(「JPモルガン棚瀬氏に聞く新興国通貨(1) 「景気が良い=通貨上昇」とは限らない」からつづく)
メキシコペソ、トルコリラは今年反転するのか?
現在、売られている通貨として真っ先に思い浮かぶのは、メキシコペソとトルコリラ。棚瀬さんは次のように語る。
「先に述べたように今年は全般的に円高が進むと予測しています。
ただ、為替でやられたとしても、金利が高ければ、ある程度はカバーできるので、メキシコペソやトルコリラへの投資は一考に値すると思います」
(出所:Bloomberg)
「この2つの通貨は長期的に見ても売られすぎ。
『戻しはあるのか? それは今年、起こるのか? 何がきっかけになるのか?』ということは、今年の新興国通貨を見る上でのひとつの焦点になるのではないでしょうか」
メキシコペソとトルコリラは長期的に見ても売られすぎと話す棚瀬さん。何かきっかけがあれば、反発して不思議はないようだ
では、反発のきっかけとなりそうな出来事は何か? 棚瀬さんはメキシコに関しては「米国の議会における税制改革に関する議論の行方」だという。
トランプ大統領の政策はメキシコにポジティブ!?
メキシコはトランプノミクスの最大の被害者と言われているが、実はトランプ大統領が掲げる政策は新興国全般にとってはネガティブながら、メキシコにとっては決して悪くない可能性があると棚瀬さんは指摘する。
メキシコの特徴は米国への依存度の高さと、コモディティ(商品)への依存度の低さ。
米国への依存度が高いということは、米国の景気がよくなることはメキシコにはポジティブということになる。また、他の新興国の景気低迷でコモディティ価格が下がっても、メキシコはコモディティへの依存度が低いので影響は限定的だ。
「とはいえ、トランプ大統領が公約に掲げる国境税がかけられるとなると話は違ってきます。
逆に国境税の実現は難しいことが明らかになれば、トランプリスクで売られすぎていたメキシコペソが反発するきっかけになりえるでしょう」と棚瀬さん。
(出所:Bloomberg)
トルコリラはまだ下落余地あり!?
トルコに関しては、2015年のブラジルに近い状況で、通貨安とインフレのネガティブスパイラルに完全にはまりこんでいる。
「ネガティブスパイラルを断ち切るのが重要で、トルコリラが反発するにはトルコの中央銀行の金融政策が焦点。
現政権の政治的圧力で金融引き締めが難しいとマーケットには思われているので、通常より大きな利上げが必要になるでしょう」
(出所:トルコ中央銀行のデータを基にザイFX!編集部が作成)
中央銀行と政治の関係によっては、ネガティブスパイラルが長続きする可能性もある。
さまざまな要因が影響するので、トルコリラの下落余地がどのくらいあるのかは極めて不透明ながら、棚瀬さんは次のように語る。
「トルコリラは最安値圏にあるので値ごろ感があるかもしれませんが、実質実効レートの10年移動平均との乖離率は現状マイナス15%ぐらい。
ブラジルレアルはこれがマイナス25%ぐらいまで売られてから反発したことを考えると、トルコリラが一時的にあと10%程度下落する可能性は否定できないと考えています」
【参考コンテンツ】
●FX会社おすすめ比較:トルコリラ/円が取引できるFX会社はここだ!「トルコリラ/円スプレッドの狭い順」
(出所:J.P.モルガン)
金利狙いのロシアルーブルに投資妙味アリ!
