■米ドル全体の安値打診は「コップの中の嵐」にすぎない
反落していた米ドル全体が底打ちすることは、想定より遅れてはいたものの基本的には規定路線で、米ドル高基調が維持される公算が高い。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 日足)
この意味合いでは、米ドル全体の安値打診は、本質的には「コップ中の嵐」にすぎず、トレンド自体を修正できるほどのモメンタムを持ち合わせていないから、米ドル高基調の修正があっても、それは足元で起こることではなく、後ずれすることになるだろう。
前回のコラムで既述したように、米ドル全体の反落は、昨年(2016年)12月15日(木)あたりから始まったわけだから、だいぶ時間が経ってきた。
【参考記事】
●トランプ氏の米ドル高牽制発言で米ドルの反落終了か。祝大統領就任でドル高に?(2017年1月20日(金)、陳満咲杜)
新年(2017年)に入り、ドルインデックスの日足は「下落ウェッジ」のフォーメーションを形成しつつ、安値をトライしており、これは昨日(2017年1月26日)安値まで続いていたとみなされる。が、昨日(1月26日)安値の打診をもって、底打ちに成功したとみる。
昨日(1月26日)のドルインデックス日足は、典型的な「強気リバーサル」のサインを灯した。ザラ場にていったん安値更新を果たしたものの、その後、急反発。月曜日(23日)朝にできた「ギャップ」も埋めたから、シグナルとして示唆に富んでいる。

(出所:Bloomberg)
このときは、新年(2017年)に入り、米ドル全体の下落が続いていた中、1月17日(火)のトランプ氏の発言に続き、次期財務長官に指名されたムニューチン氏も米ドル高を牽制、23日(月)に米ドルの下落をさらに推し進めた格好になったのだった。
■年初来「ダマシ」が連発した意味合いとは?
プライスアクションの視点では、新年(2017年)に入ってからいわゆる「ダマシ」が連続的に発生していたことがはっきりしている。

(出所:Bloomberg)
まず、1月3日(火)の日足(上記チャートの1)では、高値更新または2016年12月に形成された「トリプル・トップ」をいったんブレイクしたものの、その後、続伸できず反落した。これは典型的な「フォールス・ブレイクアウト」、すなわち、かつての重要レジスタンスゾーンの更新自体が「ダマシ」であったと示唆された。
次に、1月11日(水)の日足(上記チャートの2)は、5日(木)、9日(月)のチャートが示した「ダブル・トップ」に対するブレイクが短期に終わっただけでなく、当日大きく反落して大引けしたから、「フォールス・ブレイクアウト」に「弱気リバーサル」のサインを点灯したわけだ。
最後に、19日(木)の50日移動平均線打診(上記チャートの3)も、そのまま続かず陰線引けしたから、17日(火)、18日(水)のチャートで形成された「インサイド(はらみ足)」のサインに対する上放れの試しが「ダマシ」であったことが露呈した。
ゆえに、23日(月)の急落、また、25日(水)、26日(木)の連続した安値更新につながったわけだが、連続した「ダマシ」の意味合いは「下落ウェッジ」というフォーメーションの形成から考えると、むしろ、その可能性の高さに納得するほどだ。
要するに、「下落ウェッジ」の形成、また進行のニーズがあったからこそ、「ダマシ」のサインが連続して点灯したわけだ。つまるところ、連続したダマシの出現は、フォーメーションの可能性を示唆していたというほかあるまい。
だから、米ドルの反落は、基本的に「下落ウェッジ」の中に制限されるもので、トランプ氏や次期財務長官の米ドル高牽制発言と相まって一時の急落があったとしても、基本的にそれは「コップ中の嵐」なのである。
■新年初! 下落でなく、上昇方向の「ダマシ」のサインが…
また、より重要なのは、「下落ウェッジ」の形成が、連続した「ダマシ」をもって形成され、また、その確実性が証明された以上、同フォーメーションの完成、すなわち、米ドルの底打ちが、逆の「ダマシ」のサイン点灯をもって示唆されるはずということだ。また、逆の「ダマシ」のサインが点灯すれば、米ドル底打ちの可能性が証左されるだろうといった推測も、あらかじめできるわけである。
だから、昨日(2017年1月26日)の反騰は、日足における意味合いが大きかった。
なにしろ、昨日(1月26日)の「強気リバーサル」のサインは、一時的な安値更新なしでは典型的なサインになれなかった。そして、その一時的な安値更新を「ダマシ」と見なした場合、それは新年(2017年)に入ってはじめて、下落ではなく、上昇の方向を示唆する「ダマシ」のサインと見られる。
ゆえに、昨年(2016年)12月15日(木)あたりを起点とした米ドル全体の下落は、昨日(1月26日)にてすでに底打ちした公算が高く、これから続伸してくるだろう。
■米ドル/円の高値追いがOKとなるポイントは?
米ドル/円の足型はより堅調であった。2017年1月3日(火)高値から下落チャネルが形成されてきたとみる場合、1月19日(木)の戻りが「ダマシ」だったと見なし、同チャネルを一段と推進したが、今週月曜(1月23日)の安値打診があっても、その後、安値は更新されず、昨日(1月26日)の大幅反騰をもって切り返しのサインを点灯した。

