●金融ストラテジスト岡崎良介さんに聞く Vol.2
(「円が通貨漂流を始めた!5年後に150円の理由とは?」からつづく)
■「9月100円」が当面のメドか。それ以上は「行き過ぎ感」
前回は2018年に1ドル150円というターゲットが見えてきたとお伝えした。でも、もうすこし短めの動きも気になるところ。これから数カ月、為替市場はどう動くのか。
「5年で50円動くとして、1年で10円程度が平均値。とすれば、3カ月で2~3円が巡航速度。多少上振れがあるとしても5円以上円安が進むと、そこはさすがに行き過ぎ感があります。とすれば6月までに100円超え、半年後の9月までに105円ぐらいが見えてきますが、これ以上に円安が進むなら調整が入るとみて良いと思います」
物足りない気がするかもしれないが、2013年1月が85円だったから、3月までに95円へ達してしまったのは巡航速度をはるかに超えるスピード。“速度違反”の円安だったわけで、これからはもう少しのんびりした円安になりそう。
■「安値覚え」は禁物! 買いどきは欲張らないのがコツ
「反対に調整(下落、円高局面)はというと、あまり深い下落はないでしょうね。チャートを見ると明らかですが、今回の円安は『一度、節目を抜けたら、もう割らない』のが特徴。85円を昨年末に抜けてからは一度も割っていません」
昨年の解散以降、現在の円安トレンドが始まってからの動きを80円、85円、90円の節目で見てみよう。一度、上に抜けたあとはちょろちょろと割る場面はあるが、明確に割りこんでトレンドが崩れてしまうような場面はない。
■節目を割らないのは「円安トレンドの強さ」の裏返し
「それだけトレンドが強い証拠ですし、売買するときは『安値覚え』はしないほうがいい。『あのとき90円で買えたんだから、90円まで落ちるのを待って買おう』なんて思っていると、いつまでも買えない可能性が高いと見ています」
今回の円安では「安く買おう」と欲張らず、買いたいときに素直に買ってしまうのがよさそうだ。それと、節目を意識して細かく取引したい人には、奈那子さんのやり方も参考になるかも。
【参考記事】
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■アベノミクスも一服。じゃあ何が円安を加速させるのか
「円安の巡航速度は3カ月で2~3円」。これを覚えておくと、相場の「行き過ぎ」を見るのにも役立ちそう。だけど、アベノミクスってそろそろネタ切れとの声も。さらなる円安の推進力ってあるのだろうか。
「企業が『円高経営』から『円安経営』に変わってくるでしょう。円高時代、アメリカで販売する輸出企業は『さらに円高が進んでドルの価値が低くなる前に多めにドルを売るっておこう』と考えていました。でも、これから円安が進むと考えるようになれば、『今、ドルを売るよりも、1カ月後に売ったほうが得だ』と考えるようになります。こうした考え方は『リーズ&ラグズ』と呼ばれます」
■日本企業が「円安経営」へ一斉に転換する!
今は円安トレンドに転換したばかりで、企業の対応は追いついていない。これから「円高経営」から「円安経営」へと転換する。つまり、輸入企業からのドル売り為替予約は減っていくし、輸出企業からのドル買い為替予約が増えていくのはこれから本格化するということ。
「『円高経営』のままでは収益が上がらず取り残されてしまいます。日本企業が一斉に動き出すわけですから、円安へと相場を動かす大きな要因になるわけです」
それにもうひとつ、忘れちゃいけないのが個人投資家の力。
■個人金融資産の2%が動くだけで日銀以上の力になる!
「日本人の金融資産がおよそ1500兆円。そのうち、FXにまわっている分はまだごくわずかです。円安ということで日本人がよりFXを活用するようになり、2%がFXにまわったとすると30兆円」
しかも、FXにまわった資金はレバレッジを効かせて運用される。
「だいたいレバレッジ4倍で運用されるとして30兆円の4倍で120兆円。日本の外貨準備高がおよそ1.3兆ドルですから、ほぼ同じだけのインパクトになります。とんでもない額ですよ、これは。個人投資家が動き出せば、いくら日本銀行が介入してもコントロールできない。『通貨漂流』とはこういうことなんです(「円が通貨漂流を始めた!5年後に150円の理由とは?」参照)」
■FXにまわったお金はまだ0.02%だけ
日本のFX口座に入っているお金、今はまだ1兆円ちょっと。1500兆円の0.02%にも満たないのだ。
それに対して外貨預金は5兆7000億円。だいぶ差があるようだが、FX口座残高が順調に増えているのに対して、外貨預金はもう頭打ち。
円安が進むと、FXへまわるお金も増えるのは、過去の傾向を見ても明らかだ。個人投資家が一斉に外貨を買い始めたら、円安をさらに加速させて、いくら日銀が介入して止めようとしても、もう止まらない。それが岡崎さんのいう「通貨漂流」なのだ。
■ドル高ではなく円安だから、どの通貨に対しても円安は進む
さて、ここまで米ドル/円の見通しを聞いてきたが、豪ドルやユーロ、NZドルなどの通貨に対して、円はどう動くのだろうか。
「ドル高ではなく円安ですから、基本的な見通しはどの通貨に対しても変わりませんが、通貨によって多少の強弱はあると思います。『円安先頭集団』を走るのは豪ドルや米ドル。第二集団が南アフリカランドなどの新興国通貨。一方で、『円安後方集団』を形成するのは、ユーロや英ポンドといった金融緩和を行なっている低金利通貨では」
米ドルも豪ドルも先頭集団なら、どちらを買うか迷ってしまうが――。
「同じくらいの速度で円安が進むのなら、金利の高い豪ドルのほうが効率的でしょう」
■豪ドル/円の値動きは「対米ドル」を意識するとわかりやすい
「豪ドルの動きですが、参考になるのが豪ドルと米ドルのレート。これを見ると、1豪ドル=1.04ドルくらいで安定しているので、米ドル/円とほぼ変わらない動きと見てよいのでは」
為替市場で主に取引されるのは対米ドルの通貨ペア。豪ドル/円も、それぞれの通貨の対米ドルの為替レートがあって、そこから豪ドル/円のレートが計算される。式にしたら「豪ドル/円=豪ドル/米ドル×米ドル/円」といった感じ。そのうちの豪ドル/米ドルが1ちょいのレートで安定しているということは、ほぼ「豪ドル/円=米ドル/円」と見てよいわけだ。
■不確実性要因の多いユーロは慎重に
「いちばんオススメしないのはユーロ/円ですね。ユーロ/米ドルは1.20~1.40ドルくらいのレンジで動くだろうとは思いますが、不確実な要因が多く、予測しづらい。キプロスのような小さな国で右往左往させられるのは、皆さんも嫌ですよね(笑)」
ユーロ/米ドルが1.20~1.40ドルということは、先ほどの豪ドル/円と同じ考え方で米ドル/円のレートに1.3くらいをかければ、おおよそのターゲットが割り出せるはずだが、ユーロ危機がくすぶっていて乱高下しそうなので、手を付けないでおこう。
「金利面を見ても、ユーロよりも豪ドルのほうが魅力的ですから」
短期的なターゲットも見えたし、通貨ペアの狙い目も絞れてきた。いよいよ次回は、「FXの活用法」。元ファンドマネジャーでもある投資のプロ岡崎さんのテクニックを覗いちゃおう!
(取材・文/高城泰 2013年4月)
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