(元ゴールドマン・サックス 志摩力男氏に聞く(2) 乱高下した英ポンドで利益を出せたワケは?から続く)
円を取り巻く2つの基本的な事実
ゴールドマン・サックス証券やドイツ証券などでプロップトレーダーを務めた志摩力男さん。
有料メルマガ「志摩力男のグローバルFXトレード!」を購読している人はすでに気づいているだろうが、その特徴は「大相場をいち早く予想し、トレンドフォローするトレード」にある。
そんな志摩さんは今年(2020年)、どんな通貨に着目し、今後の為替市場をどう見ているのだろうか。
「米ドル/円に対しては、『2つの基本的な考え方』を知っておく必要があります。ひとつは日本企業が海外へ多額の資産を持っている、ということ。日本全体でざっくり言うと350兆円近くです」
日本は世界最大の純債権国であり、しかも2018年時点で28年連続だ。
「海外資産といっても株や工場など、さまざまな形となっており、簡単に処分して円に替えられるわけではないですが、何か起きたとき、『外貨から円へ』と戻ってくる潜在的なマネーが約350兆円、ということになります」
日本の店頭FX全体の証拠金が1.4兆円ほど。比べ物にならない規模の金額が潜在的な円買い圧力として控えている。
「ただ、それが具現化するのは何か突発的なリスクが顕在化したときです。一方で、『日本はマイナス金利でリターンを求めるには、外へ出ざるを得ない』という現実があります。これが地味に円安を進める圧力となりますし、とくにトランプ政権が株式市場を崩させないのなら、なおさら日本人は米国株を買いたくなり、『円から外貨へ』という流れが進むことになります」
【参考記事】
●「342兆円」VS「1855兆円」の行方は新型コロナウイルス次第。リーマンショック級の不景気も!? (2月27日、志摩力男)
米ドル/円における2つの基本的な考え方は、日本が世界最大の純債権国であることと、マイナス金利であることだと志摩氏は指摘
突発的なイベントで米ドル/円は95円から100円に急落か
円を取り巻く環境として、この2点は最低限抑えておく必要がある。だが、日本の対外純資産は円高要因、マイナス金利は円安要因で相反する。どちらを重視すればいいのだろうか。
「一度、突発的なイベントで円高になるのかなという思いがあります。米ドル/円は95円から100円程度まで急落し、それから円安が始まるのだろう、と」
足もとではまさに突発的なイベントが起きている。新型コロナウイルスの拡大だ。
【参考記事】
●「セル・ジャパン!」と言いながら円売り。低ボラ脱却へ。米ドル/円は下値余地拡大か(2月27日、西原宏一)
●「342兆円」VS「1855兆円」の行方は新型コロナウイルス次第。リーマンショック級の不景気も!? (2月27日、志摩力男)
●NYダウ暴落! 最悪の事態は織り込んだか。トイレットペーパー買い占めより安値を拾え!(2月28日、陳満咲杜)
●金融政策でコロナショックは収まらない! 「ボルマゲドン」ならドル/円は100円も!?(3月2日、西原宏一&大橋ひろこ)
「日本企業のサプライチェーンが機能しなくなったり、あるいは国内で感染者が1万人、2万人となってくれば、そのとき円がどこにいるか、予想がつきません」
円安トレンドなら米ドル/円は125~130円方向へ
「ただし、先ほど話したようにリターンを求めれば日本人は世界へ投資せざるを得ない。瞬間的な円高の次には円安が始まるのでしょう。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの年金基金や生損保も、外債比率を高めるよう、ポートフォリオ比率を見直しているようだ、との観測もあります」
円安が始まれば、米ドル/円はどこまで上昇するのだろうか。
「ターゲットとなるのは2015年6月高値の125.84円ですし、日本の状況が悪ければもっと上、130円方向があるのかもしれません。長期的な話ではありますが」
(出所:TradingView)
日本は発展途上国目線で見られている
円安はすでに始まっている可能性もある。
2019年10-12月のGDP速報値が年率6.3%のマイナス成長となったことで、米ドル/円は2月20日(木)に112円台へと上昇する場面があった。
(詳しくはこちら → 経済指標/金利:各国GDP成長率の推移)
「新型コロナウイルスの影響が出てくるのは2020年1-3月期。当然、景気は悪化し、2四半期連続のマイナス成長となるでしょう」
欧米では2四半期連続マイナス成長=リセッション(景気後退)入りだ。
「今回の円安はこれまでと違う雰囲気も感じます。ブルームバーグでは30分に一度くらいの頻度でダイヤモンド・プリンセス号のニュースが流れました。日本政府の対応は大丈夫なのか、アウトブレイク(爆発的感染)するのではないか、との懸念とともに伝えられています」
志摩さんの言葉を借りれば、「日本が発展途上国を見る目で伝えられている」という。
「カルロス・ゴーン被告の海外逃亡事件でもそうでしたし、日本政府の対応に疑問符がつけられています。日本から資金が逃げている感じもありますし、それに乗じようとする一部のヘッジファンドが円売りを始めたようです」
いわゆる「悪い円安」だ。円安が本格化するかどうかはまだ不明だが、米ドル/円の思わぬ急騰には警戒したほうがよさそうだ。
(出所:TradingView)
自動車価格は5分の1になる!?
