■9月の米利上げに向けて明確な方向性はないまま…
先週末、8月7日(金)に発表された7月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が21.5万人と市場予想の22.5万人を若干、下回る数字。

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この結果を受けて、米ドル/円は、一時124.33円まで売り込まれたのですが、6月分が22.3万人から23.1万人、5月分が25.4万人から26.0万人にいずれも上方修正されたほか、平均時給も予想どおりの数字ではありましたが、6月分の横ばいから前月比0.2%の上昇となったことが判明すると、一気に125.075円まで上昇。
ただ、その後は、ダウ平均が大幅に下落したほか、米長期金利の低下を受けて、124.11円まで再び下落して週末の取引を終えました。

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市場では、注目していた失業率が、5.3%とイエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長が正常と考える5.0-5.2%の水準まで改善されていなかったものの、ロックハート米アトランタ連銀総裁が言及しているように、「9月利上げを遅らせるほどの悪い数字ではない」と考える向きも多く、明確な方向性がないままとなりました。

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■中国人民元の基準値が連続で引き下げられた!
さて、そんな中、今週(8月10日~)に入って、1つ大きな決定がなされました。
8月11日(火)に、中国人民銀行[中国の中央銀行]が対米ドルの中国人民元の基準値をなんと、6.2298元に設定しました。
このレートは、前日の基準値から1136ポイントの元安水準。率で言えば1.9%の元安のレベルに切り下げを行ったことになります。

(出所:CQG)
事実上の通貨切り下げとなったワケですが、中国人民銀行は、「人民元は他の通貨に比べて実効レートではまだまだ高い水準にあった」と、その切り下げに対する整合性を表明しました。
市場は、サプライズとともにポジション調整の動きへと舵を切ることになったワケですが、翌8月12日(水)にも、中国人民銀行は、再び中国人民元の対米ドル基準値を1.6%の元安水準に決定しました。
■さらに驚いたのは中国人民銀行の介入!
そして、さらに市場を驚かせたのが、8月12日(水)午後に入ってからの中国人民銀行による「米ドル売り・人民元買い」介入の実施でした。
オンショアの中国人民元(CNY ※)では6.38元、オフショアの中国人民元(CNH ※)では6.43元レベルでの介入だった模様ですが、市場はお盆休みで流動性が極端に薄れている状況のなか、一気にリスクオフの動きに。
(※編集部注:中国人民元の通貨コードで、「CNY」は中国本土市場で取引されているものを指し、「CNH」は香港オフショア市場で取引されているものを指す)
夜間取引の日経平均先物や米ドル/円の下落といった動きにつながっています。

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■米ドル/円はポジション調整、ユーロ/米ドルは買戻しに
今、起きていることは、紛れもなく自国の都合を最優先させた「通貨切り下げ競争」に他ならないワケですが、市場の反応は、「米ドルの基調的な上昇圧力となる」という通貨に対するものよりも、「中国は、そうまでしなければならないほど国内事情が悪化している」との認識に傾きつつあります。
「市場レートにより近づける」措置として、IMF(国際通貨基金)などからは、「歓迎する」との意向が表明されていますが、市場は、これを目先の中国経済に対する不透明さと受け取り、リスク資産、つまり、株価の売却という行動に出ました。
為替市場でも、125円台まで買い上げられていた米ドル/円は、目先のポジション調整を余儀なくされた形となったほか、ユーロ/米ドルについては、ユーロキャリーの巻き戻しや、「疑似人民元」としての位置づけとなっている「豪ドル」を対ユーロで売り浴びせたことで、ユーロクロス(米ドル以外の通貨とユーロとの通貨ペア)の急騰とともに、買い戻しの動きとなりました。

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来月、9月にも決定されるであろう、米利上げを前提とした「米ドル買い」のポジションは全般的に縮小させられることとなっています。
■中国経済の悪化は予想以上! 米利上げ先送りの可能性
FOMC(米連邦公開市場委員会)の声明文でも、何度も言及されているように、米国はこういった「国際情勢」をかなり意識しています。
中国経済が予想以上に悪化していることが、今回の中国人民銀行による一連の措置の裏にあるのならば、やはり、米利上げの時期が先送りされる可能性も否定できないでしょう。
市場を含め、FRB自身も確固とした判断ができない状況ではないかと感じています。
そうであれば、為替市場も、このまま米ドル高トレンドが強まるというのではなく、しばらくはレンジ内での様子見の動きとなるかもしれません。

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ただ、豪ドルや加ドルなどの資源国通貨については、WTI原油先物価格(※)がいまだに安値をトライしている状況では、なかなか継続して買われるということにはならないでしょう。
(※編集部注:「WTI」とは、米国テキサス州西部とニューメキシコ州南東部で算出される原油の総称。「WTI原油先物」は、ニューヨークマーカンタイル取引所(NYMEX)で取引されており、NY原油先物などとも呼ばれる。「WTI原油先物」は、北米の原油価格の指標となっている)

(出所:米国FXCM)
引き続き、戻り売りがしっくりくるのではないでしょうか。
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