前回(10月10日)に公開したコラムに続き、ザイFX!では、11月8日(火)に迫った米大統領選について、米国在住の広瀬隆雄さんに新たな記事をご寄稿いただきました。
【参考記事】
●お下劣トーク流出でトランプ陣営に悲壮感。クリントン勝利でもリスクオンとは限らない(10月10日、広瀬隆雄)
今回は、10月19日(日)に行われた第3回テレビ討論会を受けての寄稿です。第3回テレビ討論会では、トランプ氏がクリントン氏を「いじわるオンナ」と罵り、大統領選は「八百長」だから得票が少なかったとしても素直に負けを認めない、なんてことをほのめかした!?
勝つのは、ヒラリー・クリントン氏か!? それともまさかのドナルド・トランプ氏か!? 米大統領選がマーケットに与える影響は? 広瀬さんの見解はいかに…?(ザイFX!編集部)
■最後のテレビ討論会で、やっとマトモな議論に
2016年10月19日(日)ネバダ州ラスベガスで第3回テレビ討論会が開催されました。今回が最後の討論会であり、11月8日(火)の米大統領選、本投票前に両候補が同じ土俵で激突する最後の機会でした。
これまでの選挙戦では、ドナルド・トランプの性的発言の流出などにより、およそ大統領選挙とは思えない低次元の議論が繰り返されてきました。
【参考記事】
●お下劣トーク流出でトランプ陣営に悲壮感。クリントン勝利でもリスクオンとは限らない(10月10日、広瀬隆雄)
それに比べると、最終回のテレビ討論会は、本来の大統領候補テレビ討論会が持つべき威厳と、中身のあるディベートをようやく実現できたと言えるでしょう。
■民主・共和、それぞれの党が体現する価値観の戦い
ヒラリー・クリントンは、伝統的に民主党が主張する価値観、具体的には人工中絶賛成、銃所持の権利の制限、移民問題に寛容な立場を強調しました。
一方、トランプは伝統的に共和党が主張する価値観、具体的には減税、人工中絶反対、銃所持の権利を擁護する立場を強調しました。
討論会第3回目にして、ようやく米大統領選らしい中身のあるディベートに。共和党候補らしさが備わってきた(?)トランプ氏。でも、今回もやっぱり、「いじわるオンナ」とか「大統領選なんて八百長だ」的なとんでも発言が… (C)Win McNamee/Getty Images
ただし、トランプが伝統的な共和党の主張に背く点が2つあります。それは、まず自由貿易に反対の立場を取っている点です。それから、トランプはロシア贔屓(びいき)で、これはこれまでの共和党にはない態度です。
いずれにせよ、今回の討論会ではトランプ候補に「共和党候補らしさ」が備わってきたので、8年間に及ぶ民主党大統領に飽きてきた国民が「そろそろ共和党の大統領が欲しいな」と感じた場合、トランプに票を入れるということへの抵抗感が薄れたと言えるでしょう。
■クリントンは「いじわるオンナ」! 大統領選は「八百長」!?
さて、米国の有権者は、実際のところ、込み入った経済政策の議論や、外交問題は難解過ぎて理解できません。だから耳に心地よいキャッチフレーズや、候補者の顔色、「はっ」と注意を引くコメントなどに反応しやすいです。
その点、リアリティー・ショーのホストとして、テレビ番組出演の経験が豊富なトランプのしゃべりは、短い平易な言葉を使っており、教養がない庶民にも理解しやすいです。
今回の討論会では、クリントンのことを「いじわるオンナ」と罵りました。
トランプ氏に「いじわるオンナ」と罵られたクリントン氏。真っ白なスーツでバシっと決めた元ファーストレディにして、前国務長官。本当に「いじわる」かどうかは不明だが、現在、米大統領選を優位に進めているとの見方が強い (C)Chip Somodevilla/Getty Images
また、エスタブリッシュメント(支配階級)は、いろいろ手を回して、選挙を自分に有利なように進める工作をしており、大統領選挙自体が「八百長」化しているので、11月8日(火)の本投票で自分の得票が少なかった場合でも素直に負けを認めないことをほのめかしました。
もちろん、このような発言は、大統領候補にあるまじき態度です。
でも、日頃から「社会は、自分たちに冷たい」と感じている「負け組」にとっては「自分たちの心情を代弁してくれている」存在だというわけです。
■まだ「どちらに転ぶかわからない」! 気迷い相場が続く…
トランプの性的発言の動画が流出して以来、トランプの支持率は低下しています。
【参考記事】
●お下劣トーク流出でトランプ陣営に悲壮感。クリントン勝利でもリスクオンとは限らない(10月10日、広瀬隆雄)
有り体に言えば、スイング・ステート(どちらに転ぶかわからない流動的な州)のすべてでトランプが勝たない限り、トランプは勝利できないでしょう。
ただ、第3回討論会を見た限りでは、いまだトランプ勝利の線も完全に消えてしまったわけではなく、「どちらに転ぶかわからない」という不確実性を残しています。
不確実性を残している間は、マーケットが一方向へ走り出すという展開に対しては、心理的な歯止めがかかるでしょう。
それはつまり、気迷い相場が続くということです。
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