2年間で3億円以上を稼いだFXの自動売買!
先日、「FXで得た利益を脱税したとして逮捕者が出た」というニュースが流れた。
申告漏れとなった利益はじつに3億6800万円……。元手は100万円程度だったのではないかとも言われている。
脱税はもちろん悪。しかし、一方で「いったいどうやってそれだけの金額をFXで稼いだのか?」と疑問がわいてしまうのもFXトレーダーの性というもの。
ザイFX!では問題の人物をよく知る人物への取材に成功。そのあたりの秘密を聞いてみた。
でも、その前に今回の事件のおさらいを。
2012年3月9日、脱税容疑で逮捕されたのはシンガポール在住の会社役員・溝田耕治氏(37歳)。溝田氏は2009年から2010年にFXで稼いだ所得、約3億6800万円を申告せず、約1億4000万円を脱税した容疑で逮捕された。
溝田氏は専務を務める会社の倉庫に複数のパソコンを設置、自動売買ソフトを使ってFX取引を繰り返し、3億円以上の利益を稼ぎ、2010年12月にシンガポールへ移住していた。
また、報道によると溝田氏は十数人の知人から名義を借用して取引していたようだ。
以上が事件のあらまし。ここから浮かぶのは次の3つの疑問。
(1)どんな自動売買ソフトを使用していたのか?
(2)なぜ、他人の口座を使用したのか?
(3)なぜ、シンガポールへ移住したのか?
セミプロ級のプログラマーだった溝田氏
まずは最大のポイントである「どうやって稼いだか」だ。これを解き明かしてくれたのは、以前にも当サイトに登場してくれた2人組のシステムトレーダー・ミスターブレイン氏。
【参考記事】
●“FX会社出禁”トレーダーを捕獲!(1) 「1週間で2億円」の手法が狙うものは?
●“FX会社出禁”トレーダーを捕獲!(2) 禁断の手法!?業者間アービトラージとは?
ミスターブレイン氏は溝田氏とは旧知の仲だという。
「溝田さんとはシストレのチームを組んでいた時期があります。彼は独学でプログラミングを学んでいて、セミプロ級の腕前だった。
そして、私たちの取引ロジックをプログラミングするとき、彼に手伝ってもらったことがあるんです」
溝田氏はもともとシステムトレード(シストレ)に興味があり、独学を重ねていたようだ。そのなかでミスターブレイン氏と知り合い、両氏はある売買ロジックの実現へ向けてチームとして協力体制を敷く。
■巨額利益の出発点は「業者間アービトラージ」だった
「あるロジックというのは、以前にもお話した『業者間アービトラージ』です。
この自動売買を使ったのは開発に加わった数名だけ。全員の元手を足しても100万円に満たなかったと思いますが、数日で2億円になりました。
溝田さんも協力者なので当然、このロジックを使って取引していました。当時の溝田さんは元手がそれほどなかったようなので、資金を少し融通したこともあります。彼の運用資金はおそらく100万円もないくらいだったと思いますが、このときのロジックで2000万円くらいまで増やしたようですね」
業者間アービトラージとは、2つのFX会社の間に生まれる「瞬間的なレートの差」をサヤ取りしていくやり方。
典型的なのが「ストップ狩り」を利用する方法だ。最近では、ほぼなくなったようだが以前、悪質なFX会社では「ストップ狩り」と呼ばれるレートの操作が横行していた。
【参考記事】
●一部のネット界隈で囁かれている「ストップ狩り」とはどういうことか?
