ユーロ崩壊論にすっかり洗脳された投機筋の多くが、ユーロが急上昇している間でも、ここぞとばかりに新たなショートポジション(売り持ち)を建てていたのではないかと推測している。
つまり、従来のショートポジションに加え、デイトレードのつもりで「戻り売り」を狙った投機玉の多くが踏み上げられ、この2日間のユーロの上昇スピードを速めた側面があると見ているのだ。
そういった投機筋には、個人投資家が多いと聞いている。
対照的に、ヘッジファンドなどの機関投資家は、マーケットの値動きを尊敬する気持ちの重要さが骨まで染みこみ、十分すぎるほどわかっているはずだから、衝動的な逆張りはしないと思う。
また、彼らはストラテジーにおける「朝令暮改」の必要性も心得ており、かなりの柔軟性をもってマーケットのトレンドに追随するだろう。
この意味では、少なくとも短期スパンにおいては、本日あたりから多くのアナリストが従来の主張を改め、ユーロにやや強気な立場を取り始めるのではないかと見ている。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
その根拠にはテクニカル的な要素もあるが、マクロ的な視点で見れば、ユーロのソブリンリスク後退といった側面が大きい。
■ドイツ政府の支援なしでは、ユーロの危機は解決できない
要するに、年初来の敗色を一掃するほどのユーロの「元気」は、単にテクニカル的な要素では説明しきれない部分がある。
マクロ的な視点では、私はユーロの「元気」が2つの「元」に由来していると思っている。
まず、最初の「元」はユーロの「元」であるドイツにある。
ユーロは1999年に発足した新しい通貨であるが、旧ドイツマルクはユーロの構成に大きなシェアを持っている。ユーロ/米ドルの長期チャートが1999年以前はマルク/米ドルに基づいて書き換えてあるほど、旧マルクがユーロに果たす役割は大きい。
このことは、EU(欧州連合)の「元」、とりわけ経済的なかじ取りがドイツに牛耳られていることを物語っており、ドイツ政府の意向と支援なしでは、ユーロのソブリン危機が解決できないことを意味する。
したがって、ユーロのソブリン危機は「PIIGS」と呼ばれる国によって引き起こされているが、これらの国の努力よりも、マーケットはドイツの態度と思惑が気になって仕方がないのだ。
■マーケットはユーロの問題の本質に気づき始めている
今までユーロのソブリンリスクが繰り返し懸念されている最大の背景には、「優等生」で、ユーロの「元」であるドイツが自国利益を優先させ、欧州安定ファシリティー(EFSF)の増資を拒否する態度を取り続けていたことがある。
マーケットは「PIIGS」の国が自らの力で問題を解決できないと読み、投機筋は、国債絡みのCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)などのデリバティブを使って、執ように「PIIGS」の国債を攻撃した。
そして、国債価格の下落(利回りの上昇)がさらなる信用不安を招き、これが国債格付けの引き下げをもたらし、さらなる国債の暴落を呼ぶといった悪循環に陥っていた。
金融危機は伝染病のごとく、まさに、その「気」で移っていくものだ。
だが、その「気」がギリシャやアイルランドにとどまるならまだよいが、ポルトガルやスペインに飛び火するとなれば、話は別だ。
その中でもスペインは大国であり、「もし“伝染病”にかかったら、ユーロは本当に崩壊するかもしれない」といった恐怖感が背中を押した結果、ドイツ政府は一転して、欧州安定ファシリティー(EFSF)の増資に前向きなスタンスを表明している。
ユーロの「元」であるドイツの変化を見て、マーケットはユーロのショートポジションの解消を急いでいる。「PIIGS」の国債入札が順調に行われたことが示唆するように、マーケットはユーロ問題の本質に気づき始めている。
その本質とは何か? それは他ならぬ、筆者が繰り返し強調してきた「ユーロのソブリン危機は政治問題」である。
その真意と、もう1つの「元」については、次回のコラムで説明したいと思っている。
(2011年1月14日 13:00執筆)
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