■SNBの防衛ラインに接近するユーロ/スイスフラン
ユーロ/スイスフランの下落が止まらない。SNB(スイス国立銀行[スイスの中央銀行])が「これ以上はスイスフラン高を進ませない」と設定した防衛ラインである1.2000フランに接近している。
【参考チャート】
●FXチャート&レート:ユーロ/スイスフラン 日足

(出所:米国FXCM)
当コーナーでは2014年9月にも、ユーロ/スイスフランに注目した記事を公開しているが、その時のユーロ/スイスフランは1.2040フラン近辺だった。直近は、その水準を下抜け、1.2010フラン近辺まで下落しており、SNBの防衛ラインにさらに接近している。
【参考記事】
●【警戒】スイス中銀の防衛ラインに接近! ユーロ/スイスフランを取引できる口座は?
SNBはリセッションとデフレを回避するため、2011年9月6日にスイスフランの対ユーロレート(ユーロ/スイスフラン)の下限(ユーロ安・スイスフラン高)を1ユーロ=1.2000フランに設定した。そして、これを割りそうになった場合、あるいはそこを割り込んだ場合は無制限の市場介入を行うと発表した。同日には、実際に大規模なスイスフラン売り介入も実施している。
【参考チャート】
●FXチャート&レート:ユーロ/スイスフラン 月足

(出所:米国FXCM)
現在、ユーロ/スイスフランはその警戒水準に近づいているということなのだ。
【参考記事】
●JPモルガン・佐々木融さんに聞く(6)スイス中銀の介入が成功と言うには早い
●ヘッジファンド出身のスイス中銀総裁が宣戦布告! 日本の再介入はあるか?(2011年9月8日、西原宏一)
●為替介入で大暴落したスイスフラン! 大損失を被った個人トレーダーも!?(2011年9月9日)
では、SNBの無制限でのスイスフラン売り介入の方針があるにもかかわらず、ユーロ/スイスフランが下落しているのはなぜなのか?
■ユーロとスイスフランのそれぞれの事情とは?
そこで、ユーロ/スイスフランの今後の見通しやトレード戦略について、みずほ証券投資情報部のチーフFXストラテジスト・鈴木健吾さんに話を聞いた。
ユーロとスイスフラン、それぞれの事情を鈴木さんは解説してくれた。まず、ユーロについては次のとおりだ。
「現状のユーロ圏の景気とインフレ率を上げようと思っても、ユーロ圏は1つの国ではなく、地域なので、意思統一がなかなかうまくいきません。
そうなると、真っ先にできることは通貨(ユーロ)安ですから、もちろん公表はされていませんが、そのことをECBが容認している節があります。そういった中で、対スイスフランでもユーロ安が進むという流れになってしまっています」
ユーロ/スイスフラン下落の最大の要因としてECBのユーロ安容認を挙げる鈴木さんだが、スイス側の材料として、11月30日(日)に実施予定のSNBの金準備に関する国民投票についても聞いてみた。
■「スイスの金を救え」をスローガンとする国民投票とは?
SNBが保有している金(ゴールド)はこのところ年々減っている。SNBの金準備の推移を見ると、SNBの総資産に占める割合は最高で30%超あったが、2008年には20%、現在では7.7%まで低下している。
そうしたことを受けて、今回の国民投票では、連邦憲法改正を伴う、以下の3つの提案の賛否が問われることになっている。
(1)SNBは金準備を売却しない
(2)SNBは金準備をスイス国内に保管する
(3)SNBの総資産の少なくとも20%を金準備とする
仮にSNBの金準備を20%以上に引き上げるためには、およそ2530トン以上が必要で、現在の金準備1040トンに加えて、およそ1490トンの金を追加購入する必要があるとの見方もある。
「永世中立国であるスイスが金を買うというのは良いことです。ただ、仮に国民投票が可決されても、さらにスイスの州の過半数の賛成も必要になるので、実際にこれが実現されるのはハードルが高いと思います。
仮にSNBが金を購入するとした場合、金を買うためにSNBが紙幣を増刷する可能性があります。すでに刷ってある紙幣で買うとは限らず、新たに刷って量的緩和的なことをセットにしてくる可能性もありそうなのです」
スイスの連邦政府やSNBが憲法改正に明確に反対しているので、仮に国民投票で賛成されても実現する可能性は低そうだが、スイスフランの動きにも大きく影響しそうなイベントだけに、チェックしておきたいところだ。
では、ユーロ/スイスフランが1.2000フラン割れとなる可能性は…