を持っているように見える。

 たとえば、鳴っている電話を右手が取ると、左手は電話を持ちかえることや耳にもっていくことを拒否する。あるいは、右手が選んだシャツを左手が棚に戻すといったように、選択を拒否する。さらには、「他人の手」が自分の首をつかんで絞め殺そうとすることもある。

 こうした現象は、右脳と左脳で2つの人格をもっているというよりも、こころがそれぞれ独自の処理能力をもつモジュールの集合体で、ときには相反する判断をすることを示している。「他人の手」は人格の分裂ではなく、脳梁の切断でモジュール間のバランスが崩れたことを示しているのだ。


【新皮質対旧皮質】

 脊椎動物の脳は後脳、中脳、前脳に分かれている。

 動物実験の規制がなかった時代、研究者がネコの前脳をはなはだしく傷つけても、物音の方に振り向いたり、熱いものに触れて前肢を引っ込めたり、歩いたり、食べたり、毛づくろいをするなど、一見、調和のとれた行動に見えるものが残った。前脳の基部にある視床下部まで除去しても、強度の刺激に対してシーッという音を出したり、歯を向いたり、爪を出すという基本的な反応が見られた。だが中脳を損傷するとネコは昏睡状態に陥り、後脳が破壊されると生命活動そのものが終わった。

 こうした“非倫理的”な実験から、脳は脊髄に近い後脳から中脳、前脳へと進化していったことがわかる。ヒトの場合、脳はさらに「建て増し」をつづけ、前脳に神経組織の新しい層を形成していった。これが大脳辺縁系で、進化論的にはより原初的な旧皮質に対して新皮質と名づけられた。この新皮質(前頭眼窩皮質)に損傷を受けると、理性や論理的な能力は無傷であるものの、恐れや美を感じる場面で経験するような瞬間的な体の反応が失われる。情動(好きか嫌いかのような一過性の強い感情)がないと、簡単な意思決定をしたり、目標を立てたりすることができなくなるのだ。

 新皮質は理性(合理性)の座だが、それがうまく機能するためには情動が不可欠だ。象使い(理性)が仕事をするためには、象(無意識の情動)が必要なのだ。
 

【制御されたプロセス対自動化されたプロセス】

 アメリカの心理学者ティモシー・ウィルソンの『自分を知り、自分を変える』を何回かに分けて紹介したが、「自動化されたプロセス」とは適応的無意識、「制御されたプロセス」は意識に相当する。
 
 ハイトも同じ認識のもとに、「象使いは象に仕えるために進化した」と述べる。自動化されたプロセス(象)は、長い進化の過程で数千回もの生産サイクルをくぐり抜けており、パターン化された課題を意識(理性)よりもはるかに上手く解くことができる。だがある種の課題(A地点からB地点に移動するための最適な方法を計画することなど)にはまったく向いていない。この欠陥を補正するために、象使い(意識的・言語的思考)が発達したのだ。


■あなたは「右脳派」か「左脳派」か?

「象(適応的無意識)の言語」においていちばん重要な単語は「好き」と「嫌い」、もしくは「接近」と「回避」だ。もっとも下等な生物ですら、左か右か? 進むか止まるか? 食べるか食べないか? といった「決断」を絶えず迫られている。情動を有する程度に複雑な脳を持っている動物には、頭のなかで常に動作している「好悪計」があるのだ。

 私たちは、たとえ気づいていなくても、すべての体験に対して好き(接近)か嫌い(回避)かの反応をしている。そして近年の脳科学は、この反応に顕著な個人差があることを明らかにした。

 脳波の研究によると、大半のひとが右脳と左脳の非対称性を示すことが知られている。ある種の脳波が前頭の左側で活発だったひとは、右側が活発であったひとよりも、日常生活においてより多くの幸福を感じ、恐怖や心配、恥を感じることが少ない。さらには、皮質の「左利き」は抑うつに陥ることがより少なく、ネガティブな経験からの立ち直りも早いとのデータもある。

