世の中の仕組みと人生のデザイン | 橘 玲

世の中の仕組みと人生のデザイン l 橘 玲

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経済的独立すなわち自由は、世の中の仕組みを正しく理解し、最適な人生の戦略をデザインすることで、もっとも確実に達成できる。
世の中(世界)はどんな仕組みで動いているのだろう。そのなかで私たちは、どのように自分や家族の人生を設計(デザイン)していけばいいのだろうか。経済、社会から国際問題、自己啓発まで、さまざまな視点から「いまをいかに生きるか」を考えていきます。質問も随時受け付けます。

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【DIAMOND PREMIUM MAILMAGAZINE】世の中の仕組みと人生のデザイン
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(2017年11月16日配信分より抜粋)

 井川意髙(もとたか)氏は1964年に大王製紙創業家の2代目、髙雄(たかお)氏の長男として生まれ、東京大学法学部を卒業したのち父の会社に入り、42歳の若さで社長に就任した。しかしその頃、彼はギャンブルの魅力にとりつかれていた。

2010年から11年にかけて、カジノの借金の穴埋めに子会社から総額106億8000万円を不正に借り入れたとして会社法違反(特別背任)の容疑で東京地検特捜部に逮捕され(2011年11月)、13年6月に最高裁で上告が棄却、懲役4年の実刑判決を受ける。その経緯を自らつづったのが『溶ける』(幻冬舎文庫)だ。

この本の読みどころはマカオやシンガポールのカジノの実態と、著者がギャンブルにはまっていく臨場感あふれる描写だ。


■井川意髙氏がギャンブルにはまった理由

 冒頭、井川氏はシンガポール「マリーナ・ベイ・サンズ」のカジノで20億円相当のチップを積み上げている。シンガポールにやってきて、カジノのVIPルームで勝負を始めてからすでに2晩が経過していた。

「いったい今日は何月何日なのだろう。いつ食事を取ったのだろうか。酒は一滴も飲んでいないし、ミネラルウォーターすらいつ口にしたのか記憶がないな……」

 異常な興奮のなかで時間の感覚などとうに消失し、眠気も食欲もまったく感じられず、目の前に配られたカードをめくることに全神経を研ぎ澄ませ、集中する。

「まだまだ。もっとだ。もっと勝てるに決まっている」

 20億円も勝っているのになぜやめられないのか。それには理由がある。11年5月のその時点で、グループ企業から借り入れたカネの総額は50億円を超えていたのだ。
 
 井川氏は、自分で自分にこういいきかせる。

「バカラで5時間かけて勝負した結果、500万円が1000万円に膨らんだ。ならば10時間かければ、1000万円を2000万円にまで増やせるはずだ」

「運とツキさえ回ってくれば、500万円を5億円に増やすことだってできる。現に150万円を4時間半で22億円にしたことだってあるじゃないか。目の前にある20億円を30億円、40億円にまで増やし、今までの借金をすべて取り返すことだってできるはずだ――」

 これがギャンブラーの論理だが、ツキがずっと続くわけがなく、けっきょく賭け金をすべて失ってしまう。その損を取り戻すために、さらに不正な借り入れを重ねることになるのだ。

 なぜこんな愚かなことをするだろうか? その理由は、ギャンブルにおけるマジック・モーメント(魔法の時間)だ。「奇跡的な連続勝利が起きること」で、井川氏はこう説明する。

「マカオでは、負けが込んで最後の捨て鉢勝負をかけたとき、「マジック・モーメント」がやってきたことがあった。300万円が600万円に、600万円が1200万円に、1億、2億、5億……。一縷の望みをかけて叩きつけた300万円が、とうとう7億円までハイパー・インフレーションを引き起こした。シンガポールで20億円勝ったときのスタートの金額は150万円だ。おそらく経験者にしか理解できないだろう。カジノにおける「マジック・モーメント」は、たしかに存在するのだ」

 井川氏がギャンブルから抜けられなくなったもうひとつの理由は「ジャンケット」だった。これはマカオにしかないシステムで、カジノとVIPをつなぐエージェント(仲介業者)のことだ。

 井川氏はジャンケットのK氏と90年代に六本木の飲み屋で知り合い、彼に誘われて2003年頃からマカオに遊びに行くようになった。K氏はマカオのカジノ「ギャラクシー」のVIPルームとジャンケット契約を結んでおり、富裕層の上客を連れてくるとキックバックを受け取れる。いわばカジノ専属のフリー営業マンで、空港からのロールスロイスでの送迎やスイートルームの手配などなんでもやってくれるが、もっとも重要なのは客が負けが込んだときの借金の手配だ。

 ふつうは、有り金をすべてすってしまえばゲームは終わる。だが井川氏のような社会的立場なら、無利子・無担保で融資をしても踏み倒される心配はない。それを見越して、1000万円から3000万円程度の種銭をジャンケットの所属会社が用立ててさらに勝負をつづけさせるのだ。

