■「QE3」があっても、金はいったん売られることになる
FRB(米連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長のジャクソンホールにおける講演を、多くの市場関係者は固唾を呑んで見守っている。
言うまでもなく、「QE3(量的緩和政策第3弾)」を巡ってまた一波乱あるのではないかという警戒感は強く、マーケットに緊張感が張り詰めている(「QE3は実施されないとみる4つの理由。だから、米ドルは底打ち、反発する」を参照)。
マーケットの一部では、欧米株が8月25日(木)に再び反落し、ドルインデックスがやや切り返してきたことから、8月26日(金)の講演では、バーナンキ議長が「QE3」に言及しないとささやかれている。
また、本来ならば「QE3」の恩恵をもっとも受けるはずの金(ゴールド)価格が、8月22日(月)に史上最高値をつけてから3日間で、一時10%超も急落している。このことも、何らかを示唆していると思われている。
もっとも、金価格の急落は、上海黄金交易所(Shanghai Gold Exchange)が8月に入って2回も証拠金を引き上げたことから、ロング(買い持ち)筋が投げ売り、それが海外マーケットに波及したようだ。
このことが引き金となり、さらに、米国のComex金先物の保証金が27%引き上げられたことも相まって、金価格は急落したと推測される。
このような構図は、2008年原油相場の崩壊を思い出させる。後になって、金のトップアウトを説明する材料にもなりかねない。
しかし、根本的には、この間の金価格の急騰で「QE3」の可能性と効果がマーケットに織り込まれ、その反動で急落したと思われる。
したがって、金価格が最高値の1900ドル近辺に張りつき、そのような状況下で「QE3」の実施があったとしても、金はさらに買われるのではなく、いったん売られることになるだろう。
「ウワサで買い、事実で手仕舞う」というわけだ。
また、金といえば、米NY州裁判所が8月23日(火)に、ストロスカーン前IMF(国際通貨基金)専務理事の訴追を取り下げたというニュースも妙に気になる(「金高もドル安も金融マフィアが仕組んだ!ストロスカーン氏逮捕もアメリカのワナか!?」を参照)。
最初から「はめられた」ことに間違いはないが、IMF専務理事という公職を追われた以上、同氏を逮捕する「目的」は達成された。「えん罪」かどうかはもはや問題ではなく、これで一件落着である。
■金急騰&ドルインデックスの「沈黙」が意味することは?
金について長く話してきたが、目的はもちろん、為替市場との比較である。
「QE3」の有無に関する憶測がマーケットを巡り、金価格が急騰し、その後に急落したにもかかわらず、ドルインデックスは極めて限定的な値動きにとどまっている。
そのこと自体は米ドル安の限界を示唆するサインと受け止められ、逆に、米ドル全体の「安定」が金価格の乱高下を助長したとも思われる。
まさに、米ドルの「沈黙」は金なりである。
(出所:米国FXCM)
よりマクロの視点では、米ドルの「沈黙」にしても、金の乱高下にしても、景気見通しがこれから悪くなり、いわゆる「二番底」といった景気後退への懸念が強いことの表れではないかと思う。
2008年の「リーマン・ショック」の時と同じように、本格的な景気後退局面では、米ドルと金の両方が買われ、株式市場は大きく落ち込む。
■「空売り禁止」ほど強烈なインパクトを持つ言葉はない
さて、8月25日(木)の報道によると、「株の神様」ことバフェット氏がバンク・オブ・アメリカの株を買い入れる意向を表明したが、市場のセンチメントは改善されなかった。
市場関係者の話によると、バーナンキ議長の話を待つよりも、ドイツが株式の空売りを禁止するといったウワサが効いていたようだ。
マーケットに携わる者にとって、「空売り禁止」ほど強烈なインパクトを持つ言葉はない。2008年に米国政府が金融株の空売りを全面禁止した際、その後、米国の金融セクターの株は48%も暴落した。
「空売り禁止」は、強烈なベア(弱気)相場のサインとなり得る。だから、「株の神様」の表明があっても、マーケットを支えきれなかったわけだ。
ユーロ圏ではすでに、イタリア、フランス、ベルギー、スペインが株の空売りを禁止している。だが、核心の大国であるドイツまでもが追随してくるとなれば、話は違ってくる。
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