■ドラギ総裁への市場の期待は大きすぎた
前述のように、危機的状況に置かれた足元のマーケットであるからこそ、多くの市場関係者はECBに大胆な措置を求め、ドラギ総裁に多大な期待を寄せていた。
だが、冷静に考えれば、無理なところが多かった。筆者は事前にツイッターで、「リーマン・ショックでも、ECBは1%以下まで利下げしなかった。翌日のEU首脳会議待ちで、ECBは盲進しない公算」との見通しをつぶやいた。
ECBにとって、注目度の高いEU首脳会議前に大胆すぎるほどの施策を打ち出すリスクはあまりにも大きいし、市場の期待どおりの材料を包括的に提示できたとしても、EU首脳会議のメインテーマである財政統括に悪影響を及ぼすことは必至だ。
したがって、ドラギ総裁からすれば、小幅な利下げにとどめることは、むしろ当然の判断である。「ECBはEUの財政統括なしで、最後の貸し手にはなれない」といった立場を表明することなど、拙速であり、到底できない。
つまり、ドラギ総裁が市場の期待を裏切ったのではなく、そもそも、市場の期待が大きすぎたのだ。その分、失望も大きいわけで、ユーロ/米ドルの1.3300ドル割れはその象徴である。
■問題は、首脳会議の合意や成果を市場がどう判断するか
ただし、一本調子のユーロ売りにもなっておらず、11月安値の1.3212ドルを下回っていない。このことは、市場がなお希望を持っていることを示唆しているだろう。
ここから、2人目の重要人物であるドイツのメルケル首相の英断に期待するマーケットの雰囲気が読み取れる。
ユーロの核心であるドイツの譲歩なしで、ユーロのソブリン危機は解決できない(「ドル資金の供給拡大は一時しのぎの策。そして、どう転んでも円高傾向は不変だ!」を参照)。
その一方で、ドイツが財政統括を前提条件としている以上、それが達成されたとしても、今回の危機の解決にどれほどの実行性があるのか、疑問も多い。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
しかし、EU首脳会議の結果を過度に悲観視することもないだろう。
危機の深刻さと緊急性は独仏の両大国も十分に承知しており、焦眉の問題を何とかしなければならない状況において、何らかの成果を見出せるのではないかと見ている。
問題は、首脳会議における合意や各種成果を、マーケットがどう評価するかである。
■なお、メルケル首相の指導力は期待されている
前日にドラギ総裁の「裏切り」があった分、EU首脳会議に対する期待がかなり後退している可能性が考えられる。
一方で、ユーロ相場が崩れていないことは、なお、メルケル首相の指導力が期待されていることを示していると思う。
いずれにせよ、市場の内部構造がファンダメンタルズに先行するといった「哲学」の信奉者としては、EU首脳会談の結果を予想できなくとも、急激なユーロ崩壊はないと見ているし、逆に、年内に一段のリスクオン、ユーロ高があってもおかしくはないと思っている。
テクニカル・アナリシスの視点でユーロを見れば、年初来安値を更新していくよりも、いったんリバウンドしてから安値更新していく蓋然性が高いと思われる。
極めて重要とされている今回のEU首脳会議で、何らかの形でマーケットを納得させ、リスクオンのムードを再起させる結果が出てくると見ている。
確かに、各国中銀でさえユーロ崩壊に備え、準備に余念がない状況下で、このような見通しを示すことに対して「頭がおかしい」と思われるかもしれない。
しかし、周知され、かつ、万全な善後策が用意される中、なかなか本格的な危機が発生しないことは、歴史が教えてくれている。
ユーロ崩壊があれば、それは紛れもなく、現代史に残る一大惨事である。それだけに、このタイミングでは早すぎると思う。
(12月9日12:00執筆)
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