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ドル・円・ユーロの明日はどっちだ!?

今、英ポンドやユーロは買えない通貨か。一時的な上昇は
売りのチャンス!? エネルギー危機や戦争など悪材料が多数。
英国在住・松崎美子氏に聞く、欧州の通貨と経済【前編】

2022年10月14日(金)12:05公開 (2022年10月14日(金)23:00更新)
ザイFX!編集部

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 コロナ、ウクライナ戦争、エネルギー危機、インフレなど、市場をにぎわすネタに事欠かない昨今。米国と比べて苦しい状況にあるとされる欧州(ヨーロッパ)の現状を、英国・ロンドンに在住の松崎美子さんにうかがった。(取材日:2022年9月21日)

松崎美子氏プロフィール

英国経済は高インフレでにっちもさっちもいかないなか、エリザベス女王の崩御による「女王ロス」で泣き面に蜂の状態

 まず、松崎さんが住む英国が今、どのような状況なのかをうかがった。

 「コロナの影響に関しては、英国は欧州諸国の中でも長い期間ロックダウンを行い、検査も徹底して行ってきました。給与補償などもかなり行ったので、その分の財政支出は大きく、欧州の中でも最大規模だと思います。

 もともと、英国とイタリアはG7の中でもっとも債務残高が高い『財務の落第生』だったのですが、より悪い方向へ行ってしまった感はありますね」

 決して明るい状況ではないようで、さらに、英国も高インフレの荒波にもまれており、電気やガスなどの光熱費が爆上がりしているという。

 「家計の支出の約半分が電気・ガス代という家庭が増えています。英国は持ち家比率が高いのですが、光熱費がそこまでかかると住宅ローンの支払いが困難になってきます。利上げでローンの金利がどんどん上がり、にっちもさっちもいかなくなっているところでエリザベス女王が崩御され、英国民はダブルでがっかりな状況です」

 松崎さんによると、エリザベス女王の崩御で英国中が“女王ロス”に陥ったという。松崎さんに話をうかがったのは、2022年9月21日(水)。国葬は取材2日前の9月19日(月)に終わったものの、王室関係者の服喪は国葬の日からさらに1週間続き、英国全体もまだまだ暗い雰囲気に包まれているという。

エリザベス女王(エリザベス2世)の写真

在位期間70年214日と、英国史上最高齢かつ最長在位、世界史上でも第2位の長期在位君主だった故・エリザベス2世(エリザベス女王)。崩御されるわずか2日前には、静養先のバルモラル城でボリス・ジョンソン前首相の辞表提出とリズ・トラス氏の首相任命式を執り行っていた。写真は2016年4月21日に90歳の誕生日を迎え、ウィンザー周辺を散歩しているときのもの (C)WireImage/Getty Images

 「スポーツジムや近所のスーパー、街中に設置してある電子掲示板など、ありとあらゆる場所にエリザベス女王を追悼する黒で縁どられた写真などが掲げられています。

 否が応でも目に入るので、視覚的にも“女王ロス”を植え付けられてしまうんですよね。葬儀の日はまるでロックダウンのときのようで、外を出歩いている人は誰もいないような状況でした」

 松崎さん自身も、国葬の日は約7時間のテレビ中継を泣きながら見たり、何も手につかずにぼーっと過ごしてしまったそうだ。英国で生まれ育ったわけではない松崎さんでさえそんな状態だったので、一般的な英国国民の精神的ダメージは計り知れない。

 「積極的にお金を使おうという気分にはならないので、“女王ロス”による経済的な悪影響は少なくないと思います

 とはいえ“女王ロス”は永遠に続くわけではない。

 「英国人は結構、切り替えが早いですし、英国というのは転んでもただでは起きない国。また、普段はちゃんとしていなくても、『やる時はやる』底力のある国です。喪が明けたら、いつまでもネガティブな気分を引きずったりはしないと思います」

トラス英首相の経済政策発表に市場は大混乱。経済のことも知り尽くした財務相がいるのに、財政拡大路線は理解に苦しむ

 英国といえば、2022年9月6日(火)に英国の首相に就任したばかりの、リズ・トラス(メアリー・エリザベス・トラス)氏にも要注目だ。トラス政権が9月23日(金)に発表した一連の経済政策(※)は、英国の財源に対する懸念を高め、市場の動揺を誘った。

