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ドル・円・ユーロの明日はどっちだ!?

一方的な円売りは、「ポスト黒田」でそろそろ終わる?
ユーロは下落しているが、実効レートで見ればまだ高い!?
英国在住・松崎美子氏に聞く、欧州の通貨と経済【後編】

2022年10月21日(金)19:35公開 (2022年10月21日(金)19:35更新)
ザイFX!編集部

波乱の「日経平均」や「NYダウ」の下落局面も収益チャンスに! 話題の「VIX指数」も取引できる【CFD口座】を比較!

「今、英ポンドやユーロは買えない通貨か。一時的な上昇は売りのチャンス!? エネルギー危機や戦争など悪材料が多数。英国在住・松崎美子氏に聞く、欧州の通貨と経済【前編】」からつづく)

 前回は、英国・ロンドン在住の松崎美子さんに、悪材料ばかりが目立つ欧州(ヨーロッパ)経済について語ってもらった。今回は、そんな状況のなか、松崎さんはどういう観点でトレードを行っているのかなどを紹介していく。(取材日:2022年9月21日)

 取材後の2022年9月末に相場が大きく動いたこともあり、今後の見通しなどについては10月13日(木)と21日(金)に追加で現状をうかがった。
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「ポスト黒田」の思惑で一方的な円売りは終わる? 本格的な動きは
来年だが、今年の秋~冬ぐらいには動き始める可能性も!

 松崎さん自身は日本円が絡んだ通貨ペアをトレードしないが、日本円の見通しについては、この秋から冬以降に、円売りが終わるかもしれないと予測している。

 「来春(2022年4月)に日銀の黒田総裁の任期が満了になり交代は確実視されていますし、金融引き締めとまではいかなくても、徐々に正常化に移行していくのではないでしょうか」

黒田東彦・日銀総裁の写真

任期中の辞任は否定したものの、2023年4月8日に任期満了で退任することが確実視されている日銀(日本銀行)の黒田東彦総裁。松崎さんは次期日銀総裁のもとで、金融政策が徐々に正常化していくのではないかと予想している (C)Bloomberg/Getty Images

 大阪取引所が3カ月物の金利先物(※)を23年5月に上場する予定など、日本も将来の金融政策の転換に備えた商品を準備していることも、それを示唆しているのではないかという。

(※編集部注:無担保コールレート(オーバーナイト物)を複利で計算して、3カ月間の金利とした指標をもとにした短期金利先物商品。金利の上昇リスクをヘッジする目的などでの活用が期待されている。無担保コールレートとは、コール市場において無担保で貸借できる資金のうち、約定日に資金の受け払いを行って翌営業日に返済するものにかかる金利のこと)

 「世界の中で最後までマイナス金利を継続している日本が少しでも方向性を変えたら、そのインパクトは大きいと思います」
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 このところ円を売りまくっていた人たちのカバー分だけでも、相当、円高に振れる可能性があると松崎さんは語る。

 「欧州経済の弱さも加味すると、特にユーロや英ポンドなどの欧州通貨に対して大きく円高になる可能性もあります。本格的な動きは来年(2023年)になると思いますが、マーケットは3カ月ぐらい先を織り込みますし、外資系の投資銀行は毎年11月ごろに翌年の予想を出すのですが、そのころには“ポスト黒田”で動き始めているかもしれません。ただし、極度の円高というよりは、“円売りの終わり”のようなイメージを持っています」
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ユーロ/円 週足
ユーロ/円 週足チャート

(出所:TradingView

英ポンド/円 週足
英ポンド/円 週足チャート

(出所:TradingView

波乱続きの英国経済。注目イベントは中期財政報告とMPC!
英ポンドはまだまだ下がるのか、それともそろそろ反転するのか?

 前回の記事でも少し触れたが、どこかで「ユーロ売り・英ポンド買い」を入れたいと思っている松崎さん。なかなか入りづらい状況が続いていたところ、9月後半にはポンド危機の状態に陥ってしまった。
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 9月23日(金)にトラス政権が「緊急ミニ予算案」を発表したことをきっかけに、英国では債券・株式・通貨(英ポンド)がトリプル安となったわけだが、なぜここまでマーケットを騒がせたのかを、松崎さんは次のように説明してくれた。

 「英国は、もともと経常赤字国で財政の落第生でした。それなのに全額赤字国債を財源とした景気刺激策を発表したことで、マーケットがびっくりしたことが発端です。追加の赤字国債発行により国債市場の需給が大きく崩れ、長期金利が上昇し、格下げリスクが台頭しました」

英国の経常収支の推移
英国の経常収支の推移

(※単位:10億米ドル。IMF「WORLD ECONOMIC AND FINANCIAL SURVEYS」(2022年10月版)のデータをもとに編集部が作成。破線で表示した2022年以降の数値はIMFの推計値)