 そのカネもすってしまったらどうなるのか。そのときはカジノ周辺にある、広東語で「押」と書かれた店に行く。これは質屋のことで、クレジットカードのショッピング枠で翡翠の置物や時計を購入したことにして、手数料分を差し引いた現金を渡してくれる。井川氏はアメックスのブラックカードを使って1個300万円のロレックスを10個買い、それを質屋にもっていったこともあるという。

 このようなさまざまな仕組みによって、いったんギャンブルにはまると理性や意思のちからでは抜けられないようになってしまうのだ。


■ギャンブラーを虜にする「マジック・モーメント」

 井川氏がはじめてカジノを体験したのは家族旅行で出かけたオーストラリアのゴールドコーストで、30代前半だった。この初カジノで種銭の100万円が2000万円に大勝ちしたことで「カジノのおそるべき底なし沼」に引きずり込まれることになる。

 ラスベガスには、海外出張で1日空きができたときにポケットに70万円突っ込んで勝負しに行った。一時4000万円ものプラスになったが、急激に負けが込んでけっきょくすべてすってしまい、「まあいいや、オレは4000万円負けたわけじゃない。70万円負けただけだ」と自分を納得させた。しびれるような高揚感から絶望へ、絶望から「マジック・モーメント」へのジェットコースターのような体験が、ギャンブラーを虜にするのだ。

 井川氏はその頃から、心ゆくまでギャンブルを楽しみたいと思っていたが、多忙なビジネスマンがゴールドコーストやラスベガスに行けるのはせいぜい年に1~2回だった。ところがジャンケットのK氏から、マカオは香港からフェリーで1時間足らずで、羽田空港から片道6時間もあれば行けると聞いてのめり込むようになる。

 金曜の夕方に仕事を終えるとその足で羽田空港に向かい、深夜にマカオ入りして、ほとんど眠らずに勝負し続ける。しかしそれでも、時間が足りなかった。月曜から仕事が始まるので、日曜の夜には羽田に戻らなければならないのだ。

 シンガポールの「マリーナ・ベイ・サンズ」に根拠地を移したのは、フェリーを使わずに空港からダイレクトにカジノに行けるからだ。これなら日曜の深夜便を使って月曜早朝には東京に戻り、出社することができる。ここまでくると狂気と紙一重だが、ギャンブル依存症というのはこういうものなのだろう。

 井川氏はその頃の自分を振り返って、こう述懐している。

「カジノのテーブルについた瞬間、私の脳内には、アドレンリンとドーパミンが噴出する。勝った時の高揚感もさることながら、負けたときの悔しさと、次の瞬間に沸き立ってくる「次は勝ってやる」という闘争心がまた妙な快楽を生む。だから、勝っても負けてもやめられないのだ。地獄の釜の蓋が開いた瀬戸際で味わう、ジリジリと焼け焦がれるような感覚がたまらない。このヒリヒリ感がギャンブルの本当の恐ろしさなのだと思う。

 脳内に特別な快感物質があふれ返っているせいだろう、バカラに興じていると食欲は消え失せ、丸1日半何も食事を口にしなくても腹が減らない。「何か食べたほうがいいですよ」とジャンケットが心配し、軽食を準備してくれるほどだ。カネがなくなるか。時間切れでフライトの時間が訪れるか。カネか時間が切れるまで、勝負はいつまでも続く。もし私に仕事がなく、資金が無尽蔵にあるならば、何日だろうが何週間だろうがマカオやシンガポールのカジノで勝負し続けたはずだ。

 頭がおかしくなっていたと思う。いや、あのころだって、どこかおかしいと思っていた。それでも、自分で自分をコントロールできなかったのだから、やはり病気なのだろう。

 仕事がいそがしく時間がないため、土曜日の夜から日曜日の夜まで短期決戦に挑むこともあった。短期決戦だったおかげで勝ち逃げできたときもあるし、月曜日の早朝に帰国する段取りで勝負を延ばした結果、勝ち逃げできたこともあれば最終的に負けてしまったこともある。

 資金の上限を定め、これ以上は勝負してはいけないというリミッターを設けておく限り、さほど大負けすることはない。資金と時間のリミッターをはずして狂乱の勝負に打って出るから、ギャンブラーは負けが込んでしまう。「連敗が続いたときにはしばらくルックしよう(待とう)」といったルールをきちっと遵守すればいいのに、負けが込んだときほど次々とカネを投入してしまう。熱くなってはまずいとわかっていながら、自分でつくったはずのルールを無視して暴走してしまう。

「バクチをやる人間は、結局のところ皆バクチに向いていない」のだろう。皮肉なことに、「バクチをやらない人間ほどバクチに向いている」のである」

 そしてこの本を、こう締めくくる。

「一番信用できないのは、自分――106億8000万円の代償として私が得たものは、かくも悲しい事実のみだった」

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※メールマガジンを一部抜粋して掲載しています。

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著者

著者

橘 玲
たちばな あきら
橘 玲

作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)など。ダイヤモンド社との共同サイト「海外投資の歩き方」も運営。
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