足元の為替市場はニュートラルの状況を保っている。
先週末3日に発表となった米国雇用統計の悪化、ならびに、いわゆる「ブッシュ減税」の延長は強い米ドル売り圧力となったが、ユーロのソブリンリスク(国家に対する信用リスク)や中国の利上げ観測、米国の長期金利(10年もの国債の金利)の上昇が米ドルを下支えした。
このことを示す代表的な通貨ペアは米ドル/円だろう。
下のチャートをご覧いただければ、おわかりいただけると思う。
米ドルは米国雇用統計の悪化を受けて急落していたが、7日には「ブッシュ減税」の延長を受けて急速な切り上げを見せ、V字型回復を果たしている。
テクニカル面から見れば、7日の安値が11月1日の安値を起点とした全上昇幅の半値押しのラインにサポートされたことに注意していただきたい。
それでは、なぜ「ブッシュ減税」が米ドル/円に大きなプラスの作用をもたらすのだろうか?
それは他ならぬ米国の長期金利の上昇にあり、「ブッシュ減税の延長 ⇒ 景気浮揚に寄与 ⇒ 国債価格下落 ⇒ 金利上昇 ⇒ 日米金利差の拡大 ⇒ 米ドル買い/円売り」といったプロセスが考えられる。
ただ、この利回り上昇が米ドルにもたらす効果については、対円以外の通貨に対しては必ずしも鮮明にはなっていない。
金利差そのものに対する反応は短期的であり、また、米ドル/円が「特殊な通貨ペア」であることを改めて認識させられる。
■米ドル/円の上値余地はさらに広がり、85~86円へ
米ドルと円は「リスク回避先」として見られる傾向にあり、さらに、事実上の「ゼロ金利」の通貨であるため、米ドル/円が他の通貨ペアよりも米国の金利の変動に敏感に反応するのは理にかなう。
したがって、結論から言えば、米国の長期金利の上昇傾向が続くようであれば、米ドル/円の上値余地はさらに広がり、85~86円をつけてもおかしくはないだろう。
現在もなお、11月安値からのリバウンドの途中にある。

その一方で、米ドルは他の主要通貨に対しては、米国の金利上昇から享受できる恩恵が少ないと思っている。
その理由は、量的緩和といった大きな問題はもちろん、今回の「ブッシュ減税」が長期スパンで米ドルの構造的問題をマーケットに再認識させると考えているためだ。
■いずれは米国の財政懸念がマーケットに広がる
みなさんもご存知のように、米ドルの構造的な問題は「双子の赤字」である。経常赤字と財政赤字の削減は、米国にとって避けられない課題だ。
米国のオバマ政権は、経常赤字の削減を目指して「5年輸出倍増計画」を打ち出し、中国に人民元切り上げの圧力をかけ続け、あの手、この手を使って努力しているように見える。
しかし、今のところははっきりとした効果が見えてこない。
その分、高い失業率を背景に中間選挙で惨敗したオバマ政権はあせりの色を見せ、国民に妥協して前の共和党政権の減税案を延長せざるを得なくなった。
それは「政治的な庶民迎合」と言うほかあるまい。
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