昨年12月、政府は2011年度の税制大綱を閣議決定した。この中で注目したいのは「くりっく365」などの取引所取引と、その他の店頭取引で異なっていたFX(外国為替証拠金取引)の課税体系を、2012年から一本化すると決まったことだ。この法案の実現に向けて活躍したのが、元為替ディーラーの衆議院議員・今井雅人さんだった。
■店頭FXの利益にかかる税率も20%に
ザイ これから国会に提出されるFX関連法案のポイントを教えてください。
今井 一つには「税の不公平をなくす」と言うことです。現行は取引所のFXは「申告分離課税」ですから利益の20%を納めればいいのですが、店頭のFXは「総合課税」なので、他の所得との合算で税率が決まります。例えば課税所得額が330万~695万円の人は30%、1800万円を超えると50%です。同じFXなのに、課税体系が違うのはおかしいし、不公平でしょう。
ザイ なぜ、異なる課税体系になっていたのですか?
今井 98年にFXが始まった当時は監督官庁もない状態で、問題を起こす業者もありました。それで、きちんと制度整備をしようということで「改正金融先物取引法」が施工されると共に、健全化や内容の透明化を図ろうということで「くりっく365」ができたのです。こちらは従来からある証拠金取引の制度に準じる形となり、本来ならこの時に一本化すべきでした。ところがどういうわけか、そのまま今日まで来てしまったんですね。
ザイ 今井さんは議員になられてから「是正すべきだ」とずっと主張してこられたわけですが、法案になるまでにはご苦労がありましたか?
今井 正直、この問題に興味のある議員がほとんどいなくて、大半が「へ~、そうなんだ」という反応でして、理解してもらうのに苦労しました。
ザイ 個人投資家にはかなりポピュラーな商品になったと思うんですが、国会議員の間ではまだまだ特殊な金融商品なんですね。
今井 状況が進展したのは、民主党が策定していた「新成長戦略」に、当初はなかった“金融”が入ってからです。実は私は、そのプロジェクトチーム「ヒト・モノ・カネ倍増小委員会」のメンバーなんですが、そこで「日本が今後、成長著しい中国や韓国との競争を制し“アジアの金融センター”としての地位を確立していくには、インフラ整備だけでなく、税の簡素化も絶対やらなきゃならない」ということで、多くの議員が関心を持ってくれて、議論が進んでいったんです。もし「取引所FXと店頭FXの税の不公平を解消しよう!」というだけでは、俎上にもあげてもらえなかった可能性があります。運も良かったです。
ザイ これから通常国会で法案が通れば、2つのFXの税制一本化と合わせて「3年間の損失の繰り越し」や「日経225mini」「CFD(差金決済取引)」などデリバティブ商品との損益通算」もできるようになるわけですね。
■証券優遇税制延長が決まった舞台裏は!?
ザイ 今回の法案には「証券優遇税制」(株の配当や譲渡益にかかる税率は本来は20%だが、03年から10%に軽減されている)の2年間延長も盛り込まれました。打ち切り濃厚と言われて半ば諦めていただけに、正直意外でした。
今井 私は継続派だったんですが、確かにかなり直前まで旗色が悪かったです。当初は「いずれは廃止するにせよ、今は時期が悪い」と主張していましたが、「法人税を引き下げれば(企業の税負担が軽減され)株価上昇につながるのだから影響はない」という意見に押され気味でした。
そこで作戦を変え「優遇税率の継続は諦めるが、それだけでは“成長戦略”にならないので、税の簡素化や投資環境の整備と抱き合わせでやってください」という話をしていたんです。
ザイ それにしても、廃止は濃厚だったわけですね。
今井 そうです。そもそも本則に戻そうというのは「証券優遇税制は金持ち優遇だ!」というのが前提なんです。確かに所得が高い人ほど、配当や譲渡益の比率は大きくなっています。しかし一方で、年収500万円以下の人が株式保有率の約7割に達している事実もある。そこで「ISA(少額投資非課税制度)」を導入する計画が進みました。ところが当初案は「向こう3年間、個人投資家に ISA専用投資口座を作ってもらい、その口座で出た利益については非課税。ただし、入金できるのは100万円までで、株を売却した時点で終了」というものでした。
ザイ 損切りしても、非課税の権利を失うということですか!?
今井 そうなんです。1つの銘柄を10年以上も持ち続けることが前提だったんです。証券会社もたった3年で終わってしまう制度のために、数億円のシステム投資をしなくちゃならない。あまりにもお粗末なので、猛反対したんです。「どうせなら恒久的に使える制度を作りましょうよ」と。
そしたら最後は導入までの時間が足りないこともあって“満額回答”になりました。嬉しい誤算でしたね。
■投機を煽るのではなく制度を整えるのが仕事
今井 ですが、証券優遇税制はいつか終わります。おそらくこれからしっかりしたISAの制度を作って、準備が整ったら切り替えになるでしょう。最終的には、株も投資信託もFXもCFDも、投資商品は全て1つの特定口座にまとめて、そこから源泉徴収する形になるのではないかと思います。
ザイ 個人投資家からすればそちらのほうが簡単ですし、わかりやすいですね。
今井 私は、国が投機を煽るようなことはすべきではないと思っています。私たちがやるべきことは、制度をわかりやすくしたり、環境を整備することです。そうして投資に目を向ける人が増え、それぞれにマネーリテラシーを高めてもらえば、自ずと市場は活性化すると思うんですね。その一方で「成長戦略」としては、外国から投資を呼び込むことも必要です。これにはまず、日本経済を再生すること。それから提出書類の英語使用を認めるなど、参入障壁を取り除いたり――やらなきゃならないことが、たくさんあります!
ザイ これからも、投資が盛り上がるような制度作りや環境整備を、ガンガン進めてください。
(取材・文/渡辺一朗 撮影/和田佳久)
本記事は2011年1月21日発売の月刊マネー誌『ダイヤモンドZAi』3月号にも掲載されています。その他、『ダイヤモンドZAi』3月号にはFXの確定申告に関する解説記事、ニュースや経済指標の読み方に強くなる「FX FUNドリル」なども掲載。ぜひ、ご覧ください!
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