■「総括的な検証」の結果、円高傾向が維持されることも
このように、日銀が9月20日(火)、21日(水)の金融政策決定会合で行う「総括的な検証」は、市場関係者の多くが追加緩和につながる可能性が高いとみているものの、総括的な検証の結果が単に従来政策の延長や拡大に留まるなら、その規模はどうあれ、マーケットを失望させることになるだろう。
この場合、2016年1月末の日銀マイナス金利導入時のような「逆噴射」の事態にはならなくても、当面、円高傾向が維持されるのではないだろうか。
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■浜田宏一教授発言は市場にどのような効果をもたらすか?
もっとも、このような事態をもたらした原因は、日銀以外にある。最近では、官庁サイドと思われるところから発信されたシグナル、または人為的な誘導に起因しているところが大きい。
7月の財政出動の規模や中身に関するリーク(首相本人が直接示唆した場合もあった)が記憶に新しいが、最近の好例では、8月末の浜田宏一教授(安倍首相のブレーンとされる大物)の話が効いていたかと思う。
【参考記事】
●あの浜田宏一氏も登場! 上田ハーローのセミナー登場人物が大物すぎる件について
浜田教授は、日銀による外債購入や為替介入が合法であると言ったのだが、この発言は安倍政権から日銀への圧力と誤解されやすい上、市場の憶測を膨らませた。
あまり良いたとえではないが、日銀が出した「QQE(量的質的緩和策)」の「麻薬」を、市場はずいぶん吸ってきたものの、もう慣れてきたから、これからもっと量を増やしてもマーケットが刺激を感じなくなっていると思われたところに、浜田さんが「新しい薬があるよ」と言い出し、これが市場関係者を刺激したというわけだ。
そして、問題は、浜田さんご自身が日銀政策を決定できないということだ。結局、こういった発言はマーケットの思惑を膨らませ、かえってこれからの日銀政策の効果を限定的なものとし、また、逆効果をもたらすリスクを増大させていることだろう。
浜田宏一・イェール大学名誉教授の発言はマーケットの思惑を膨らませ、結果的に今後の日銀政策の効果を薄めてしまっているのだろうか。 写真:ロイター/アフロ
■市場関係者の多くが浜田教授の話を懐疑的に考えている
実際、浜田教授は安倍内閣の内閣官房参与を務めているから、「氏の発言にはどれほど官庁の意向が反映されているのか」といった思惑を呼びやすく、また一種の圧力と解釈されやすい。
しかし、肝心なのは、日銀政策自体はあくまで日銀が決定するものということだ。だから、現在のQQE+マイナス金利政策の継続や拡大自体、日銀内部の反対も根強いとされる状況において、直接の外債購入といった過激な手段を取る可能性は小さいかと思う。
言ってみれば、内閣官房参与の言いたい放題は実現されず、市場を失望させ、結果的に円高の進行をより持続的なものにする、といった皮肉な事態を招きかねない。
その上、市場介入(日銀ではなく、財務省の仕事となるが)は、市場介入を繰り返し強く牽制してきた米国との摩擦を考えれば、やはりたやすく実行されるものではないとわかる。
いずれにせよ、市場とはあらゆる要素と思惑を織り込む形で形成されるものだから、前述の懸念、現在の値動きをもって市場の本音を探れると思う。
換言すれば、安値圏の推移に留まり、また、なお円高傾向を示している目下の相場に照らして考えると、市場関係者の多くが浜田先生の話に懐疑的だとわかる。
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こういった懐疑的な見方が増えれば増えるほど、次回日銀会合後の円高可能性を減らしていくから、「悪く」はないと思う。この意味では、目先の円高傾向は、会合前に強ければ強いほど、会合後の円高リスクを軽減してくれるだろう。市況はいかに。
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