このEBSには人が手動で入力した注文だけでなく、普段はプログラムが自動的に出すビッド(買い値)とオファー(売り値)が表示されるような状態になっているそうだ。酒田氏によると、ユーロ/スイスフランが1.20フランを割れてからは、プログラムによるそういったプライスは、プログラムが引っ込められたようで、まったく出なくなったとのこと。
そういったプライスのないEBSの赤い表示状態のなか、散発的に手動で出された売り注文が表示はされるがむなしく約定せず、ユーロ/スイスフランの為替レートは底なし沼に吸い込まれるがごとく、みるみる沈んでいったということなのだ。
■なんと、0.015フランでいったん約定したものもあった!
その背景にはユーロ/スイスフランの流動性の低さという問題があった。
「実は米ドル/円なら100円割れという、現在のレート(116~118円程度)からかなり遠いところにも、今も買い注文が入ってるんです。
でも、ユーロ/スイスフランの場合は誰も1.20フラン割れを想定していないから、1.20フラン割れのところにはまったく買い注文が入っていない。
買い注文がまったくないから、ストップロスの売り注文を執行しようとしてもできないのです」

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/スイスフラン 週足)
ユーロ/スイスフランは一応、主要通貨同士の通貨ペアではあるが、元々の取引量が少ない上に、1.20フラン割れはマーケットの想定外のことであったため、1.20フランより下は買い注文のまったくない空白地帯になっていたようだ。
「0.85フランあたりまで急激にレートが下がっていったあとは、おそらくSNBの介入もあって、1.05フランあたりまで回復してきました。ここまでで30~40分ぐらいの話でしょうか。その付近でやれやれ売りが出てきて、ストップロスも執行されているようでした」

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/スイスフラン 5分足)
酒田氏によると、このパニック的なユーロ/スイスフラン大暴落の過程では、なんと「0.015フランで約定したものもあった」という。しかし、これはさすがに「ミスヒットということで、最終的にはキャンセルされたと思います」とのことだった。
また、大暴落の最中、酒田氏自身はユーロ/スイスフランに買いで入ったそうだ。
「かなり下がったところで買ってみたんです。でも、思ったよりもさらに下がっていって、最終的には儲かりましたが、しんどかったですね」
■米ドル/スイスフランにもプライスがなかった
ユーロ/スイスフランは米ドルが絡まない、いわゆる「クロス通貨」。となると、米ドルが絡んだ2つの通貨ペアからそのレートを算出することができる。つまり、ユーロ/米ドルと米ドル/スイスフランのレートがあれば、ユーロ/スイスフラン自体の取引が全然なくても、ユーロ/スイスフランのレートは理論的に算出できるはずなのだ。
スイスショックの瞬間のユーロ/米ドルと米ドル/スイスフランはどうなっていたのだろうか? 酒田氏に聞いてみた。
「ユーロ/米ドルは動きは激しかったですが、普通にプライスは立っていました。けれど、米ドル/スイスフランはユーロ/スイスフランと同じようにプライスは立っていなかったんです」

(出所:米国FXCM)

(出所:米国FXCM)
ドルストレートである米ドル/スイスフランであれば、もしかしたらレートはあったのではないか?と記者は思ったのだが、そうではなかった。
さすがに外国為替市場で最大の取引量を誇り、スイスフランが絡んでいないユーロ/米ドルのレートがなくなることはなかったものの、米ドル/スイスフランについては、ユーロ/スイスフランと同様、レートのまったくない状態にしばらく陥っていたということだ。
ところで、個人投資家への取材内容やネット上の書き込みなどを見ると、今回のスイスショックでは恐ろしいことに…
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