■「ごく普通のQE」に市場は失望した
というのは、ECBは量的緩和(QE)を6カ月延長して少なくとも2017年3月まで継続すること、購入対象資産に地方債を含めること、中銀預金金利を0.1ポイント引き下げることを決めたが、QEの月間購入額は600億ユーロ(約8兆円)を維持。さらなる拡大はなかったのだ。
また、市場は0.1ポイントより大幅な金利引き下げを織り込み、0.3~0.5ポイントの予想も多かっただけに、まさに量も質も足りなく、「ごく普通のQE」になってしまった。
ネコも杓子も「普通ではない」ものを期待し、ユーロを売ってきたから、このショックで市場はユーロの買戻しに殺到、米ドルは大きく売られ、パニック相場の様相を呈した。ECBは自ら演出した過剰期待を剥落させ、それが局面の急転につながったと言える。
当然のように、ユーロの急騰は米ドル全面安をもたらし、ドルインデックスは一昨日(12月2日)の100.51から一気に97.59まで反落してきた。
(出所:CQG)
■ドラギ・ショックで米ドル全面高トレンドは終わったのか?
ここから重要なのは、米ドル高トレンドが今回のドラギ・ショックを受け、果たして早期終焉したかどうかだ。
今晩(12月4日)の米雇用統計がまた、重要なヒントを示唆してくれるだろう。イエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長が今回の雇用統計を重視するといった発言をしていただけに、昨日(12月3日)、ユーロのポジションを損切った投資家の多くは、今晩(12月3日)の米雇用統計に挽回のチャンスを賭けるはずだ。
結論から申し上げると、今回のドラギ・ショックを受け、市場関係者は「中銀不信」に陥り、これからドラギ総裁や他のECB当局者らの言葉を鵜呑みにせず、これまでより大幅に割り引いて聞く姿勢が強まるだろう。
したがって、ユーロ安、すなわち米ドル高のターゲットが修正される可能性が大きいが、ユーロ安・米ドル高トレンド自体の修正は、なお時期尚早であろう。
何しろ、一昨日(12月2日)にドルインデックスはすでに2015年年初来高値更新を果たしており、米ドル高トレンドがここで終焉したとは認定しにくい。
(出所:CQG)
その上、今回ECBが政策余地を温存した分、いざという時、政策を打ち出せる可能性が大きいので、ECBのQE策拡大自体が不変である限り、ユーロ安の早期底打ちは望みにくい。
■ECBは早晩、今回の失敗を取り返そうとするかも
もっとも、ユーロ当局にとって、今回の失敗で招いたユーロ高がもっとも懸念すべき材料の1つだから、近々何らかの形で市場と対話し、市場関係者を慰めることも予測される。
言い換えれば、ECBの政策余地はのりしろが大きく残っており、また、失敗したからこそ、挽回の意欲が刺激されるから、次回のドラギ・マジックのパフォーマンス効果はかえって高まるのではないかとみる。このあたりもまさに塞翁が馬、ということだと思う。
■雇用統計の結果にかかわらず、米ドルは押し目を拾う好機
対照的に、今晩(12月4日)の米雇用統計はどうであれ、今月(12月)の米利上げが確実視される以上、米ドルの押し目は、出遅れたロング筋にとって拾う好機となろう。この意味では今晩(12月4日)の米雇用統計が、市場の想定より悪い数字になったほうが、「割引き」が大きいから、逆張りの好機に恵まれるだろう。
米FRBが利上げを見送るという可能性は100%否定されるわけではないが、FRBの地位と重要性から考えると、その確率はかなり小さいとみる。よほどまずい状況(世界株式市場の暴落とか、大規模な戦争とか)にならない限り、米利上げが規定路線である以上、米ドル高の頭打ちはあっても利上げ後になるはずで、利上げ前の反落は想定しにくい。
ゆえに、早ければ今晩、遅ければ来週(12月7日~)あたりに、またユーロ売り・米ドル買いのチャンスに恵まれるとみる。市況はいかに。
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