(「元ゴールドマン・サックス 志摩力男氏に聞く(1) 100万ドル損失でクビを覚悟!? どう挽回した?」から続く)
ゴールドマン・サックスで活躍したディーラーのトレードとは
ゴールドマン・サックス証券やドイツ証券などでプロップトレーダーとして活躍してきた志摩力男さん。
個人投資家としてトレードする現在は、どんな分析のもと、取引を行っているのだろうか。
その様子は、志摩さん自身の相場観やポジションを配信してくれる有料メルマガで垣間見ることができる。
有料メルマガ「志摩力男のグローバルFXトレード!」がスタートした、2019年12月に配信されたメルマガを見てみよう。
志摩力男のグローバルFXトレード!
2019年12月4日18:20配信
12月12日(注:英総選挙投票日)が近づくに連れ、GBP上昇リスクは顕在化します。1.30を突破してきました。EURGBPのショートだけはありますが、GBPUSDのロングも作ります
「2つの均衡レート」に揺れる英ポンド
ターゲットにしたのは英総選挙の投票日を控えていた英ポンドだった。
「2019年の英ポンドはよく動きました。なぜかといえば、英ポンドには『2つの均衡レート』があるからです。合意なき離脱の場合と、合意ある離脱の場合、それぞれの均衡レートです。合意なき離脱なら英ポンド/米ドルの均衡レートは1.10ドルやパリティの1.00ドル程度。かなり低い水準にあります。英経済がメチャクチャになるようなシナリオです」
一方で、無事にEU(欧州連合)との合意が成立してブレグジットを果たした場合、まったく異なる均衡レートになる。
「EUと合意し、つつがなく離脱できれば、2016年の国民投票前に近い水準、つまり、1.50ドルに近いところが均衡レートになります」
(出所:TradingView)
ボリス・ジョンソン英首相が「合意なき離脱も辞さず」と強気な姿勢を見せれば1.00ドル方向に向かうし、与党内で離反者が出るなどジョンソン英首相の足もとがぐらつくと1.50ドル方向に向かう。
「そうやって乖離した2つの均衡レートで揺れるため、英ポンドは乱高下するんです」
英ポンドに限らず、「利下げすれば108円、利下げ見送りなら109円」といったように、複数のシナリオの間で揺れるのが為替市場の常ではある。だが、英ポンドの場合はシナリオによってめざすレートが大きく異なるため、乱高下しやすい環境にあったということになる。
英総選挙をめぐる2つのシナリオ。どちらにしても買い
さて、志摩さんはそんな英ポンドをどんな思惑で取引していたのだろうか。
「長期的には英ポンドに対する強気のビュー(見通し)を持っていました。ただ、目先となると別。『総選挙によって材料出尽くしでいったん売られるのでは?』という思いがある一方、『総選挙は上昇トレンドの通過点に過ぎないだろう』という思いもありました」
ここでも2つのシナリオがあった。しかし、節目となる総選挙までを考えれば、「どちらにしても買い」。そのために志摩さんは対ユーロ、対米ドルで英ポンドを買っていった。
「総選挙では与党の勝利が予想されていたためです。ただ、投票日直前の世論調査では与党の支持率が低下し、週末も控えていたため利食ったのですが、これはちょっと早かったですね」
(出所:TradingView)
英総選挙が終わると一転して売りに転換
総選挙前に英ポンド買いを手仕舞いし、英ポンド/米ドルは103pipsの利益となった。総選挙の投票が終わると出口調査を受けて、英ポンドは急上昇。対米ドルでは瞬間的に1.35ドルをつけ、対円では148円近辺の高値をつけた。
「イベントが終了し、ギャップ(窓)をともなって上昇しました。さらに高値を更新するようなら買いですが、今回は反落し、上昇分の半値を切った。ネックラインも割り込んだので、上昇相場はいったん終了と判断してショートです」
志摩さんは総選挙後の値動きを見て、今度は一転、英ポンド/円を売っていったのだった。
(出所:TradingView)
ボリスに感謝する理由
すると、志摩さんの思惑どおり、英ポンドは下げ足を強めていく。総選挙では保守党が圧勝したものの、合意なき離脱の可能性は残っており、2つの均衡レートのいずれに収れんするのか、依然として不透明だったためだ。有料メルマガでも、こう解説されていた。
志摩力男のグローバルFXトレード!
