2015年1月15日(木)に起こった“スイスショック”の影響を受け、欧米では破綻する大手FX会社も出てきました。
今回は米国在住の広瀬隆雄さんに欧米のFX会社に対する“スイスショック”の影響などについてご寄稿いただきました。広瀬さんはJPモルガンなどを経て、米国にて投資顧問会社を設立。現在は人気投資ブログメディア「Market Hack」の編集長も務めています(ザイFX!編集部)。
スイス中銀は無制限為替介入をなぜやめたのか?
1月15日(木)にスイス中銀(SNB([スイス国立銀行])は、1ユーロ=1.2スイスフランに設定していた対ユーロでのスイスフラン上限(キャップ)をやめると突然発表しました。
【参考記事】
●ユーロ/スイスフランが約3800pips大暴落! スイス中銀が防衛ラインの撤廃を発表!(2015年1月15日)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/スイスフラン 週足)
3年前、ギリシャ危機でPIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)諸国に金融不安が走った際、「堅い」イメージのあるスイスフランに人気が出てスイスフランが強くなり、スイスの輸出業者が苦しみました。
そこで、スイスフランをユーロに連動させてしまうことでスイスフランの魅力をなくしてしまい、怒涛の投機資金流入を避けたのが無制限為替介入のそもそもの動機です。
【参考記事】
●為替介入で大暴落したスイスフラン! 大損失を被った個人トレーダーも!?(2011年9月9日)
その後:
(1)スペインやイタリアの国債価格が上昇し、危機が去った観があること
(2)絶え間ないユーロ買い・スイスフラン売りの介入でスイス中銀のバランスシートが3倍に膨れ上がってしまったこと
(3)欧州中央銀行(ECB)が今後アメリカ型の量的緩和政策(QE)、つまり、国債の買い入れを発表すると、一層、無制限介入が困難になること
などの理由から「そろそろ、ここらが潮時だろう」という判断に至ったのだと思います。
その瞬間、市場はどう動いたか?
無制限為替介入放棄のニュースがもたらされると、スイスフランはユーロに対し、いきなり約30%も暴騰しました。通常、FX取引では数十倍のレバレッジ(=日本の現行ルールでは25倍)をかけて取引しますので、今回のスイスフランの暴騰で、大儲けする投資家や大損する投資家が続出しました。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/スイスフラン 30分足)
なお、スイス中銀の爆弾宣言の直後、スイスフランの取引はマヒ状態になりました。流動性が枯渇してしまったのです。
このため、顧客注文リクエストに対し、信頼できるレートで約定できたのか?という確認が難しくなっています。このことからも個人のFX投資家がどれだけ損を被ったかということの金額の確定には、少し時間がかかると思います。
日本では今回のような事態を見越した指導強化を実施済み
日本の当局は、今回のような突発的な事態が起こることをあらかじめ想定して、FX取引に対して過去数回に渡って規制強化をしてきました。
一例として、すでに日本のすべてのFX会社は信託保全を行っています。信託保全されていれば、元本が保証されるというわけではありませんが、顧客資産は信託先の信託銀行などで区分管理されるため、FX会社が破綻した際でも、顧客資産は基本的に保全されます(※)。
(※厳密にはFX会社が、相場が大変動して適切なカバー取引ができなかった場合やFX会社にシステム障害があった場合など、顧客資産の一部が返還されない可能性はあり得ます)
【参考コンテンツ】
●FX会社おすすめ比較:会社の信頼性で比べる
海外のFX会社が破綻した場合、海外FX会社の日本法人に日本の顧客が預けている投資資金については、ゲートが設けられているので、海外に逃げにくいしくみになっていると理解することができます。
トレーダーが抱えているリスクのおさらい
今回の事件は我々がトレードする際にどのようなリスクを想定しなければいけないか?を考える上でとても良い教訓を残しました。そこで、今回発生したリスクをここで簡単におさらいしておきたいと思います。
まず、スイス中銀の無制限為替介入の放棄でスイスフランが暴騰したのは「為替リスク」です。