長期的な金利収益を重視するならロシアルーブルや、インドルピーが向いている。
「ロシアルーブルは2014年に売られましたが、現在は反発・上昇している途中。バリューから見ると現在はほぼ適正な水準ですが、ファンダメンタルズは強く、通貨としては安定しています。
今後、どこまでロシアルーブルが上昇するかは微妙ですが、ロシアは経常黒字国ですし、財政も新興国の中ではもっとも良好といえます」
(出所:Bloomberg)
「ファンダメンタルズが強いので、金利狙いでロシアルーブルに投資するのは悪くないと思います」
(出所:Bloomberg)
(出所:ロシア連邦中央銀行のデータを基にザイFX!編集部が作成)
インド政府がルピー安に誘導
インドルピーは2014年の選挙で誕生したモディ首相の経済政策により、劇的にファンダメンタルズが改善した通貨。
当時のインフレ率は前年比10%を超えていたが、現在はその半分ぐらいまで下がっている。経常赤字の対GDP 比も2012年は5%ぐらいだったが今は1%程度。
これらのファンダメンタルズ改善により、インドルピーのボラティリティ(変動率)は大幅に下がった。ボラティリティの低さは、金利狙いのトレードにはポジティブな要因となる。
(J.P.モルガンのデータを基にザイFX!編集部が作成)
ただし、輸出振興という政策的な観点から、当局は名目為替レートが弱くなるように誘導しており、ファンダメンタルズが強いにもかかわらず、インドルピーは徐々に弱含んでいる。
「トルコリラやメキシコペソが大きく売られているため、インドルピーの下げは目立っていませんが、このように政策面も勘案する必要はあります」
ブラジルレアルは割高、中国人民元はあまり変動せず
ブラジルレアルは、2015年に大きく売られたが、2016年は反転・急上昇した。現在は過大評価されている水準に入っているが、「大幅に利下げする可能性が高く、債券価格にはポジティブ」と棚瀬さん。
(出所:Bloomberg)
そして、新興国といえば、見逃せないのが中国の動向だ。
棚瀬さんによると、中国人民元は今年、あまり動かないだろうという。
その理由は、2017年は中国共産党の党大会が開催される年だから。この党大会は今後5年間の国家の基本方針を決定する最重要会議だ。
「歴史的に見て、米ドル/中国人民元は党大会とその翌年はあまり変動がありません。そのパターンどおりなら、2017年の中国人民元に大きな動きはないでしょう」
歴史的に見て、米ドル/中国人民元は党大会とその翌年はあまり変動がないので、そのパターンどおりなら、今年の人民元は動かないというのが棚瀬さんの見解だ
ユーロの代わりにポーランドズロチ投資で金利ゲット!
主要な新興国通貨について解説してもらったが、個人的にもうひとつ注目したい通貨がある。それはポーランドズロチ。実は筆者はポーランドに移住予定なのである。
ポーランドといっても日本人にはピンとこないかもしれないが、2015年のデータではEU(欧州連合)加盟国では人口で6番目、名目GDPで8番目の規模を誇る。リーマンショック後の2009年もユーロ圏で唯一経済成長を続けるなど経済も堅調だ。
せっかくなので、今回は棚瀬さんにポーランドズロチについても解説していただいた。
「ポーランドは先進諸国と同様に完全変動相場制。債券市場の規模と流動性は新興国市場ではトップクラスで、投資対象として決して悪くはありません」
ただし、ポーランドズロチはユーロとの相関が非常に強いという。
過去の例を見ても、ポーランドズロチのファンダメンタルズがよくても、ユーロが弱含むとポーランドズロチも下落し、ポーランドズロチのファンダメンタルズが悪化しても、ユーロが好調なら上昇する傾向がある。
(出所:Bloomberg、通常の通貨ペアは米ドル/ポーランドズロチだが、逆転して表示させている)
たとえば、今後、欧州の政治リスクが顕現化してユーロが売られる展開となった場合にはポーランドズロチも弱含む可能性が高い。
つまり、為替の動きからすると、ポーランドズロチに投資するということは“ほぼユーロ投資”ということに。しかし、金利面からはゼロ金利のユーロに対し、現在のポーランドズロチの政策金利は1.5%。
(出所:ポーランド国立銀行のデータを基にザイFX!編集部が作成)
「ユーロに投資しても金利がつかないから、その代わりにポーランドズロチに投資する、というような考え方はあると思います。
原油に投資しても金利がつかないからほぼ同じような動きをして、金利も期待できるロシアルーブルに投資するのと似たような感覚ですね」と棚瀬さん。
金利の観点から、ユーロの代わりにポーランドズロチに投資するという考え方もあるという棚瀬さん。原油に投資しても金利がつかないから、ロシアルーブルに投資するのと似たような感覚だという
ここでもやはり、「投資目的に合わせて通貨を選ぶ」ということが大切といえそうだ。
みんなが動き始めてから検討したのでは遅い! 特に新興国はなじみが薄いだけに、通貨の特性を把握するにもそれなりに時間が必要だ。
今から自分のスタンスにマッチした通貨に目をつけておいて、円高局面になったらしっかりチャンスをものにしたい!
(取材・文/佐乃美歩絵 撮影/高橋宣仁)
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