2019年12月23日20:58配信
EUとの交渉が長引けば、「合意なき離脱」リスクが高まります。それでも、私としてはなんとか2020年末にブレグジットを実現するのではないかと思っていますが、「合意なき離脱」のリスクを意外に高く見積もる金融機関が多く、JPモルガンは25%と言っています。
総選挙前と違うのは、ジョンソン首相が絶対権力を持っていることです。権力がジョンソン首相に集中している今、反対を唱えても、簡単にかき消されます。ハプニング的に「合意なき離脱」となる可能性が拭えません。
英ポンド売りのポジションを閉じたのは約2週間後。流動性が低下する年末となり、下落の勢いも弱まっていたためだった。英ポンド/円を売ること2回、172pisp+94pipsで266pips、途中で売り増していた分も含めると約300pipsの利益となった。
「2019年はボリスのおかげで助かりました。米ドル/円は狭い値幅に終止していましたし、もし、英ポンドさえも動かなかったら暗黒だったでしょうから」
2019年の米ドル/円は狭い値幅に終始し、英ポンドさえも動かなかったら暗黒だったと志摩さんは語った
月末に志摩さんの有料メルマガへ注目すべき理由とは?
もうひとつ、トレードするうえでより「即効性」のある情報として注目したいのが、月末の「リバランス」だ。
「リバランス」とは投資信託や年金運用基金、ファンドなどが行うポートフォリオの調整のこと。こうした運用機関では「国内債券20%、国内株30%、米国株20%」といった基本となるポートフォリオの比率が定められている。
世界最大の年金運用基金とされる日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)であれば、「国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%」が基本ポートフォリオだ。
「各市場の価格は動きますから比率には少しずつズレが生じます。それを当初の方針どおりの比率に戻すのがリバランスです」
最初は米国株25%、日本株25%だったはずでも、米国株が絶好調で、日本株が絶不調なら米国株30%、日本株20%になってしまう。ズレた比率を元に戻すには「米国株売り、日本株買い」と取引してやる必要がある。
「そうなると為替では米ドル売り・円買いとなります。こうしたリバランスが集中して出てくるのは月末最終営業日のロンドンフィックス。つまり、日本時間25時(夏時間24時)です」
絶好調の米国株から出た米ドル売りのリバランス
昨年(2019年)、絶好調だったのが米国株。増えるに任せているだけだと、ポートフォリオに占める米国株の比率がどんどん高まってしまうから、月末にはリバランスによる米ドル売りが出やすい、ということになる。
志摩力男のグローバルFXトレード!
2019年12月30日19:29配信
米国株の好調を背景に、月末リバランスはドル売りとなる可能性が高そうです。本日(注:2019年12月30日)の東京市場(本年最後となります)は、ドル円売り、日経の売りがかなり出ましたが、月末フローに絡むとの観測があります。条件的に円高に進みやすいかもしれません。遅れ馳せながら、ドル円を0.5現状レベルで売りたいと思います。
この売りポジションを決済したのは大晦日の深夜1時4分。ロンドンフィックスを通過した直後だった。
(出所:TradingView)
月末に出た英ポンドの資金フロー
「月末にはリバランスだけでなく、まとまったフローがたくさん出てきます。とくに最近だと、英ポンド関連のフローが多く出ているようです。ブレグジットの方向性が明確になり、さまざまなビジネスが動き出したためでしょう。たとえば中東の投資家がロンドンにショッピングセンターを作ろう、と計画したとします。そのための資金を月末のフィキシングで調達することがあります」
ブレグジットの行方がはっきりするまで様子見していたマネーが動き出せば、英ポンドの値動きにも影響を与える。
「実際に2019年12月、2020年1月のリバランスでは英ポンド買いが出ました。待っていた投資家は少なくなかったのでしょうし、それが戻ってきた結果でしょう」
そんな見通しのもと、志摩さんは2020年1月末にもロンドンフィックス狙いの英ポンド買いポジションを持っていた。すると、25時の直前、英ポンドは急騰し71pipsの利幅となった。
(出所:TradingView)
月末が近づいたら、当月の株価指数の値動きなどを見ながら「今月のリバランスはどうなるだろう」と戦略を組み立てることもできそうだ。
ファンダメンタルズやテクニカルを組み合わせたトレードだけでなく、プロならではの視点でリバランスを利用した取引まで行っている志摩さんの思考法。志摩さんの新連載コラム「マーケットの常識を疑え!」も参考にしながら、取り入れてみよう。
(「元ゴールドマン・サックス 志摩力男氏に聞く(3) ドル/円は95円まで急落後、130円まで上昇?」へつづく)
(取材・文/高城泰 編集担当/ザイFX!編集部・藤本康文 撮影/和田佳久)
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