■米利上げを阻止する目立った障害がなくなっているので…
もっとも、イエレンFRB議長が利上げの延期理由について、中国景気減速と市場の安定性を挙げていたが、この2つの要因は、足元揃って「改善」しているから、利上げを阻止する目立った障害がなくなっていることも、市場関係者の思惑を膨らませた。
市場の予想が暗いものだったせいか、最近の中国の貿易収支や本日(4月15日)公表されたGDPの数字も市場のコンセンサスより良かった。その上、上海株もNYダウも大きくリバウンドしてきているから、市場の混乱を想定した利上げ延期という根拠は薄れてきたと言える。
こういった見方が正しいかどうかはともかく、目先、米ドル全面安に対する修正があってもおかしくなく、また、なお修正の途上にあることを記しておきたい。
換言すれば、チャイナリスクの再浮上や世界金融市場の混乱が再度拡大してこない限り、米ドル売りに躊躇する市場関係者が多いはずだ。ゆえに、これ以前にショートしていたポジションは買戻しされがちなので、米ドル全体の反騰もしばらく続くかと思う。
■クロス円の売り圧力が米ドル/円の反騰を抑制
ただし、この先、米ドル/円とドルインデックスの相関性が、このまま高い水準を保つとは限らない。
何しろ、米ドルの反騰は、対円よりも、対ユーロ、対英ポンドなど外貨のほうがよりパフォーマンスが良いはずだ。
この場合、米ドル高・ユーロ安、または米ドル高・英ポンド安がユーロ安・円高、または英ポンド安・円高につながり、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の売り圧力が結果的に米ドル/円の反騰を抑える存在となるから、軽視すべきではないと思う。
つまるところ、米ドル/円の内部構造自体が米ドルの大幅反騰を許していないのだ。相場を予想するのではなく、相場のことを相場に聞くなら、米ドル/円の日足を観察すれば、米ドルの頭が重い、ということが誰にでもわかるだろうう。
何らかの特別な材料がない限り、米ドル安・円高のトレンドが継続される公算が極めて高いことは自明の理だ。
■111円前後が重要なレジスタンスゾーン
もっともシンプルなテクニカル・ツール、つまり、レジスタンスラインを見ればわかるように、レジスタンスライン1とレジスタンスライン2が合致している111円の節目前後がもっとも重要なレジスタンスゾーンとなる。それをブレイクしない限り、米ドル高・円安云々は単に戯言にすぎないことが示唆される。
(出所:CQG)
その上、何らかの特別な材料(財政出動、日銀介入、あるいはマイナス金利拡大などなど)があっても、メインレジスタンスラインの3を突破するのは至難の業だと思われる。
これはかつて「黒田防衛ライン」と言われただけに、相場の心理的節目として大きな抵抗と化しているから、現在は「黒田レジスタンスライン」として意識されるべきであろう。仮に日銀の介入があっても、このラインを上回っていくとは、現時点ではもはや誰も断言できなくなっているだろう。
■「2016年内に黒田防衛ライン打診」は基本的に妄想
もっとも、「黒田防衛ライン」はそれ自体がテクニカル上、重要な役割を果たしていたから、防衛ラインと呼ばれたわけだ。
同ライン割れが2015年高値を「ヘッド」とした大型「ヘッド&ショルダーズ(※)」の成立を証左しただけに、今後の安易なブレイクを許さない存在になっている。特別なことがない限り、2016年内の同ラインの打診は、基本的に妄想に近い出来事だと思う。
(※編集部注:「ヘッド&ショルダーズ」はチャートのパターンの1つで、天井を示す典型的な形とされている。人の頭と両肩に見えるために「ヘッド&ショルダーズ」と呼ばれていて、仏像が3体並んでいるように見立てて「三尊型」と呼ぶこともある)
(出所:CQG)
結論を言うと、米ドルのリバウンドは、通常なら強くても111円の大台前後、何らかの特別なことがあっても115円台以上を保つことはできないはずだ。
その上、“特別なこと”は基本的に起きてこない公算が高いから、あまり妄想すべきではない。このあたりの話は、また次回。
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