(※編集部追記:所得税率の引き下げや法人増税の凍結などの減税を柱とした、5年間で1610億ポンド(約25兆5000億円)の巨額な経済対策費用を伴う政策。その後、市場の混乱や党内からの相次ぐ批判を受け、所得税の最高税率を引き下げる案は10月3日(月)に撤回。さらに、本記事公開後の2022年10月14日(金)、トラス首相は法人税引き上げの凍結を撤回し、経済対策を巡る混乱の責任を明確化するために財務相のクワジ・クワーテング氏を解任。新財務相に元外務相のジェレミー・ハント氏を起用して、新財務相が月末に財政計画を発表することも明らかになった)

 経済政策の発表を受けて、英国債は急落(利回りは急騰)。その後、為替市場では英ポンド/米ドルが史上最安値を更新するなど混乱し、BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])が市場への介入に踏み切る事態へと発展した。

(※編集部追記:BOEは予定されていた保有国債を削減するための売却を2022年10月31日(月)まで延期し、9月28日(水)から10月14日(金)の間は、市場が通常の状態を取り戻すまで無制限に英国債を購入すると発表した)

英国・10年物国債利回り(長期金利)
英国・10年物国債利回り(長期金利)

(出所:TradingView

英ポンド/米ドル 日足
英ポンド/米ドル 日足チャート

(出所:TradingView

 松崎さんは、トラス英首相は経済のことも財政のことも、まったくわかっていない人物だという。

 「私としては、首相自身は経済の専門家である必要はなく、周りに支えてくれる優秀な人材がいればよいと思っています。ただ“決断”というのは首相の役目なので、トラスさんがいい決断をしてくれることに期待している部分はあります」

 実力不足とされるトラス首相に対するマーケットの期待は低いが、それだけに、期待以上の成果が出せれば大化けするかもしれないと松崎さん。

 「沈没するか、第二のサッチャーになるか、どちらかではないでしょうか」

 とはいえ、金融業界では大半が「側近も大したことないのでは?」と見ているという。

 「財務相のクワジ・クワーテングさんは素晴らしい経歴を誇り、経済のことも知り尽くしている非常に優秀な人物です。そういう人が財政拡大路線というのは、理解に苦しむところです。何か秘策があるのかもしれませんが……」

(※編集部追記:上述のとおり、本記事公開後の2022年10月14日(金)に、財務相のクワジ・クワーテング氏は経済対策を巡る混乱の責任を明確化するために解任され、新たに元外務相のジェレミー・ハント氏が財務相に就任した)

リズ・トラス英首相とクワジ・クワーテング英財務相の写真

英国のリズ・トラス(メアリー・エリザベス・トラス)新首相(写真右)とクワジ・クワーテング氏(写真左)。松崎さんは、トラス英首相は経済のことも財政のことも、まったくわかっていない人物だというが、クワーテング氏は経済のことも知り尽くしている非常に優秀な人物なので、財政拡大路線は理解に苦しむと指摘していたが、10月14日に財務相を解任された (C)Getty Images News/Getty Images Europe

 そのうえで、松崎さんは為替に関しては、英ポンドがまだ売り込まれると予測している。
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 「ただし英ポンドは金利もそこそこありますし、ユーロほどは売られないのではないかと思っています。もっとも、これは在住者のひいき目かもしれませんね。どこかで英ポンドの買いを入れたいと思っているのですが、まだその時期ではありません

欧州の悲鳴が聞こえてくるよう……。英国だけじゃない、 ドイツは「世界の工業大国」という看板を下ろさざるを得なくなる危機に直面!?

 次に、松崎さんに英国だけでなく、欧州全般に関する見通しを聞いてみた。

 「財政支出は増えるし、ECB(欧州中央銀行)がどこまで利上げできるのかも、正直言ってあまり期待していません」

 つまり、欧州経済にいい材料は見当たらないということだ。

ユーロ圏の政策金利の推移

(詳しくはこちら⇒主要各国の政策金利の推移をグラフでチェック!

 その最大の元凶と言えるのが、エネルギー問題だ。欧州ではウクライナへ軍事侵攻したロシアに経済制裁を与えたつもりが、逆に自分たちが制裁を受けているような皮肉な状況になっている。

 ロシアからドイツへ天然ガスを供給するパイプライン「ノルドストリーム」は、2022年8月末から供給がストップしている。ドイツでは、貯蔵積み上げによって今冬のガス枯渇は避けられそうだが、供給のストップが長期化すれば需給のひっ迫は避けられない。

 「このままでは、ドイツは“世界の工業大国”という看板を下ろさざるを得なくなります

 松崎さんがそう警鐘を鳴らすドイツでは、2021年12月にオラフ・ショルツ氏が首相に就任して3党連立の新政権を発足したが、うまく舵を切れていないという。

 「ショルツさんが3党を調整しようと躍起になっている間にも世界情勢は動いているので、もう少しリーダーシップを発揮してほしいなと感じます」

 ドイツの財政は、英国ほどは痛んでないというが、松崎さんからはこんな言葉も。

 「あのドイツでさえも、こんなに苦境に立たされているんだと思うと複雑な心境ですね。欧州の悲鳴が聞こえてくるような気がします」

懸念される「欧州の右傾化」。ハンガリー、トルコなど、欧州が抱える地政学的なリスクからも目が離せない展開に!