 脳の右側で高い賦活が見られる生後10カ月の赤ちゃんは、母親からちょっと離されただけで泣く傾向が見られる。幼児におけるこの性向は、多くの場合、成人期を通じて安定した性格の一側面に反映される

 右脳が活発な赤ちゃんは新しい状況に不安をもつ幼児になり、十代には恋愛や社会活動についてより恐れを感じ、大人になったとき、緊張を緩和するために心理療法を必要とすることが多い。これをハイトは「大脳皮質くじに外れてしまったひとたち」と呼ぶのだが、彼らは過剰活動する回避システムの支配力を弱めるために生涯奮闘することになるのだ。

 「右脳派」と「左脳派」を判別するかんたんにテストがある。

【どちらの文のグループがあなたにより当てはまりますか?】

Aグループ
・楽しいだろうと思えるのであれば、いつでも何か新しいことに挑戦したい。
・欲しいものを掴みとるチャンスに遭遇したら、私は即座に行動する。
・何かよいことが起こると、それに強く影響される。
・よくとっさの思いつきで行動する。

Bグループ
・失敗するのが怖い。
・批判や叱責にとても傷つく。
・何か重要なことがうまくできなかった時のことを考えると不安になる。
・他の友だちに比べて私は怖がりだ。

 Aグループのひとは接近志向のスタイルを持っており、平均的には前頭左側においてより強い皮質活動を示す。Bグループのひとは回避志向のスタイルを持っており、平均的には前頭右側においてより強い皮質活動を示す。あなたはどちらだろうか。


■「瞑想」「認知療法」「プロザック」による改善

 接近志向か回避志向かは生得的(遺伝的)なもので、意識(象使い)によって無意識(象)の性向を変えることは困難だ。

 しかしそれでもハイトは、感情スタイルを改善する方法はあるという。それが「瞑想」「認知療法」「プロザック」だ。


【瞑想】

 1日1回服用すれば不安を軽減し、満足感を増強する薬があったとしよう。薬にはさまざまな副作用があるが、その薬の場合、副作用は自尊心や共感、信頼感を増強するなど、よいことばかりだ。記憶力さえも改善する。おまけにその薬はすべて自然なもので、お金はまったくかからない。

 このような「夢の薬」があったとしたら、服用したくないひとはいないだろう。その薬の名前が「瞑想」だ。

 瞑想がもたらすものとは何だろう。

 仏陀にとって、愛着とはルーレットゲームのようなものだった。誰か別の人がルーレットを回しており、ゲームはいかさまだ。プレイすればするほど負けてしまう。勝つための唯一の方法は、そのテーブルから離れることだ。

 人生の浮き沈みに反応しないようにテーブルから離れる方法が、瞑想し、気持ちを静めることだ。瞑想によって、あなたは勝利の快楽をあきらめる代わりに、より大きな敗北の苦痛からも逃れられるのだ。


【認知療法】

 1960年代、フロイト流の精神分析療法を信奉していた心理学者のアーロン・ベックは、抑圧された記憶を掘り起こして分析し、未解決の葛藤を乗り越えるよう患者を促していた。しかしベックがどれほど努力しても、このやり方でははっきりした効果は得られなかった。患者に自己批判的な思考や不当に扱われた記憶を呼び戻させると、ますます落ち込んでしまうのだ。

 ベックは、精神分析療法そのものが間違っているのではないかと考えるようになった。

 ベックの観察によれば、うつ病患者の特徴は「歪んだ思考プロセス」にとらわれていることだ。抑うつの「三大認知」は、「私はダメだ」「世間はひどい」「私の将来は暗い」で、うつ病患者のこころは、とりわけ物事が悪い方向に向かっている時には、こうした機能不全の信念を支持する自動的思考で満たされている。