 このミニ予算案は、OBR(予算責任局)のマクロ経済見通しを伴っておらず、一体、どういうマクロ予想を背景に財政政策を実施するのかまったくわからなくなり、投資家の不安を煽るだけ煽ることになった。

 その後、BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])は9月28日(日)に急遽、期間限定で無制限に英国債を購入する介入方針を発表したが、その背景には、英国の年金基金が危険な状態だと発覚したことがある。年金基金が破綻すれば、英国発の世界金融危機にもなりかねないため、BOEは10月11日(火)にも買い入れ対象を追加する追加の対策を発表した。松崎さんによれば、チマチマと介入する日本とは違い、BOEが市場へ介入するというのはかなり異例なことだという。

 市場が混乱した事態を受け、トラス英首相は10月14日(金)にクワジ・クワーテング財務相を解任、後任にジェレミー・ハント元外相が就くことを発表した。クワーテング氏は史上2番目に短い、在任38日で財務相の座を退くこととなった。

(※編集部注:その後、10月20日(木)にはトラス英首相が辞任を表明。大規模減税策が市場を混乱させた引責と考えられている。本記事公開時点の情報によれば、与党・保守党の党首選は10月28日(金)までに終了し、次期党首(英首相)が決定する見通し。一部からは、ボリス・ジョンソン前首相が党首選に出馬すると報じられている)

 まさに波乱続きの英国経済だが、英ポンドはまだ下がるのか、そろそろ反転するのか、松崎さんは次のように語る。

 「中期財政報告の発表は、本来は11月23日(水)の予定だったのですが、それが10月31日(月)に前倒しされることになり、さらに、その3日後の11月3日(木)には、BOEがMPC(英金融政策委員会)を開催します。この2つのイベントでは、財務省・BOEでそれぞれにマクロ経済予想が発表されますので、お互いの予想に乖離などがあれば、英国の長期金利や英ポンドの動きに直結するでしょう」

 つまり英ポンドの動向は、11月3日(木)までの一連のイベントが終わってからでないと予想できないという。

 見通しはまだ不明瞭なものの、松崎さんは金利面などを考慮すると、トレードをするならユーロ売り・英ポンド買い(ユーロ/英ポンドの売り)しか考えていないという。

 「英国で解散総選挙が実施されれば話は別ですが、このまま保守党政権が継続するという前提であれば、ユーロ/英ポンドが0.9000ポンドを超えたら、日足と週足のローソク足の形を確認。そろそろ頭が重くなるのが確認できた時点で、ユーロ売り・英ポンド買い(ユーロ/英ポンドの売り)を行うつもりです。その場合の損切りは、直近週足の高値を少し超えたレベルを想定しています」
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ユーロ/英ポンド 月足
ユーロ/英ポンド 月足チャート

(出所:TradingView

ユーロ/米ドルは底なしのように見えるが、現状では
0.95ドルを下に抜けて下落が進む可能性は低いか

 最近はマーケットの注目が英国に集まって蚊帳の外状態となっているユーロだが、今後の動向はどうなりそうなのだろうか。ユーロ/米ドルは2022年7月に、約20年ぶりのパリティ割れとなった。パリティ割れとは、1ユーロ=1ドルの等価(パリティ)を下回ることをいい、本記事公開時点もパリティ割れの状態だ。

 前回の記事でも述べたように、悪材料が盛りだくさんの欧州経済は、今後5~10年ぐらいは厳しい状況になることが予想される。ユーロ/米ドルの週足チャートや月足チャートを見ても、まだ底をつけたとは言えなそうだ。
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 とはいえ松崎さんは、「現在織り込んでいる材料で、ユーロ/米ドルが0.95ドルから下に行くとは予想していません」と語る。

ユーロ/米ドル 月足
ユーロ/米ドル 月足チャート

(出所:TradingView

 ユーロを取り巻く環境が改善されたわけではなく、米ドルの一人勝ち状態がすぐに終わるとも考えていないものの、現時点で織り込まれている材料だけでは、ユーロ/米ドルが0.95ドルを下に抜けて、下落が進んでいくことはイメージしていないそうだ。
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 ただし、イタリアの新政権の行方やノルドストリーム問題、コロナ復興のためのEU共同債などに関して新たにネガティブな材料が出てくれば、ユーロ売りが加速する可能性は否定できないともいう。

 「そのほかの可能性としては、米国が許すと思えないのでないとは考えてますが、日本政府(財務省)が死にもの狂いで米ドル売り・円買いの為替介入をした場合ですね。その場合、ユーロ/円の下落が激しくなり、ユーロ/米ドルが連れ安となるリスクが皆無とは言えないかもしれません」