(出所:Bloomberg)
1月23日(月)~25日(水)の日足で形成された「インサイド(はらみ足)」は、昨日(1月26日)の反騰をもって上放れを確認、また、前述の下落チャネルのレジスタンスラインをブレイクしたわけだから、基調の好転を示唆。この上で、50日移動平均線(≒115.07円)の回復があれば、一段と上値トライの気運が高まるだろう(※)。
もっとも、今週月曜(1月23日)の安値トライが、17日(火)安値と「ダブル・ボトム」を形成したとみる場合、これから19日(木)高値115.62円のブレイクがあれば、一段と上昇余地を拡大するとも言えるだろう。
「ダブル・ボトム」を成立させるには、同高値のブレイクが必要とされるから、ブレイクがあれば、米ドル/円の底打ちを認定でき、戦略的な高値追いも考えられるのではないだろうか。
(※編集部注:編集部へ原稿が到着したあと、記事編集中に米ドル/円は上昇。115.07円を上抜け、一時、115.30円台をつけている)
■クロス円も堅調に推移、なかでも英ポンド/円がリード
注意していただきたいのが、今週(1月23日~)に入ってから、米ドル/円はドルインデックスとの相関性を弱めている、ということだ。昨日(1月26日)までドルインデックスは一時、安値を打診していたのに対して、米ドル/円は1月23日(月)の安値を割り込めず、むしろ毎日、安値の水準を切り上げてきたので、円売りの再開が暗示されていた。
となると、話は単純明快になってくる。
米ドル/円はドルインデックスほど弱気変動になっていなかったから、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)も堅調に推移する傾向にあったはずだ。だから、今週(1月23日~)に入ってからの本当の狙い目はクロス円にあった。
特に英ポンド/円の上昇は目立つ。
1月16日(月)の安値から計算すると、途中1日の調整を無視すれば、実質的にもう8日か9日の連続上昇を達成。その値幅は800pips超にもなるから、クロス円の反騰を「リード」しているようにみえる。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/円 日足)
前回のコラムにて指摘したとおり、英ポンド/円の上昇は、当然のように米ドル/円のみでなく、英ポンド/米ドルの上昇とリンクしている側面が大きい。
【参考記事】
●トランプ氏の米ドル高牽制発言で米ドルの反落終了か。祝大統領就任でドル高に?(2017年1月20日(金)、陳満咲杜)
では、英ポンドの堅調はどこに起因しているかと聞かれると、やはり、ユーロ/英ポンドの下落が英ポンドの値動きを支えている側面が大きい。
前回のコラムでも指摘させていただいたように、EU離脱の「ハードランディング」を決断した英国の決断は、結果的に対ユーロの英ポンド高をもたらした。そして、そのような傾向がこれからも継続される公算が高いとみる。
ユーロ/英ポンドの日足を見る限り、大型「三尊型(※)」のフォーメーションが形成される可能性が高まっている。実現した場合、英ポンドの対ユーロでの一段の上昇(ユーロ/英ポンドの一段下落)を覚悟しておきたい。
(※編集部注:「三尊型」はチャートのパターンの1つで、天井を示す典型的な形とされている。仏像が3体並んでいるように見えるために「三尊型」と呼ばれていて、人の頭と両肩に見立てて「ヘッド&ショルダー」と呼ぶこともある)

(出所:Bloomberg)
■トランプ政権下では「大騒ぎ」発生がいつものことに
ところで、最近の為替市場における主役は、主要通貨ではなく、メキシコペソに違いない。「有言実行」のトランプ氏、米墨国境線に壁を作る計画を実働させたとか、米墨大統領会見がキャンセルされたとかのニュースが連日流され、主要通貨ペアの方がやや「蚊帳の外」といった感じだ。
が、このような事態は、トランプ政権下において「慣例化」される可能性が大きい以上、何らかの「大騒ぎ」発生にマーケットも徐々に慣れていくだろう。
トランプ氏がこれから何を言うかはまったく想定できないが、メインシナリオの米ドル高基調はしばらく続くことが確かだ。
とはいえ、米ドル高が今年(2017年)延々と続くわけはない。強調しておきたいのは、筆者は目先、米ドル高基調に復帰することを予想しているが、米ドル高の継続性については、おそらく再度、高値更新できるかできないかのところで見直されるはずだ。市況はいかに。
(PM1時執筆)
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