あまりにレートが動き過ぎ、自分の思うようなレートで約定できなくなってしまったのは「執行リスク」です。
さらにFX会社そのものの経営を脅かすほど市場が動いたことで「倒産リスク」まで心配しなければいけなくなりました。急いで出金しようと思っても、「自由に解約できないリスク」も一部に生じています。
このようにリスクが複合化することは普段から十分に想定しておかなければいけないことです。リスクに対する即効性のある対処の仕方としては:
(1)過度のポジションを建てない
(2)普段から必ず損切りのストップ注文を入れておく
(3)使うFX会社を分散する
などがあります。
スイス中銀爆弾発言以降の海外FX会社の状況
出来高ベースでみると、海外のFX会社のランクは次のようになっています。
今回のスイス中銀爆弾発言以降の各社の状況は流動的であり、今後、刻々と変化することが予想されます。それを断った上で現在までに入ってきている情報をまとめると、以下のとおりです。
最大手の米FXCMは2億2500万ドル(263億円)にのぼる損が出たことで自己資本規制に抵触する恐れが出ました。
しかし、中堅投資銀行ジェフリーズの親会社であるルーケイディア・ホールディングスが優先手形(=破綻した際に、真っ先に支払ってもらえる、優先順位の高い手形のこと)という形で3億ドル(351億円)を融通することになり、危機は回避されました。このため、平常どおりの営業が可能だと思います。
【参考:米FXCMの日本法人=FXCMジャパン証券】
●FX会社おすすめ比較:FXCMジャパン証券「スタンダード口座」
●FX会社おすすめ比較:FXCMジャパン証券「プレミアム口座」
●FX会社おすすめ比較:FXCMジャパン証券「MT4口座」
●FX会社おすすめ比較:FXCMジャパン証券「ミラートレーダー口座」
デンマークのサクソバンクは本国のウェブサイトで「スイス中銀の無制限介入断念のニュースのあと、新規顧客からの資金の流入を見ている。この資金の一部は他社の口座からの預け替えである」とコメントしました。
サクソバンクの場合、スイスフランの変動が自己勘定へ与えた影響は取るに足らないものでした。ただ、顧客の口座では、スイスフランの変動で儲けた顧客もあれば、損を被った顧客もあるそうです。
【参考:デンマークのサクソバンクの日本法人=サクソバンクFX証券】
●FX会社おすすめ比較:サクソバンクFX証券「スタンダードコース」
英国のアルパリUKは、いち早く破綻宣言を出したのですが、その後、英国のウェブサイトにて、「顧客口座は英国の監督当局であるFCAの指導に基づき分別管理されており、アルパリUKは先日の破綻宣言にもかかわらず、いまだ正式な清算手続きには入っていない」というニュースリリースを出しています。
【参考記事】
●スイスショックでアルパリUKが破綻! スイスフラン大暴騰で損失をカバーできず
英国を本拠とするIGグループに関しては、一部のメディアが「IGグループの顧客の間で損が出た関係で、同社が3000万ポンド(53億円)を上限とする損害を被った」と伝えていますが、公式サイト上で会社側からの正式なニュースリリースはいまだ出ていません。
同社の事業規模から考えて3000万ポンドは比較的軽微なダメージで、経営に影響はないと思います。
【参考:英IGグループの日本法人=IG証券】
●FX会社おすすめ比較:IG証券「ミニ取引」
●FX会社おすすめ比較:IG証券「標準取引」
FOREX.COMを展開する米ゲイン・キャピタルは今回の無制限為替介入放棄を早くから予見し、顧客に対してスイスフランをショートするポジションを取らないよう、呼びかけるとともに、スイスフラン取引のレバレッジ比率を引き下げる措置を取りました。
ゲイン・キャピタルは今回のスイス中銀の発表で利益を出した模様です。また、他社からの預け替えの恩恵を被ると見られています。
【参考:米ゲインキャピタルの日本法人=ゲインキャピタル・ジャパン】
●FX会社おすすめ比較:ゲインキャピタル・ジャパン「MetaTrader4」
●FX会社おすすめ比較:ゲインキャピタル・ジャパン「FOREXTrader」
(Market Hack:広瀬隆雄)
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)