(「 ザイFX!で2016年を振り返ろう!(1) 英国がEU離脱! 英ポンドは二度死ぬ!?」からつづく)
■米大統領選挙でトランプ氏が当選! トランプ相場到来!
続いてのサプライズは、米大統領選挙での「ドナルド・トランプ氏(以下、トランプ氏)当選」。
当選したこと自体もサプライズだったが、それ以上にサプライズだったのは「トランプ相場」がやってきたことだ。
トランプ氏が当選すれば、「トランプ・ショック」でリスクオフになると予想する市場関係者が多かったなか、リスクオフは超短期間で終了し、一転して米ドル/円は大きく上昇、株価も大きく上昇という、ものすごいリスクオン相場がやってきたのだった。

米大統領選挙でサプライズ当選を果たしたドナルド・トランプ氏。トランプ氏当選以降、強烈なリスクオン相場がやってきたこともサプライズだった (C)Mark Wilson/Getty Images
全米にホテルやカジノ、さらにゴルフ場などを持ち、不動産王としても知られるトランプ氏。
その知名度と潤沢な資金をバックにビジネス同様に順風満帆の選挙戦を展開……とはならず、逆風の中で掴み取った米大統領の座だった。
その背景にあったのが、トランプ氏の過激な発言の数々。「メキシコとの国境に万里の長城を築く」、「イスラム教徒は入国禁止」などといった発言は幾度となく物議を醸し、立候補した共和党内からも反発の声が挙がるほどだった。
■代議員の7割近くを獲得。トランプ氏が共和党指名勝ち取る
そんな逆風の中でも、米大統領の座を射止めたトランプ氏。その道のりはどのようなものだったのだろうか?
2015年6月16日(火)、共和党の米大統領候補者指名争いに名乗りを上げたトランプ氏だったが、泡沫候補とは言わないまでも、当初はたくさんいる候補者の1人というぐらいの位置づけだった。
また、メディアなどでも米大統領候補者指名争いを勝ち抜く可能性は低いとの論調が目立っていた。
【参考記事】
●フィスコNY・平松京子さんに聞く(2)トランプ大統領誕生なら米ドルは上がる?
ところが、トランプ氏は支持率で早々にトップに躍り出ると、共和党の「党員集会」や「予備選挙」で着実に勝利を重ねる展開。
2016年5月4日(水)、有力候補がすべて選挙戦から撤退したため、トランプ氏が共和党の米大統領候補者に指名されることが確実となった。
結局、代議員の7割近くを獲得したトランプ氏は、7月19日(火)に開かれた共和党大会で米大統領候補に指名されたわけだ。
これだけでもスゴいことをやり抜いたように思えるが、その後、トランプ氏は米大統領選挙で逆転劇を演じることになる。
■選挙戦はヒラリー氏が優位に進める展開
7月に開催された共和党大会、民主党大会で、米大統領候補に共和党はトランプ氏、民主党はヒラリー・クリントン氏(以下、ヒラリー氏)が選出され、米大統領選挙の選挙戦が本格的にスタートした。
民主党から選出されたヒラリー氏は、ビル・クリントン元大統領の妻であり、本人もオバマ政権で国務長官を務めるなど政治経験も豊富な人物。
民主党から選出されたヒラリー・クリントン氏は、ビル・クリントン元大統領の妻で、本人もオバマ政権で国務長官を務めるなど政治経験も豊富な人物だったが… (C)Win McNamee/Getty Images
当初、抜群の知名度と政治経験を武器に、ヒラリー氏が圧倒的優位に選挙戦を展開。それに加えて、トランプ氏の女性蔑視発言が明るみになると、ヒラリー氏はさらに盤石な体制を整えていったかに見えた。
3回に渡って開催されたトランプ氏とヒラリー氏によるテレビ討論会では、両候補がお互いを罵り合う姿に「史上最悪の中傷合戦」と揶揄されることもあったが、それでも総じてヒラリー氏が優勢との見方が多かった。
【参考記事】
●お下劣トーク流出でトランプ陣営に悲壮感。クリントン勝利でもリスクオンとは限らない(10月10日、広瀬隆雄)
●トランプいわく、大統領選は「八百長」でクリントンは「いじわるオンナ」らしい!?(10月21日、広瀬隆雄)
■私用メール問題再燃でヒラリー氏が窮地に…
ここまで優位に立ちながら、米大統領選挙でトランプ氏に敗れたヒラリー氏。いったい何が起こったのだろうか?
実は、ヒラリー氏優位のまま迎えた選挙戦終盤の10月下旬、この情勢に一石を投じる出来事が起こった。それが、FBIが再捜査すると発表した、ヒラリー氏の「私用メール問題」。
この「私用メール問題」は2012年、ヒラリー氏が国務長官を務めていた際に、私的に設けたメールサーバで「極秘扱い」を含む公的なメールを送受信していたというもの。米司法省は訴追しないという結論を出していたが、FBIは「新たなメールが見つかった」として10月下旬に再捜査を発表したのだ。
【参考記事】
●メール問題再発で混沌の米大統領選挙!ヒラリー側近の美人スタッフがどう関係?(11月4日、広瀬隆雄)
これがきっかけとなり、11月に入ってからいくつかのメディアが報じた世論調査で、トランプ氏がクリントン氏を猛追。支持率拮抗、もしくは逆転したと報じられるなど、一転して情勢は混沌としたものとなっていった。
投票日目前の11月6日(日)にFBIが、「ヒラリー・クリントン氏の私用メール問題は犯罪に当たらない」と、当初の判断を維持することを発表。これでやっぱりヒラリー氏優位との見方が拡がっていたのだが…。
■スイングステートでトランプ氏勝利。当選を確実なものに…
そんな中で迎えた、11月8日(火)の米大統領選挙当日。投開票が進む中、注目は民主党と共和党の支持者が拮抗する、「スイングステート」と呼ばれる州をどちらが勝利するかだった。
【参考記事】
●ソニーFHDの尾河眞樹さんに聞く(1) 米大統領選挙、トランプ大逆転の可能性は?
結果、トランプ氏がオハイオやフロリダ、さらにノースカロライナなどのスイングステートで勝利し、確実に足場を固めていった。
【参考記事】
●激戦州のオハイオなどでトランプ氏勝利! ドル/円は101円台、日経平均は900円超安
そうした中、NYタイムズがトランプ氏の当選確率を95%と報じるなど、一気にトランプ氏当選の機運が高まる情勢となり、最後はウィスコンシン州でトランプ氏が勝つと、トランプ氏の選挙人獲得数は過半数の270以上となって、ついに当選を決めたというわけだった。
なお、最終的な選挙人獲得人数と得票数は以下のとおり。実は、得票数ではヒラリー氏がトランプ氏を200万票以上も上回っていたのだが、米大統領選挙では獲得した選挙人の数で米大統領を決定するので、トランプ氏に軍配が上がったというわけだ。
【参考記事】
●米大統領選挙は予想外のトランプ氏勝利! リスクオフで米ドル/円急落も意外な動き…
●トランプ勝利で狼狽は禁物! イエレンはお払い箱! バラマキ政策で景気は良くなる(11月9日、広瀬隆雄)