FX会社には利用者の注文状況がすべて見えている。今のレートよりも20銭下に損切りの逆指値売り注文が1000万通貨分たまっているとしたら、悪徳FX会社が儲けるのは簡単だ。
まず、今のレートで1000万通貨、売っておく。それから一瞬だけ、20銭下にレートをズラす。すると20銭下に置かれていた1000万通貨の逆指値注文が約定することになるが、悪徳FX会社は自分が持っていたポジションを逆指値注文とぶつけて約定させる。
その後、素知らぬ顔でレートをもとの水準に戻せば、悪徳会社はノーリスクで「20銭幅×1000万通貨」の利益が得られることになる。
このようなやり方が「ストップ狩り」だ。
1週間で2億円を稼いだミスターブレイン氏のロジック
FXは「相対取引」。まったく同じ食パンでもスーパーによって値段が違うように、FXでも同じ瞬間に複数のレートが存在する。
「あの会社のレートはおかしいよね」と疑問を持たれることがあっても「FXは相対取引ですから」で済んでしまう世界でもあるがゆえに、違法ではないし、取引約款に反するわけでもない(ただ、最近では悪質な「ストップ狩り」は駆逐されているようなのでご安心あれ)。
そして、ミスターブレイン氏や溝田氏はこの「ストップ刈り」を逆に利用した取引を行っていたのだ。
「ストップ狩りを逆に利用することもできますよね。本来、82.50円なのに一瞬だけ、82.30円へレートが動く。レートはいずれもとに戻るはずだから、この一瞬で買っておけば確実に儲かります。
つまり、僕らがやっていたのは『ストップ狩り』の動きに代表される、『市場の実勢水準とカイ離した業者のレート』を利用した業者間アービトラージなんです」
「ストップ狩り」を逆用して取引するときも、万が一レートが戻らなかったときのために、通常のレートの会社で売りのポジションを同時に持つ。売りと買いの両建て状態にしておいて、「ストップ狩り」の動きが戻った瞬間、両建てポジションを同時に解消すれば、利益になるわけだ。
「ストップ狩りの動きに限らず、当時はスプレッド競争でこうしたアービトラージの余地が多くありました。
一度の取引でとれる幅は数銭程度の非常に小さな幅ですが、高いレバレッジをかけて、また取引回数を重ねることで、大きな利益を狙おうというのが僕らや溝田さんの基本的な考え方でした」
この業者間アービトラージが大正解だったのは前述したとおり。溝田氏はこのアービトラージで作った資金を元手に自動売買を本格稼働させていく。
メタトレーダーで複数のEAを組み合わせて運用
「僕らと溝田さんが作った自動売買プログラムはFX会社に口座を解約させられてしまい、使えなくなってしまいましたが、彼は同じ発想でその後も取引をしていたんだと思います。
それに加えて、彼は『EA』に非常に熱心でした」
「EA」とはFXトレードツール・メタトレーダー(MT4)で使うための売買プログラム。
自動売買ツールとして世界標準となっているメタトレーダー(MT4)だけに、世界中のシステムトレーダーがEAを開発、市販したり、無料で公開したりしている。
【参考コンテンツ】
●ザイFX!×メタトレーダー(MT4)
「溝田さんはいろんなEAを入手しては『こんなの買ったけど、どう?』って相談にきました。
それにはアービトラージ以外にも、ある条件を得たときに売買すると一瞬で100万円が億に達するようなものもあるんです。
僕らが作ったEAも提供していましたし、溝田さんは普通のテクニカル分析を使ったEAなど、複数のEAを組み合わせて運用していたようです」
兄が経営する自動車部品会社の専務を務めていた溝田氏。その倉庫に複数のパソコンを置き、2009年ごろから自動売買を本格的に稼働させていく。
他人名義口座利用の原因はレバレッジ規制!?
