■ソロス氏が世界景気の後退を予測、大規模ショート構築へ
こういった流れを汲むと、市場関係者の多くは、やはり米国が早期追加利上げできない、また、主要国と地域が量的緩和政策を長期に渡って維持する、ということに賭けていると推測される。果たして、こういった認識と思惑は正しいのだろうか。
WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)の報道によると、あの伝説の投機家、ジョージ・ソロス氏が世界景気の後退を予測、仲間と組んで彼が得意とする大規模なショートポジションを作り上げているという。主な内容は米国株のショートと金、金鉱株のロングの組み合わせと言われ、近々の世界金融市場崩壊をほのめかしている模様だ。
もっとも、ソロス氏は戦略に長けているだけに、報道された内容のすべてを鵜呑みにすべきではない。また、ヘッジファンドが手の内をわざと見せる場合、たいてい、そこには何らかの企みがある、と普通は考えられる。
真相はこれから解明されるだろうが、どうやらソロス氏は自分の考えを故意に公にし、市場の反応を確認しているようで、その手応えを探っている、という段階にあるのではないかと推測できる。
■世界がソロスに注目するワケは、“あの時”といっしょだから
85歳の高齢になるソロス氏の一挙手一投足に世界が固唾を呑んで注目しているのには、ワケがある。
「ポンド危機」など、かつての氏の伝説や武勇伝はさておき、2007年、すでに引退していた氏は今回と同様、公に世界危機を予想したうえでショートポジションをいっぱい建て、その後、年間32%のリターンを叩き出した。それだけに、氏の主張とストラテジーを無視する市場関係者はいない。
ちなみに、日銀が量的緩和を推し進めていた間、ソロス氏は大規模な円売りを仕掛け、10億ドル以上の利益を得た模様で、その手腕は全盛期に比べても、まったく落ちていないと言える。
実際、2007年以前と同様に、ソロス氏は半分引退しており、慈善事業に力を入れている。傘下ファンドのパフォーマンスが落ちてくると、たまに介入してくるぐらいで、実際の運営は手掛けていないという。前述の大規模の円売りでもアイデアを出すぐらいで、そのほかはすべてファンドのスタッフに任せたと言われ、氏の直接指揮で得られた成果ではないようだ。
しかし、今回は様子が違っている。ソロス氏自ら陣頭指揮をとっているというのだから、あの2007年の再来を思わせる。
言ってみれば、ソロス氏が自ら仕掛けたいと刺激されるほど、これからの市況がおもしろい、ということである。ゆえに、これから何かあっても驚くなかれ、また、あのリーマンショック級の混乱が再来しても一応予想の範囲内としておく、といった覚悟をするべきであろう。
となると、現在のように、すべての資産が買われる、といった局面は長く続かないだろう。株、原油が下がる一方、金と日本円の上昇がみられる公算が大きい。
(出所:CQG)
(出所:CQG)
要するにリスクオフの再開で、リスク回避先として評価される資産が再度評価されるということである。ソロス氏の戦略が正しければ、量的緩和策は近々限界を迎える、と考えるほかあるまい。
■日銀のマイナス金利や量的緩和拡大はある?
円サイドでは、日銀の量的緩和拡大への思惑が高まっており、その背景として、日本の景気が悪化していることがまず挙げられる。
アベノミクスがとっくに失敗していたと思われる中、第2四半期のGDPが再度マイナスに落ちるのでは…といった推測と心配が高まってきた。過去5年間、日本はすでに6回も景気後退局面にあったので、前例のない大規模な量的緩和やマイナス金利の実施があっても改善されなければ、これこそ緊急事態だと言える。
もう1つは、隣の韓国が市場の予想に反して、昨日(6月9日)、利下げを断行し、韓国金利を史上最低水準に押し下げたことだ。韓国の景気はどうでもいいと思われるかもしれないが、韓国利下げによって韓国ウォンの下落が相対的に円を高めただけに、人民元安と相まって、日銀幹部の頭痛の種となりそうだ。
こういった事情で今月(6月)にも日銀が量的緩和を拡大、またはマイナス金利の拡大を図るのでは…といった観測が出てきて、昨日(6月9日)の米ドル/円反発をもたらした。結論からいえば、筆者は日銀によるマイナス金利拡大はもうないと思い、今月(6月)の日銀量的緩和拡大の有無も確率でいうと半々だと思う。
より重要なのは、仮に日銀が量的緩和の規模を拡大したとしても、一時的な円安はあるものの、継続的な円売りにつながらず、場合によっては2016年1月末と同様、量的緩和の拡大でかえって円買いを刺激する可能性さえある。
要するに黒田バズーガの逆噴射再来もあり得るので、要注意だと思う。そのあたりの理屈はまた次回。市況はいかに。
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