■「トランプ・ショック」はどこに? 強烈なリスクオン相場到来
米大統領選挙の投開票が進む中、両候補が各州で勝利したと報じるニュースが流れるたびに、為替相場をはじめ、金融市場は乱高下。
そのうち、トランプ氏優勢ムードが高まると、米ドル/円は105円台半ばから101円台半ばまで大きく下落した。
「トランプ氏当選なら、『トランプ・ショック』でリスクオフ」という市場関係者の声が多かったので、ここまでは想定どおりの動き。
だがしかし、トランプ氏の当選が確実になるにつれて、意外にもリスクオフの流れは弱まり、米ドル/円は101円台で踏みとどまる展開となった。
それどころか、トランプ氏の当選が確定し、勝利宣言の演説をしたあたりから市場はリスクオンに転換。米国債は継続的に売られ、米長期金利はグングン上昇。
これはトランプ新政権の発足による経済成長加速、それによるインフレ期待上昇といった面が材料視されているもののようだ。
【参考記事】
●米長期金利上昇の背景に国債の投売り! 米ドル/円が、著しく上昇したのはなぜ?(12月8日、今井雅人)

(出所:Bloomberg)
また、強烈なリスクオン相場の中、米国株も上昇し、NYダウは史上最高値を更新し続けている。

(出所:Bloomberg)
そして米ドル/円は一時、116円台前半まで上昇。米大統領選挙でのトランプ氏当選から1カ月ほどで、およそ14円も急騰した。
【参考記事】
●レーガノミクス再来か。トランプ次期大統領のトランポノミクスのもと、ドル/円は109円へ(11月10日、西原宏一氏)
●トランプ大統領誕生で暴落後に株高・円安へ! だが、トレンドを作ると考えるのは早計!?(11月10日、今井雅人)
●トランプ・ラリーは米利上げまで!? ドル/円のターゲットは120円より110円が現実的!(12月2日、陳満咲杜)
●利上げ織り込み度100%のFOMC前後は調整売りに警戒! 米ドル/円はどう動く?(12月12日、西原宏一&大橋ひろこ)

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
また、米ドル/円が上昇、米国株が上昇という流れの中で、当然のように、日経平均も1万9000円台まで大きく上昇。年初につけた今年(2016年)の高値を上抜ける相場となった。

