■悪い米雇用統計の影響は一時的、再び米ドル全面高へ
今週(4月6日~)に入ってから、米ドル全体は強い。リンクした値動きで、米ドル/円の強さも確認されている。
先週末(4月3日)の米雇用統計がもたらした米ドル全体の売り圧力が一掃され、先週(4月3日)のコラムで指摘したとおり、米ドル/円が深押しを避けたことで再度高値トライの気運が高まっているとみる。
【参考記事】
●日銀追加緩和への思惑が消えない限り、米ドル/円は深押し回避、高値トライもある(2014年4月10日、陳満咲杜)
テクニカルの視点では、ドルインデックスがすでにブル(上昇)トレンドへ復帰した公算は高い。下に掲載したチャートが示しているように、先週末(4月3日)の米雇用統計がもたらした影響は限定的だった。
(出所:米国FXCM)
先週末(4月3日)の米雇用統計を受け、ドルインデックスは急落したが、3月末の安値を更新できなかったことで底堅さを暗示。ドルインデックスは今週(4月6日~)に入ってから一貫して上昇し、3月31日(火)高値を更新したことで逆にダブルボトムといったフォーメーションの形成可能性を示唆。ブル基調の再開につながっていると思う。
■米ドル/円、ユーロ/米ドルも元のトレンドへ復帰
米ドル/円も然り。基本的にドルインデックスとリンクした値動きだが、より強かったところをあえて指摘するならば、それは今週月曜(4月6日)の安値が先週末(4月3日)安値を下回らなかったところだと思う。
その上、ドルインデックスに比べ、米ドル/円の方が、短期スパンにおいて「逆三尊(※)」のフォーメーションをより鮮明に描けたところも、テクニカル上、強気の解釈につながっているから、見逃せない。このあたりの詳説は、筆者のブログに書いてあるから、ここでは省く。
(※編集部注:「逆三尊」とはチャートのパターンの1つで、大底を示す典型的な形とされている。ヘッド&ショルダーズ・ボトムとも呼ばれる。また、「逆三尊」の逆で、天井を示す典型的な形が「三尊」(ヘッド&ショルダーズ))
(出所:米国FXCM)
反面、ユーロ/米ドルは頭打ちのサインが、3月31日(火)安値の割り込みをもって点灯した模様。
3月高値と今週4月6日(月)の高値が相俟って、トリプルトップのフォーメーションが成立しているから、ユーロはすでにベア(下落)トレンドを再開したとみるほうが無難であろう。当然のように、近々の安値更新も視野に入る。
(出所:米国FXCM)
■米雇用統計の結果が悪くても米ドルが強い理由とは?
ところで、先週末(4月3日)の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が予想の半分しかなく、まさにショックだったにも関わらず、なぜ、米ドルがこんなに強いのかと聞かれると、事後的にいくらでも理屈を並べることはできるが、筆者が指摘しておきたいのは1点のみ。
すなわち、米利上げ予測であり、また、それだけで十分かと思う。
言い換えれば、今や米雇用統計自体が注目されているのではなく、同統計をもって米利上げ時期を測ることが問題となっているのであり、結局、米利上げはいずれ実施されるのなら、悪い材料が出た時こそ、むしろ米ドルの押し目買い好機だと解釈されがち、ということだ。
その上、悪材料でも深押しを回避し、たちまちブルトレンドに復帰したことから考えると、米ドル全体の強気変動は当面続くことが暗示されよう。それに尽きる。
■外貨サイドの事情が芳しくなかったことも理由に
さらに、あえて言うなら、外貨サイドの事情も芳しくなかったことが挙げられる。
ユーロサイドのギリシャ問題、英ポンドサイドの選挙問題、豪ドルサイドの利下げ観測などなど、外貨サイドのファンダメンタルズが、総じて弱材料を抱え込んでいるから、米ドルのスピード調整が浅く済んだという側面も無視できない。
円サイドでは、前回のコラムでも強調したように、一番大きく効いているのは日銀による追加緩和に対する思惑だろう。
【参考記事】
●日銀追加緩和への思惑が消えない限り、米ドル/円は深押し回避、高値トライもある(2014年4月10日、陳満咲杜)
デフレに逆戻りするリスクがくすぶっていること自体、日銀政策の失敗を暗示する悪材料ではあるが、追加緩和の思惑を高めるには、むしろ、これは好材料だ。したがって、追加緩和の思惑が続く限り、米ドル/円は深押しを回避でき、上値打診しやすい構造にあると考えられる。
■米ドル/円は悪材料が米ドル買い・円売りの好機に
米利上げ時期に関する観測と同じく、日銀の追加緩和時期に関してもいろいろな観測がある。
時々の材料、指標や高官発言によって観測や思惑自体も変化してくるが、先週(4月3日)の米雇用統計と同様、悪い材料が出て押し目があれば、そのたびにそれが米ドル買い・円売りの好機と見なされる可能性が大きいので、しばらく米ドルの優位性は変わらないと思う。
この意味では、米利上げにおいても、日銀追加緩和にしても、実施していないからこそ、こういった「押し目効果」が効いていると思う。
言い換えれば、「ウワサで買い、事実で売る」の相場格言のとおりなら、実際、これらの政策が実施された場合の効果は限定的で、むしろ、米ドルロング筋の利益確定を招く可能性もある。
■米ドル全面高を止めるのは株式市場の大幅調整か
もっとも、為替市場のみの視点では浅いから、金融市場全体の状況といっしょに考えないといけない。
本日(4月10日)、日経平均が一時、2万円の大台に乗せたことから考えると、相場全体のリスクオンも米ドル買いを支えている。

(出所:CQG)
「伝統的」的なリスクオフの米ドル買いは一般論であり、昨年(2014年)半ば以降、硬直化されてきた米ドルのブルトレンド自体がオーバーボートを極めている。現在はリスクオンよりもリスクオフの方が米ドル売りをもたらす可能性に注意しておく必要がある。
こういった視点からみると、目下再開されている米ドル全面高に終止符を打つ事態があるとしたら、株式市場の大幅調整といったところだ。日銀の追加緩和が、株安・円高を受けてはじめて実施されるような、後手に回った策になるようなら、話はまったく別になってくるだろう。
■米ドル高を支える中国株は間違いなくバブル状態
しかし、最近のマーケットは欧米のみでなく、中国や香港といった中華圏の動向に強い影響を受けているから、「中華バブル」が続いている限り、当面、米ドル高も進みやすいのでは。とはいえ、日本株はすでにバブルの状態に入りつつあるから、これから高値波乱があってもおかしくなかろう。
ちなみに、中国株は間違いなく日本株以上のバブル状態だ。根拠を2つ挙げたい。
まず、事実上初のデフォルトを出した中国上場企業、中科雲網科技集団の株は、デフォルト決定の翌日暴落どころかストップ高だった。
次に、普段まったく株に無関心なうちの家内が、密かに中国株投資を再開し、昨日豪華な食事をおごってくれて、株投資の利益から捻出したと自慢気に言っていたことがある(汗)。
最後に、バブル自体の判定はたやすいが、バブルがいつ破裂するかは判定できないので、当面バブルとつき合うしかないことも強調しておきたい。市況はいかに。
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