 不穏な動きはドイツだけではない。スウェーデンでは2022年9月11日(日)に実施した総選挙で、スウェーデン民主党、穏健党、キリスト教民主党、自由党からなる右派連合が与党に勝利。イタリアでは9月25日(日)に行われた総選挙の結果、ジョルジャ・メローニ党首が率いる極右政党「イタリアの同胞(FDI)」が第一党となり、第2次世界大戦以降で「もっとも右寄り」とされる政権が誕生する予定(※)など「欧州の右傾化」が懸念されている

(編集部注:10月13日(木)に新議会が招集され、その後に新首相が指名されるが、すでに右派連合は第1党のFDIから首相を選出することで合意している)

 松崎さんは、ハンガリーの動向にも注目しているという。従来から「EUの問題児」的な見方をされているハンガリーのオルバン政権は、新型コロナウイルス復興基金150億ユーロ(約2兆700億円)の受け取りを巡ってEU(欧州連合)と折り合いがつかないままだ。

 「もし、話し合いがこじれてハンガリーがベラルーシと結託するようなことがあれば、ウクライナ戦争にも影響が出るし、欧州の情勢はさらに複雑になりますよね」

(※編集部追記:ロシアの軍事同盟国であるベラルーシのルカシェンコ大統領は10月4日(火)、ロシアによるウクライナ侵攻に「われわれは参加している」と認めた。ロシアのウクライナ侵攻が欧米とロシアの「代理戦争」の様相を呈する中、ベラルーシが「当事国」であることを強調する意図があったとみられる)

 さらに、松崎さんは米国とキプロスの関係性が深まりつつあることも不安視している。米国バイデン政権は2022年9月に、キプロスへの武器禁輸措置を解除すると発表した。キプロスといえば、ギリシャ系とトルコ系の住民の間での紛争が続いているところだ。

 「トルコでは来年(2023年)、6月までに総選挙が行われる予定です。現職のエルドアン大統領は、自分の人気取りのためなら何でもやる人なので注意が必要です。最近は地政学的な問題で為替が動くことも多くなってきたので、いろいろな国の選挙の影響も見逃せません

悪材料が目白押しだが、動きがあるなら収益チャンスでもある! ユーロは一時的に上昇する局面があれば、売りで利益を狙える可能性も

 このように、欧州経済は悪材料が目白押しで、松崎さんによると、どの大手銀行も現在は、欧州の株式に関しては売りを推奨しているという。

 「ウクライナ戦争が終結すれば欧州の株は買いだと思いますが、それは5年~10年先になるのではないでしょうか。現状はまだ、どこまで下がるかわからない状態です」

独DAX指数 月足
独DAX指数 月足チャート

(出所:TradingView

 「為替相場に関しても、現在は欧州から資金が流出している状況ですから、ユーロを積極的には買えないでしょう」

 ユーロは、何かいい材料が出て一時的に上がることがあったとしても、長続きはしないだろうとも松崎さんは語ってくれた。

ユーロ/米ドル 週足
ユーロ/米ドル 週足チャート

(出所:TradingView

 しかし、ここまで欧州経済の見通しが暗く、ユーロの値動きも弱いということなら、ユーロが一時的に上昇した局面で売りを仕掛ければ、利益を上げることにも期待ができそうだ。考えようによってはトレードしやすい状況だともいえる。
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 また、松崎さん自身は日本円が絡んだ通貨ペアをトレードしないが、日本円は現在の円安から、秋以降には円高に転じるかもしれないと予測している。

 その理由や、トレードのときに見るべき指標などは、【後編】で解説したい。

「一方的な円売りは、「ポスト黒田」でそろそろ終わる? ユーロは下落しているが、実効レートで見ればまだ高い!? 英国在住・松崎美子氏に聞く、欧州の通貨と経済【後編】」へつづく)

(取材・文/佐乃美歩絵 プロフィール写真の撮影/和田佳久 編集担当/ザイFX!編集部・堀之内智)

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