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ドル・円・ユーロの明日はどっちだ!?

76.25円=ドル円の史上最安値はウソ!?(1)
1ドル=1円の日本はどんな時代?

2011年04月04日(月)15:31公開 (2011年04月04日(月)15:31更新)
ザイFX!編集部

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 東日本大震災の翌週、3月17日(木)に米ドル/円は急落、1995年4月19日につけた安値79.75円を割り込み、一時76.25円まで米ドル安・円高が急激に進行した。

 これを受け、「米ドル/円が史上最安値を更新(円が史上最高値を更新)」といったタイトルの記事が当サイト・ザイFX!を含め、たくさんのメディアで流れたのはみなさんご承知のとおりだ。

■「米ドル/円が史上最安値を更新」はウソ!?

 米ドル/円の月足チャートを確認してみよう。直近の米ドル/円は確かに1995年の最安値を一旦更新したことが見て取れる。

米ドル/円 月足

 次のチャートは期間をもっと長くとってみた。太平洋戦争が終結してから4年後、1ドル=360円に定められた1949年(昭和24年)以降の長期チャートだ。

戦後の米ドル/円 長期チャート

 基本的に年間の終値を使ったチャートのため、1995年のところなどは先ほどのチャートと少し形が異なっているが、このチャートでは1ドル=360円時代からの長期の動きを俯瞰して見ることができる。

 これを見ると、米ドル/円の相場では、途中で上下動はあるものの、基本的にずっと米ドル安・円高の流れが続いてきたことがわかる。

 そして、その流れの中で先日ついに「米ドル/円は史上最安値を更新(円が史上最高値を更新)」したというわけだ。

 けれど、「史上最安値」云々というのは実はウソなのである。いや、ウソというのは大げさかもしれない。ちょっと正確さにかける表現なのだ。

 「米ドル/円が史上最安値を更新(円が史上最高値を更新)」ではなく、正確には「米ドル/円が戦後の変動相場制以降の史上最安値を更新(円が戦後の変動相場制以降の史上最高値を更新)」と言わなくてはならないところなのだ。

■明治のはじめ、1ドルは1円だった!

 米ドル/円の歴史は1ドル=360円から始まるわけではない。歴史は1ドル=360円よりもっと前に遡ることができる。けれど、その話が為替の記事などに登場することは少ない。

 次のチャートをご覧あれ。これは太平洋戦争以前の米ドル/円相場のチャートだ。

戦前の米ドル/円 長期チャート

 明治のはじめ頃から、日本が米国と交戦状態となって米ドル/円が“無為替”になる直前の1940年(昭和15年)まで、60年以上の長期に渡る米ドル/円チャートである。

 先ほどの戦後のチャートとは異なり、これは基本的に右肩上がりとなっている。ちなみに先ほどとチャートの基本設定は変えていない。逆にしたりはしていないのだ。つまり、上に行くほど米ドル高で円安、下に行くほど米ドル安で円高となっている。

 そして、チャートの目盛りに注目。1.0円とか2.0円といった数字が並んでいるのがわかるだろう。

 このチャートのスタート地点は、米ドル/円相場がはじめて公式の記録に現れた1874年(明治7年)。このときの米ドル/円相場はおおよそ1ドル=1円だった!

 先ほど述べたとおり、そこから太平洋戦争に向けて、紆余曲折はありながらも、米ドル/円のチャートは右肩上がりとなっている。つまり、戦前の円は趨勢的に安くなり続けたのだ。

 そして、太平洋戦争の直前にはなんと4円以上になっている。明治のはじめと比べると、実に4倍以上の円安になったということだ。

 それでも…。1ドル=4円といっても、今と比べればものすごい円高だ。1ドル=76円程度で円高などと言っていては、鼻で笑われてしまいそうなほど、かつてはすさまじい円高だったのである(今と比べればの話だが…)。

■ダイナミックに動いてきた長期の米ドル/円相場

 では、戦前と戦後、2つのチャートをつなげてみよう。戦後すぐの時期、1ドル=360円と定められる前の時期に普通の為替相場はなかったようなのだが、「軍用交換相場」というものはあった。

 先に掲載した2つのチャートの間をその「軍用交換相場」で糊付けし、すべてをつないだのが140年弱にも及ぶ次のチャートだ。

戦前から戦後に渡る米ドル/円の長期チャート

 どうだろうか。これは、あまりにもダイナミックすぎる動きではないだろうか。近現代の日本が刻んできた幾多の歴史的出来事の裏側で、米ドル/円相場はこんなふうに大きく揺れ動いてきたのだ。

■重要なキーワードは「金本位制」

 さて、ここからは故吉野俊彦氏による『円とドル』(NHK出版、1996)という書籍をおもに参考にさせていただき、おそらく読者のみなさんにあまりなじみがない、戦前の米ドル/円相場について振り返ってみたい。

 それを振り返るとき、重要なキーワードになるのが「金本位制」、さらには「銀本位制」だ。そして、「金本位制」との関係で重要な意味を持つのが「紙幣の発行量」。これが為替相場に大きな影響を与えていたのである。

 そして、それはひょっとすると、未曾有の国難に襲われ、「震災国債」の日銀引き受け案なども出ている、今の日本につながってくる話かもしれない(ただし、ダイレクトに結びつけるのは無理があるだろう)。