ここで2つめの疑問、「なぜ、他人名義の口座を利用したのか?」のヒントが得られる。
「彼が取引していた2010年の夏、レバレッジ規制で50倍の上限が課せられ、それまでのようなハイレバ取引ができなくなりました。
小さな利幅しかとれないアービトラージでは大きな打撃です。それに日本では1回の取引数量に上限があります。最大でも500万通貨程度。
彼は儲かった利益を再投資する複利で運用しようとしていましたが、複利で回そうにも、最大500万通貨だとすぐ上限にひっかかってしまう」
特定の会社だけに生じる特異な値動きを狙うアービトラージでは、『もう取引上限? じゃあ、他の会社で』とはいかない。
「海外では『セカンドアカウント』を持てるFX会社もありますが、日本では個人口座と法人口座を使い分けるくらいしかありません。
複数の法人を立ち上げて法人口座をたくさん作る、という手もありますが、口座開設の際、役員欄に同一人物がいないかをチェックされたりしますから難しい。
そうしたなかで溝田さんは仕方なく、名義の借用に手を出してしまったのでは。『他人名義の口座で取引して自分の所得を隠そう』という脱税目的ではなく、純粋に複利で運用したかったがゆえでしょう」
今も残るフェイスブックからうかがえる素顔
2009年から2010年にかけての取引で3億6800万円の利益をあげた溝田氏。気になるのはその暮らしぶりだ。
「お金があれば使いたがるタイプでした。以前から『フェラーリがほしい』と言っていて、一緒に見に行ったこともあります。その後、買ったようですね、フェラーリ」
今も残る溝田氏のフェイスブックには、着飾った複数の女性たちとの写真も多く、豪勢な暮らしぶりが容易に推測できる。
「大手銀行のMT4口座を開いたりもしていたようですね。その口座に個人がMT4口座を開くには1億円以上の資金が必要だと聞きました」
「あとから節税」は非常に難しい
しかし、なぜ溝田氏はシンガポールへ拠点を移したのだろうか……?
「『税金が大変だ』とよくこぼしていました。『4年落ちの中古外車でも買ったら?』とアドバイスしたりしていたのですが、シンガポールへ行ったのは事後報告。
シンガポールの税率の低さに目をつけたのでしょうが、日本の税制は『属地主義』。日本にいる間に稼いだ分は日本で税金を納めないといけない。それは彼もわかっていたと思うのですが……」
溝田氏がシンガポールへ移住したのは2010年、それも年の瀬の迫った12月。翌年の納税を考えて慌てて移住したのかもしれない。
だが、節税対策を事後的に行うのは極めて難しい。
溝田氏が年初の時点でシンガポールへ移住していたのなら、その年の所得は日本での課税から逃れられるが、12月になって慌てて移住しても、日本での課税から逃れることはできない。
過去の判例から執行猶予つき判決か
「『おそまつ』というしかない。彼は僕らの作ったEAを使ってくれて、海外での販売を任せてもいた。とても残念です」
気になるのは溝田氏の今後だが、申告漏れしていた3億6800万円の利益に対する1億4000万円の納税に加えて延滞税、重加算税も付加される。
また、これだけの金額になると刑事罰も科されるが、過去の判例からすると執行猶予つき判決になると思われる。
以下の表はこれまでに報道された、FXが絡んだおもな脱税事件。
池辺雪子氏や磯貝清明氏の場合、いずれも執行猶予つきの判決となっている。
【参考記事】
●脱税総額9億円! 超ビッグFX対談!! 池辺雪子×磯貝清明
●FXで8億円稼いだ主婦…池辺雪子さんのトレード手法(1) ~合計利益は4億円ではなく、8億円!!~
●FXで8億円稼いだ主婦…池辺雪子さんのトレード手法(2) ~9.11の時もあわてず、買い向かった~
●FXで8億円稼いだ主婦…池辺雪子さんのトレード手法(3) ~短期と長期のRSIを使った手法とは?~
問題は支払うべきだった所得税などを支払えるかどうか。磯貝氏のように、2006年単年で見れば利益をあげていても、その後の取引で利益を失ってしまい、支払い能力がなくなってしまっていると大問題だ。
長期にわたる分割となると、利息がかさんでいき、支払総額は大きくふくれあがってしまう。溝田さんが利益を確保していることを願うが――。
「自動売買のプロ」であることを、はからずも脱税によって証明してしまった溝田氏。禊ぎをすませた後の名誉挽回にはぜひ期待したいところだ。
また、溝田氏のケース、他山の石ではない。税金は儲かった後から節税しようとしても手遅れ。FXをやるならば、「勝ったときの税金のこと」も考えておきたい。
(取材・文/ミドルマン・高城泰 撮影/堀内慎祐)
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