■金融政策の違いから、米ドルの優位性は変わらない
ユーロサイドでは、ギリシャ問題の先送りやドイツ国債の急落(利回り上昇)がユーロを支え、英ポンドサイドでは利上げ周期入りの観測が英ポンド高をもたらした。豪州の場合、利下げ余地が限られたところが「強み」と化し、円サイドでは早期追加緩和思惑の後退が円売りポジションの削減に寄与した。
(詳しくはこちら → 経済指標/金利:シカゴIMM通貨先物ポジションの推移 )
外貨サイドの事情をよく見ると、英ポンドの利上げ周期入り以外、金融政策中身の違いは、米ドルと外貨サイドでなお大きく、米ドルの優位性は変わらないと言える。
英国でさえ、今回、保守党は単独で組閣できないから、景気見通しは安定的ではなく、英中銀政策が規定路線であっても米国より先に利上げできるはずがない。その上、保守党の公約であるEU(欧州連合)離脱に関する国民投票も想定され、英ポンドの波乱要素として、これから浮上してくるだろう。
ECBの量的緩和政策が継続している間は、ユーロの切り返しがあってもそれは限定的で、ギリシャ問題が先送りされても解決されるわけではないから、消去法でのユーロ売りが継続されやすいとみる。
■追加緩和観測がくすぶる円はユーロよりさらに弱い!
そして、同じく消去法では、ユーロより弱い主要通貨があれば、円のほかあるまい。
何しろ、ECBはQE(量的緩和)を継続しているが、それがこれからさらに拡大していく気配は今のところ見えない。
一方、日銀の追加緩和観測はなおくすぶり、また、現実味を増している。その背景には、日銀総裁の黒田さんの「公約」がますます達成できなくなるリスクが増大していることが指摘される。
周知のように、黒田日銀総裁が、就任後最初に提示した目標は、2年程度で2%のインフレターゲットの達成だった。
先月(2015年4月)の日銀会合後、黒田さんはその達成時期について、「2015年度中心」を「2016年度前半」に修正し、事実上の後ずれを認めた。無理もない。民間エコノミストの大半は2%の目標が、2016年度前半でも達成困難との見方を示しており、黒田さんの認識、修正されてもまだ「甘い」と言わざるを得ない。
こういった「甘い」認識に内閣も危機感が強まったか、甘利経済再生相は本日(5月8日)、「物価2%達成、安倍内閣に絶望という言葉はない」と述べ、市場の見方に反論した。あえて絶望という言葉を使っているかどうかはわからないが、相当いらだっている様子がうかがえる。
アベノミクスは、結果的に円安・株高ではなく、デフレ脱却、すなわちインフレターゲット達成の有無によって検証される。もし、時間が経っても目標を達成できないなら、市場の信頼を失いかねないから、安倍内閣の危機感も高まっているに違いがない。
一時、過度な円安がもたらしたデメリットが大きいから、政府内部でも追加緩和不要論が高まっていたが、このところ、風向きが再度変わったように受け止める。
4月にも追加緩和実施と呼び声があったほど、首相に近い方々が発するメッセージは明白であった。あとは日銀次第だが、おそらく、現在の条件のままでは、日銀内部でも大半の方が「やばい」と認識しているのではと「邪推」できる。
■原油反発は売られすぎに対するスピード調整にすぎず…
原油価格の「予想外」の下落をインフレターゲットを遠ざけた要因として挙げた日銀にとって、足元の原油の反発は「朗報」のように聞こえるが、問題は原油の回復基調が、2016年度前半にインフレターゲットを達成させるまで維持できるかどうかにある。
テクニカルの視点では、原油の切り返しはユーロ/米ドルと同様、売られすぎたことに対するスピード調整といった位置づけであるから、日銀が原油高に希望を託せるほど甘くはないだろう。
(出所:米国FXCM)
つまるところ、日銀の追加緩和観測は、インフレターゲット達成困難という市場の見方と比例して膨張しやすく、また、これからの市場に効いてくるだろう。
中銀政策に左右されやすいという意味合いでは、消去法での円売りが、再度膨らむのではないだろうか。
また、米ドル全体の調整波も、そろそろ終焉の時期にあたるから、近々のユーロ/米ドルの頭打ちに注意しておきたい。市況はいかに。
(PM 2:15 執筆)
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