また、コロナ騒動とは別に、日本の自動車産業への懸念もあるという。
「日本の代表的輸出産業である自動車産業ですが、電気自動車などへのシフトが進み、コモディティ化するとの見方があります」
カリスマ経営者である日本電産会長兼CEOの永守重信氏は「車の価格は5分の1になる」と予想している。
「そうした動きに対応できなければ、自動車メーカーを頂点とした系列のヒエラルキーが木っ端微塵になる可能性があります。それだけに、自動車産業が変調をきたせば、それは猛烈な円安材料となるでしょう」
2020年最大のリスクは「サンダース大統領の誕生」
「世界へ目を向ければ今年(2020年)の注目は、やはり米大統領選挙。
民主党の候補者が誰になるのかはまだわかりませんが、マーケットが懸念するのは左派系候補の候補者指名です。そのひとり、エリザベス・ウォーレンは国民皆保険制度を中道寄りに修正した案を提示したため、支持率が低下しました。しかし、もうひとりのバーニー・サンダースは人気を集めています。今年最大のリスクは『サンダース大統領の誕生』でしょう」
そのときはリスクオフとなりそうだが、「リスクオフ=円高」の固定観念は捨てて相場を注視しよう。
2020年は英ポンドに妙味! 6月に向けて下落しそう
「強気で見ているのは英ポンド。すでに割安な水準にありますし、EU(欧州連合)離脱の打撃を抑えるため、大規模な財政出動も行うのではないでしょうか」
【参考記事】
●元ゴールドマン・サックス 志摩力男氏に聞く(2) 乱高下した英ポンドで利益を出せたワケは?
ブレグジット後の貿易条件などをめぐるEUとの交渉はこれから。難航も予想されるが……。
「英国とEUは3月からFTA(自由貿易協定)などについての話し合いを始めます。表向きはガチャガチャとニュースが出てきて下げる場面もあるでしょう」
2020年6月にはEUサミットが開催され、交渉の進捗を確認する予定となっており、交渉期間延長を希望するなら英国は7月1日(水)までに申し出る必要がある。
「6月に向けて交渉難航などのニュースで下げる場面があるでしょう。英ポンド/米ドルなら1.25ドルくらいまでの下落はあり得るのではないでしょうか」
そこが今年(2020年)の安値になると志摩さんは見ている。
FTA交渉合意で英ポンド/米ドルは1.40ドルへ
「欧州も英国も長い歴史があり、表向きの顔と実際は違う。ブレグジット交渉でもボリス・ジョンソン英首相は嫌われているように報じられていましたが、うまく交渉をまとめました。移行期間が終了する年末までには主要なポイントで合意し、完全に離脱するのでしょう。『FTA、合意近し』といった報道が出てくれば、安値を切り上げて上昇していくと想定しています」
そのときの高値はどれくらいなのだろうか。
「英ポンド/米ドルなら1.40ドル、英ポンド/円なら160円くらいはあるのではないでしょうか」
(出所:TradingView)
英ポンド/米ドルが1.25ドルから1.40ドルまで上がれば上昇幅は1500pips。もしそうなれば非常に大きな妙味があるし、その時、米ドル/円がどうなっているのかも気になるところ。
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(取材・文/高城泰 編集担当/ザイFX!編集部・藤本康文 撮影/和田佳久)
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