■各国中銀もユーロ崩壊に備え始めた
足元の為替市場はこう着状態となっており、市場関係者は固唾(かたず)を飲んでEU(欧州連合)首脳会議の動向を見守っている。
この12月8日(木)~9日(金)開催の会議は「ユーロの存亡に関わる」とさえ言われているが、いかに重要なのかは、次の報道からもおわかりいただけるだろう。
「アイルランド中銀は新たな紙幣印刷機の調達を検討」
「ギリシャ中銀は紙幣印刷体制の限界を懸念」
「BOE(英中銀)は自国紙幣印刷の確保に全力」
「スイス中銀はユーロ以外の通貨を『ペッグ対象』にする作業に入る」
この他にも複数見受けられるが、その背景は「万が一、ユーロ崩壊となった場合に備える」ということで共通している。
ちなみに、ECB(欧州中央銀行)はユーロ紙幣の印刷を各国中銀に委託しており、アイルランドとギリシャの中銀は自前の印刷工場を持っているが、その他の国は民間業者に業務を委託している。
ただ、その多くは英国のポンド紙幣の印刷も受託しており、ユーロが崩壊した場合は、各国紙幣の印刷需要が殺到すると想定される。英ポンド紙幣の印刷に影響が及ぶリスクもあるため、ユーロを使用していない英国も慌てたとのことだ。
また、スイスの場合、スイスフランは事実上ユーロと「ペッグ」していることから、ユーロがなくなれば、今度は新ドイツマルクと「ペッグ」することが予想される。これは1970年代に、スイスフランがドイツマルクとペッグした歴史を鑑みれば、自然な成り行きとも言えるだろう。
■利下げしたのに、マーケットはユーロ買いに反応した
このように、ヨーロッパ各国の中銀の「用意周到ぶり」が報道されているのだから、市場のマインドは一層冷え込んでいる。 民間銀行や企業だけでなく、中銀でさえ最悪の事態を想定せざるを得ない状況なのだから、ユーロ崩壊の現実味はさらに高まっている。
また、マーケットは2人の人物に対して、問題解決に向けての多大なる期待と希望を託していたが、12月8日(木)に、そのうちの1人がマーケットの期待を裏切り、多くの市場関係者を失望させた。
この人物とは、ECBのドラギ総裁である。ECBは市場予想(期待)のとおりに利下げしたものの、包括的なユーロ危機対策として浮上している国債買い入れ規模の拡大とIMFへの融資に難色を示したため、過大な期待を寄せていたマーケットに水を差した。
一般論として、利下げ自体は通貨安に作用することが多いが、今回に限っては、ECBの利下げ決定自体は一時ユーロ高をもたらした。
これに関しては、筆者はツイッターで「ECB、利下げならユーロが買われ、大幅利下げ、あるいは他の措置があったらさらに買われるだろう」との見通しを事前にコメントしていたが、そのとおりになった。
それは、危機回避のための利下げは好感され、リスクオンのムードが広がり、結果的にユーロを下支えすると読んでいたためだ。
実際のところ、市場予想の範囲内にとどまる0.25%の利下げに対して、ユーロ/米ドルは一時1.3459ドルまで買われた。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 4時間足)
ところが、さらなる高値を追うことはできなかった。その後、ドラギ総裁の発言で大きく売られたためだ。
ただ、利下げでユーロ買いといったロジック自体は正しかったし、「リスク回避」の動き自体を回避する措置ならば、何であれ、今のマーケットには歓迎されると思われる。
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)