(出所:株マップ.com)
トランプ氏は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からは離脱し、NAFTA(北米自由貿易協定)は見直すと明言するなど、保護主義のイメージが強く、米ドル安志向では…との見方があったし、今も根強くあるが、相場は今のところ、そちらの材料は無視し、トランプ氏による大規模減税、財政支出拡大といったポジティブな面ばかり見ているようだ。
■トランプ氏当選と米ドル/円上昇を的中させた人物とは?
このように、トランプ氏当選、その後の強烈なリスクオン相場と予想外の出来事が続いたわけだが、実は、ザイFX!編集部が取材した専門家の中に、トランプ氏当選で「米ドル高」とズバリ的中させていた人がいる。
それがフィスコNYのアナリスト、平松京子氏。
【参考記事】
●フィスコNY・平松京子さんに聞く(1)NYから情報配信! フィスコNYって?
平松氏といえば、テレビ東京の「ニュースモーニングサテライト」や日経CNBCの「夜エクスプレス」にも出演しているので、ご存知の人もいるかもしれない。
その平松氏に、ザイFX!編集部が取材したのが6月8日(水)。トランプ氏とヒラリー氏が米大統領候補者と正式に決まるおよそ1カ月前のことだった。
ここで平松氏はレーガン元大統領を引き合いに出し、トランプ氏が米大統領になった場合、偉業を成し遂げる可能性があるとしたほか、トランプ大統領誕生は景気にとってプラスに働くと指摘。
またトランプ氏、ヒラリー氏のどちらが米大統領になっても、リスクオンの「米ドル高」につながっていくとの見通しを示していた。詳しくは以下の記事をご覧ください。
【参考記事】
●フィスコNY・平松京子さんに聞く(2)トランプ大統領誕生なら米ドルは上がる?
■9月上旬からドル/円の上昇トレンド転換を示唆していた!
そしてもうひとり、米大統領選挙前から米ドル/円上昇を予想し、見事に的中させたのが、「西原宏一のヘッジファンドの思惑」やメルマガ「ザイFX!×西原宏一 FXトレード戦略指令!」でもおなじみの元ディーラー、西原宏一氏だ。
西原氏は、9月上旬から早くも米ドル/円の上昇トレンド転換を示唆し始めていた。
【参考記事】
●“上海合意”は破棄とマーケットは認識。米利上げ観測&日銀追加緩和観測高まる!(9月1日、西原宏一)
そして10月下旬以降、トランプ氏がヒラリー氏を支持率で追い上げていると報じられても、一貫して米ドル/円上昇の見方を変えることはなかった。
【参考記事】
●日銀決定はテーパリングへの道?それともヘリマネ? 米ドル/円は底固め後、反発へ(9月29日、西原宏一)
メルマガ「ザイFX!×西原宏一 FXトレード戦略指令!」で、自身のトレードやポジションを公開している西原氏だが、以下の【参考記事】では米大統領選挙で乱高下する米ドル/円相場において、大底で買って高値で売るという、見事なトレードを披露してくれている。こちらもご参考に。
【参考記事】
●波乱の「トランプ為替乱高下相場」で西原氏がドル/円を大底で買えた理由とは?
さらに、米大統領戦後に米ドル/円が猛スピードで上昇すると、反落を警戒する声も少なくないなか、西原氏は米ドル/円上昇の見方を基本的には維持。
直近の12月12日(月)公開の記事では、FOMC前後は米ドル売りを警戒との見方を示しているものの、もう少し長い目で見れば、米ドル/円は120円への上昇過程の最中にあるとしている。
【参考記事】
●米次期財務長官は元GS・ムニューチン氏。強気材料豊富なドル/円、次は120円へ!(12月1日、西原宏一)
●「トランプラリー終焉」との表現に違和感。NYダウは2万ドル、ドル/円は120円へ上昇!(12月8日、西原宏一)
●利上げ織り込み度100%のFOMC前後は調整売りに警戒! 米ドル/円はどう動く?(12月12日、西原宏一&大橋ひろこ)

(出所:Bloomberg)
米大統領選挙でのまさかのトランプ氏当選、そして、「トランプショック」でリスクオフだったはずが、完全にリスクオンになってしまった2016年後半の金融市場。
2017年を迎えると、早速、1月20日(金)に米大統領就任式が予定されている。米大統領就任式まで、このトランプ相場は続いているのか? そして、トランプ氏は米大統領として就任式で何を語るのか……年初から金融市場はあわただしい動きになりそうだ。
(「ザイFX!で2016年を振り返ろう!(3) 日銀マイナス金利導入! ヘリマネ騒動も…」へつづく)
(ザイFX!編集部・庄司正高)
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