 うつ病の父親が娘の面倒を見ているときに、娘が転んで頭を打ったとしよう。典型的な思考は次のようになる。

「私はひどい父親だ」――出来事を些細な医学的問題としてではなく、自分に対する信認投票であるかのようにとらえる個人化。

「なぜ、私はいつも子どもたちに対して、こんなにひどい仕打ちをしてしまうのだろうか?」――過度の一般化。「いつもそうだ/けっして~ない」という二分的思考。

「彼女は脳に損傷を負うだろう」――過大視。

「皆、私のことを憎むに違いない」――恣意的推測。根拠もない結論への飛躍。


 うつ病患者は、歪んだ思考がネガティブな感情を産み、それがまた思考を歪めるフィードバック・ループにはまり込んでいる。そこでベックは、思考を変化させることでそのサイクルを打ち破ることを考えた。これらの思考を受け止めて挑戦するように患者をトレーニングしたのだ。

 ベックは、患者が自分の思考を書きとめ、その歪みを認識し、それに名前をつけて、代替案やより的確な考え方を見い出すよう訓練した。何週間か過ぎると、患者の思考はより現実的なものとなり、フィードバック・ループは打破され、患者の不安やうつは和らいでいった。これが認知行動療法で、エビデンス(証拠)に基づいてその効果が確認されている数少ない心理療法のひとつだ。


【プロザック】

 ハイトはかつて、プロザックと同系統の薬であるパキシルを8週間服用したことがある。

 最初のうちは、いくぶんの吐き気や、夜通し眠ることの困難、脳が渇きを感じているとしか表現しようのない感覚を含むさまざまな身体感覚を体験した。

 そして5週目のある日、世界の色が変化した。ある朝、目を覚ますと、厳しい仕事量や任期付きの教授職という不安定な見通しについて、もはや不安を感じることはなかった。まるで魔法のようだった。

 だが、パキシルには壊滅的な副作用があった。よく知っているはずのものであっても、事実や名称について思い出すことが困難になってしまったのだ。学生や同僚に挨拶するとき、「やあ」のあとに名前をつづけようとして、なにも言わずに終わってしまうのだ。

 ハイトはこれまで感じたことのない幸福感に満たされていたが、このままでは大学教授の仕事をつづけることができないと気づき、不承不承パキシルの服用をやめた。5週間後、心配事とともに記憶が戻ってきた。残されたものは、「バラ色の眼鏡をかけて新たな目で世界を見た」という体験だった。

 研究によれば、プロザックを用いた脳では、ある特定のシナプスがより多くのセロトニンを持つことになり、神経細胞が高い頻度で発火する。その結果、脳のなかで学習や記憶に決定的な役割を担っている海馬の神経成長ホルモン水準が上昇する。

 ストレスホルモンは、海馬中における重要な細胞をつぎつぎに壊滅させたり、刈り取ったりする。ネガティブな感情スタイルのひとは、しばしば海馬に軽度の神経損傷を持つ場合があるが、プロザックは神経成長ホルモン放出の引き金を引くことでその損傷を4~5週間で回復させるのだ。

 私たちの道徳観念のなかには、「身体は魂の宿る聖域である」というものがある。身体を傷つけること(整形やピアス、ドラッグ)に忌避感をもつのは、快楽を得る目的で自分の身体を遊び場のように扱うからだ。

 だが自身の過ちでないにもかかわらず、感情スタイルの分布において平均以下のひとにとってみれば、プロザックは大脳皮質くじの不公平を埋め合わせる方法のひとつだとハイトはいう。

 ハイトは、「人生はこころの創造物である」と述べる。仏陀は、こころを徐々に変化させるには象を飼いならす方法が必要なことを理解していた。人生それ自体があなたの思考の産物なら、瞑想、認知療法、プロザックを通じて自分をつくり直すこともまた可能なのだ。

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※メールマガジンを一部抜粋して掲載しています。

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著者

著者

橘 玲
たちばな あきら
橘 玲

作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)など。ダイヤモンド社との共同サイト「海外投資の歩き方」も運営。
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