実はユーロはそれほど安くない? 実効為替レートで見ると、
ユーロは当局者がけん制していた頃と同じ高値圏で推移している

 ユーロ/米ドルで米ドルとユーロの関係を見ると、米ドルが強いので「ユーロ安」ととられがちだが、実効為替レートだと異なる状況が見えてくる。

 「ユーロの実効為替レートは、1999年にユーロが誕生してからの推移を見ると、まだ高値圏にあるんです」

ユーロの実質実効為替レートの推移(月次・2000年~)
ユーロの実質実効為替レートの推移(2000年~)

(※国際決済銀行のデータをもとに編集部が作成)

 実効為替レートとは、貿易量なども加味したうえで算出される、ある通貨の主要な通貨に対する相対的な実力を測るための指標。物価の変動を加味しない名目実効為替レートと、物価の変動を加味した実質実効為替レートがあるが、一般的には実質実効為替レートが注目される。

 「日本では実効為替レートを知らない人も珍しくありませんが、これを見るとおもしろいことがわかります。たとえば、ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁は2022年9月のECB理事会後の記者会見で、ユーロは対米ドルで年初から12%下がったが、実効為替レートでは4%しか下がっていないと発言しています。また、2018~19年ごろに、ユーロ高を牽制する発言がECB関係者などから出たのですが、実効為替レートでみるとユーロは今、そのころとちょうど同じぐらいの水準なんです」

 つまり、ユーロは米ドルに対しては安値圏で推移しているが、相対的な通貨の実力を反映する実効為替レートでは、まだ高値圏にあるということだ。欧州経済に当面、明るい材料に乏しいことを考えると、ユーロそのものの下げ余地はありそうだ。

 一方、松崎さんによると、英ポンドの実効為替レートは現在、非常に安値圏にあるという。

 「過去の例を見ると、英ポンドは実効為替レートが底をつけたら、必ずV字回復しているんです」

英ポンドの実質実効為替レートの推移(月次・2000年~)
英ポンドの実質実効為替レートの推移(月次・2000年~)

(※国際決済銀行のデータをもとに編集部が作成)

 かなりの安値圏にあったので、値ごろ感で買ってもいいかなと考えていた松崎さんだが、9月23日(金)のミニ予算案発表からの“ポンド危機”で、V字回復しそうだった英ポンドの実効為替レートはまた下がってしまったという。

 「ただ、ギリギリのサポートされている状態ですので、次の動きがどうなるのかは、11月3日(木)までの結果を見てからだと思っています」

10月31日(月)に発表予定のトラス政権の中期財政報告と、11月3日(木)のMPCで、どのようなことが発表されるのか大注目だ(※)。

(※編集部注:前述のとおり、10月20日(木)にトラス英首相が辞任を表明したことを受け、与党・保守党の党首選も行われる。党首選は10月28日(金)までに終了し、次期党首(英首相)が決定する見通しだ。一部からは、ボリス・ジョンソン前首相が党首選に出馬すると報じられるなど、こちらも注目度の高いイベントとなっている)

(取材・文/佐乃美歩絵 編集担当/ザイFX!編集部・堀之内智)


【ザイFX!編集部からのお知らせ】

今回、松崎さんがタイミングを見計らって取引に参入したいと紹介してくれた「ユーロ/英ポンド」。日本の投資家の方にはなじみが薄いかもしれませんが、1日の取引高が15億ドル(※)を超える、外国為替市場の中でも積極的に取引されている通貨ペアです。

(※BIS(国際決済銀行)における外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイより。米ドルを想定元本とした2019年4月中の1営業日あたりの平均取引高)

 日本にも、ユーロ/英ポンドを取引できるFX会社(FX口座)はたくさんあります。以下は、ザイFX!が調査した結果をもとに、主要なFX口座のユーロ/英ポンドのスプレッドや最低取引単位をまとめたものです。

 ここ最近、相場が大きく動いていることもあり、一部のFX口座では一時的に原則固定スプレッドの提供を停止したり、基準スプレッドの公表を取り下げたりしているところもあります。できる限り公平を期すため、そうしたFX口座は値動きが比較的落ち着いていたときに各FX口座の取引ツールへ実際にログインし、取引画面に表示されていた実勢レートを取得したうえで参考値として赤字で表示しています(平時よりスプレッドが非公開のFX口座は除く)。

■ユーロ/英ポンドが取引できる主要FX口座のスプレッドと最低取引単位を比較(2022年10月21日時点)
FX会社「口座名」
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※赤字は2022年10月21日(金)13時台の取引画面に表示されていた実勢レート。スプレッドはすべて例外あり

 ユーロ/英ポンドは相場予測が難しい通貨ペアの代表格と言われることもありますが、1000通貨以下で取引できるFX口座も多くありますので、松崎さんの見通しなども参考に、リスクをしっかりと管理しながらチャンスを狙ってみてはどうでしょうか?

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