■米財務長官とECB総裁が口撃しあう
為替市場が「通貨安競争」の様相を呈してきましたね。口火を切ったのはムニューシン米財務長官。
先週(1月22日~)24日(水)に「貿易に関して言えば、米ドル安はいいことだ」と明言したことで米ドル安が加速しました。
【参考記事】
●米通商問題が争点となり米ドル安が進む。ドル/円は110円が決壊! 次は105円へ…!?(1月25日、西原宏一)
ムニューシン米財務長官が「貿易に関して言えば、米ドル安はいいことだ」と発言したため、1月24日(水)の為替相場は米ドル全面安の展開に (C)Bloomberg/Getty Images
これに対して翌日(1月25日)には、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁がムニューシンをほぼ名指しする形で「ルールから外れている」と強く批判しました。
急激なユーロ高が進まないよう、時間をかけてテーパリング(※)への地ならしを行なってきたのに水を差された格好ですから、ドラギが怒るのも無理はないところです。
(※編集部注:「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)
ECBのドラギ総裁はムニューシン米財務長官をほぼ名指しする形で「ルールから外れている」と強く批判した (C)Bloomberg/Getty Images
でも、ユーロ高に対してはECB幹部も牽制発言を行なっていましたよね。
「ユーロ高のスピードが早すぎるからコメントする」というのはロジックとして理解できますが、米ドル高が進んでいたわけでもないのに、いきなり発言するのは単なる為替誘導になってしまいます。
【参考記事】
●日銀会合で黒田総裁は「出口」をどう語る? 何をしても上がらないドル/円は売り継続で(1月22日、西原宏一&大橋ひろこ)
■ECBトレードの次は日銀トレードか
そのせいか、ダボス会議ではトランプ米大統領が「最終的には強い米ドルが望ましい」と火消しにまわりましたが、同じくダボスで黒田日銀総裁が2%の物価上昇目標に「ようやく近づいている」と発言、テーパリングへの思惑を呼んだことから円高が進んでいます。
黒田日銀総裁は、ダボス会議で2%の物価上昇目標に「ようやく近づいている」と発言。テーパリングへの思惑を呼び円高が進んだ (C)Bloomberg/Getty Images
昨年(2017年)、ヘッジファンドが収益を上げたのは、テーパリングを前提にした「ECBトレード」。今年(2018年)も同じように「日銀トレード」で儲けようとヘッジファンド勢は考えているのでしょう。
米ドル/円は、110円を明確に割れています。12月の日銀短観によると、企業の想定レートは109.66円。109円台後半まで戻したとしても、売りが出てきやすくなっています。
(出所:Bloomberg)
■トランプ大統領の一般教書演説は現地時間30日深夜に
ひろこ 今週(1月29日~)は、現地時間30日(火)深夜(日本時間31日午前中)にトランプ米大統領の一般教書演説が予定されています。
年初に想定していたよりも早く通商政策がクローズアップされており、先週(1月22日~)、トランプ大統領は太陽光パネルや洗濯機に対する緊急輸入制限(セーフガード)を発動する大統領令に署名しました。
トランプ大統領としては、一般教書演説に向けて実績を積み上げておきたいのでしょう。
一般教書演説で目玉になりそうなインフラ投資についても、当初の発表を上回る約1兆7000億ドルに引き上げるとの見通しを話していました。
インフラ投資の発表へ向けてコモディティ市場も上昇していましたが、ここにきて高値圏での持ち合いとなっています。一般教書演説に向けて進んでいた市場の動きが、演説を通過後に反転する可能性もありそうですよね。
米ドル/円を売っている人は、一部を利食っておいてもいいかもしれないですね。
(出所:Bloomberg)
それから、今週(1月29日~)は月末ということもあり、年金基金などがリバランスのため、米国株を一部決済するのでは? との観測も出ています。
株から債券へとシフトする動きが出ると、米金利が低下し、米ドル/円へも影響が出るかもしれませんね。
■昨年安値107.32円方向へ円高継続か
今週(1月29日~)はFOMC(米連邦公開市場委員会)や米雇用統計も予定されていますが、次の利上げは3月の見通し。米雇用統計も、最近では注目度が低下しています。
アメリカの景気が強いことはわかっていますからね。3月、6月と年前半に2回利上げして、「今年(2018年)4回の利上げがあるかも!?」と思わせるようなら、再び、為替市場は、日米金利差に注目するかもしれません。
FOMCの利上げペースには、気を付けておきたいという指摘もありますね。
いずれにせよ、110円を明確割り込んでいることから、米ドル/円は、引き続き、戻り売りでいいでしょう。
トランプ大統領の一般教書演説で「バイ・ザ・ファクト」となる可能性もありますが、ジリジリと昨年(2017年)安値である107.32円をめざしていくのではないでしょうか。
(出所:Bloomberg)
(構成/ミドルマン・高城泰)
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