 また、戦前の「紙幣の発行量」には「戦争」がたいてい関係しているのも1つの大きな特徴だ。

■「円」のはじまりは1871年(明治4年)

 時代劇でよく見るが、江戸時代、日本の貨幣の単位は「両」だった。これが「円」になったのは1871年(明治4年)に制定された「新貨条例」による。

 新貨条例では金(ゴールド)1500ミリグラム=1円と定められ、金貨が製造されることになった。また、それを補助するものとして銀貨や銅貨も作られた。

 ところで、「金本位制」とは金(ゴールド)を基準に据えた貨幣制度であり、「金貨」や「金(ゴールド)との交換が保証された紙幣(兌換紙幣)」を流通させるものだ。

 この意味では、新貨条例制定時の日本は金(ゴールド)1500ミリグラム=1円と定めたわけだから、金本位制を指向していたと言える。けれど、当時の日本には十分な量の金(ゴールド)はなく、また、日本や日本の周辺のアジア諸国では欧米とは違って、銀を重要視する傾向があったようだ。

 そのため、実際には、日本の貿易などでは金貨ではなく、銀貨がよく使われていたという。つまり、当時の日本は法律的には金本位制のフリをしつつ、実際上は銀にも重きを置く「金銀複本位制」になっていたということのようなのだ。

 ちなみに英語の「BANK」の訳語が「金行」ではなく「銀行」になったのも当時、銀が重要視されていたかららしい。

 さて、為替の話のはずなのに、なぜ金本位制に寄り道したかというと、それは金本位制が為替レートに関係大ありだからだ。

 この頃、米国は事実上、金本位制度になっていた。そして、日本とは単位が違っていたりしてややこしいのだが、それを換算していくと、結局、米国でも金(ゴールド)1500ミリグラム=1ドル見当になっていたのである。

 だから、金(ゴールド)を仲立ちとして、米ドル/円はおおよそ1ドル=1円というレートになったようなのだ(※)。

(※この頃の米ドル/円相場は正確には「100円に対して○ドル」という表記になっていたのだが、ここでは現代風に「1ドル=○円」に換算して記述している)

■西南戦争で大量の不換紙幣を発行

 さて、以下の米ドル/円チャートを見ると、1円で始まった米ドル/円相場は明治の中頃にかけて2円あたりまで上昇しているのがわかる。これは結構な円安が進んだことになる。

戦前の米ドル/円 長期チャート

 その理由として考えられるのは1つは西南戦争で必要となった莫大な戦費調達のため、政府が不換紙幣を大量発行したことだ。

 「西南戦争で不換紙幣」云々という話が出てきたとき、そういえばそんな言葉を意味もよくわからず丸暗記したような…と、記者には遠い小学校か中学校の歴史の時間の記憶が呼び起こされてきた。

 けれど、次に述べるように「不換紙幣」というのは「意味もよくわからず」などとは言っていられない、重要な意味を持つものなのだ。

 1877年(明治10年)に起こった西南戦争とは、できたばかりの明治政府に対して不満を持った西郷隆盛を中心とした士族が起こした反乱。

 この当時、日本銀行はまだ設立されていなかった。紙幣を発行する中央銀行はなかったのである。では、この不換紙幣を発行したのはどこかというと、日本政府だったのだ。

 また、金(ゴールド)との交換が保証された兌換紙幣に対し、不換紙幣とは金(ゴールド)との交換が保証されていない紙幣

 つまり、不換紙幣は金(ゴールド)の保有量に関係なく、際限なく発行されてしまう可能性を持っている。

 そして実際、西南戦争時に日本政府はお金が足りなかったため、不換紙幣が大量発行された。その結果、あふれた紙幣の価値は下がり、逆にモノの価値は上がった。つまり、かなりのインフレになったのである。

 日本のお金はモノに対して価値が下がったが、そうなると、当然、外国のお金に対しても日本のお金の価値は下がる。その結果、米ドルに対して円安が進むことになったのだった。

■紙幣が単なる紙切れと思われてしまうこともある

 現代社会の主要先進国で、紙幣の価値に疑問を持つ人はまずいないだろう。

 紙幣とは何やら複雑な文様が印刷されてはいるが、要するにそれは紙切れである。よくよく見れば、それは単なる紙切れなのだ。

 けれど、紙幣はさまざまモノを買うことができる力を持っている。それは政府や通貨当局が紙幣に「信用」を与えていればこその話である。

 しかし、お金で普通にモノが買えることに長らく慣れてきた現代の我々は、財布の中に入っているこの1万円札は信用できないんじゃないの? 単なる紙切れなんじゃないの? などと一々根本から疑うようなことはない。

 だが、遠い明治初期の時代には、乱発されたために紙幣の価値がドンドン下がってしまう出来事が実際にあったわけだ。後年、このときの不換紙幣は回収され、焼き捨てられるという激しい処置が行われたという。そこまでしなければならないほど、不換紙幣は世の中にあふれていたのだ。

 不換紙幣の信用は薄く、ちょっと大げさにいえば、文字どおり、紙幣が紙くず同然のようになってしまったのだった。

「76.25円=ドル円の史上最安値はウソ!?(2) 日本でハイパーインフレが起きた理由」へつづく)

(ザイFX!編集部・井口稔)

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