■米国がかなり優位に「通貨戦争」を主導している
「通貨戦争」が進行するにつれて、米ドルは独歩安の様相を呈してきている。現執筆時点で、ドルインデックスは一時76.26まで下落して安値を更新し、米ドル/円は1995年につけた史上最安値の79.75円に迫っている。
主要メディアでは、この「通貨戦争」に関する論争が過熱している。
10月14日(木)のトップ記事において、世界の2大経済紙(ネット版)がまったく正反対の結論を出していた点はおもしろかった。
WSJ(ウォールストリート・ジャーナル)は「The U.S. Will Lose a Currency War」(米国は通貨戦争に敗戦なり)と主張し、その一方でFT(フィナンシャル・タイムズ)紙は「Why America is going to win the global currency battle」(なぜ米国は通貨戦争に勝利するか)と分析している。
最終的な結果はともかく、少なくとも米国が現時点でかなりの優位性をもって「通貨戦争」を主導していることは間違いない。
基軸通貨を有する米国は、金融政策のかじ取りだけで、思うがままに米ドル安を誘導できる。他国から見れば、その点においてはせん望の的となろう。
■日銀の利下げがマーケットから無視されているワケ
米ドル/円を例に挙げて見てみよう。
その歴史を振り返ると、米ドル/円は米ドルに翻弄される円の漂流史そのものと言っても過言ではない。日本は諸外国よりもその点を、より強く痛感していることだろう。
米ドル/円 日足
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
基軸通貨を有する国の中央銀行は、事実上「世界の中央銀行」となる。したがって、FRB(米連邦準備制度理事会)の政策は、国によっては本国の中央銀行がとる政策よりもインパクトがある。その典型が日本であろう。
だから、日銀が10月5日(火)に決定した利下げは、これまでのところはマーケットから完全に無視されている。日銀からしてみれば、極限まで努力したとの思いが強いのかもしれないが、FRBに勝てるわけがないとマーケットは思っている。
歴史を振り返れば、日本の従順ぶりに米国サイドでさえも驚いているようなケースは多い。
あの著名な1985年の「プラザ合意」でも、日本側(当時の大蔵大臣の竹下氏)から30%もの円の切り上げを「逆提案」され、米国はとても驚いていたと米国の高官が回顧録で述懐している。そして、ご存知のように、「プラザ合意」は後に日本で発生したバブルの導火線であった。
この意味では、日本に比べて、中国がいかに「難しい」国であるか、米国当局者が頭を抱えている様子が容易に思い浮かぶ。
足元の「通貨戦争」は米中の衝突といった面が大きくなりつつあるが、皮肉にも、中国当局は日本の前例があったからこそ「同じ轍(てつ)を踏まない」と固く決心しているようだ。
言わば、日本は反面教師であったのだ。
■なぜ米国は大規模な量的緩和を行おうとしているのか?
ところで、米国の量的緩和は、姿を変えた「プラザ合意」の再来と言えるだろう。デフレ回避という大義名分で、新興国にインフレと資産バブルを輸出しようとするものだ。
中国をはじめ、インド、韓国、ブラジルといった国々は自国通貨の防衛に回るため、期待値の高まりとともに、結果的にホットマネーは米国から流出し、商品セクターと新興国に流入するだろう。
それはすでにかなり進行しているが、今後さらに激化していく可能性もある。
その構造は1997年のアジア危機を誘発した背景と同じで、次の危機を引き起こす背景となるだろう。
基軸通貨を有する国の中央銀行は、事実上「世界の中央銀行」となる。したがって、FRB(米連邦準備制度理事会)の政策は、国によっては本国の中央銀行がとる政策よりもインパクトがある。その典型が日本であろう。
だから、日銀が10月5日(火)に決定した利下げは、これまでのところはマーケットから完全に無視されている。日銀からしてみれば、極限まで努力したとの思いが強いのかもしれないが、FRBに勝てるわけがないとマーケットは思っている。
歴史を振り返れば、日本の従順ぶりに米国サイドでさえも驚いているようなケースは多い。
あの著名な1985年の「プラザ合意」でも、日本側(当時の大蔵大臣の竹下氏)から30%もの円の切り上げを「逆提案」され、米国はとても驚いていたと米国の高官が回顧録で述懐している。そして、ご存知のように、「プラザ合意」は後に日本で発生したバブルの導火線であった。
この意味では、日本に比べて、中国がいかに「難しい」国であるか、米国当局者が頭を抱えている様子が容易に思い浮かぶ。
足元の「通貨戦争」は米中の衝突といった面が大きくなりつつあるが、皮肉にも、中国当局は日本の前例があったからこそ「同じ轍(てつ)を踏まない」と固く決心しているようだ。
言わば、日本は反面教師であったのだ。
■なぜ米国は大規模な量的緩和を行おうとしているのか?
ところで、米国の量的緩和は、姿を変えた「プラザ合意」の再来と言えるだろう。デフレ回避という大義名分で、新興国にインフレと資産バブルを輸出しようとするものだ。
中国をはじめ、インド、韓国、ブラジルといった国々は自国通貨の防衛に回るため、期待値の高まりとともに、結果的にホットマネーは米国から流出し、商品セクターと新興国に流入するだろう。
それはすでにかなり進行しているが、今後さらに激化していく可能性もある。
その構造は1997年のアジア危機を誘発した背景と同じで、次の危機を引き起こす背景となるだろう。
もし、FRBが大規模な量的緩和に踏み切るようであれば、それは他ならぬ、FRBのバーナンキ議長が日本型デフレの専門家であったからであろう。
つまり、米国が日本型デフレに陥るのではないかという恐怖こそが、前人未踏の領域まで踏み込む決断をさせる、FRBの原動力となる。
1990年代、日本当局の無策を激しく批判していたバーナンキ議長は、米国が日本の二の舞にならないようにと躍起になっている。
ここでも、日本は反面教師となっている。
■一貫した戦略を持たない国は相手にされない
そうした流れの中、一貫した国家戦略を持たない日本(首相さえよく変わるのだから、当然と言えば当然だが…)は、為替問題において再びスタンスを修正したように見える。だが、それはある意味では「一貫性」がある。
G20(20カ国地域・首脳会合)を前にして、菅総理は中国と韓国を名指しで批判し、自ら円高阻止を放棄したような声明を出した。特に、今回のG20はソウルで開催されるだけに、韓国への批判はインパクトがある。
リーマン・ショック以降、円は米ドルに対して30%近く上昇しているが、その一方で韓国ウォンは米ドルに対して上昇するどころか、わずか1.2%とはいえ下落しており、対円では23%の下落となっている。
日本政府の考え方は理屈としては正しい。だが、そのやり方は賢いとは言えない。
他国を批判するにはコストがかかり、そのコストをふだんは負担できるとしても、足元で負担できないことは明白だ。
要するに、他国にやるなと言っているのだから、日本も市場介入できずにいるということだ。
実際、マーケットはそれを見透かして円買いを進めており、円は対米ドルでの史上最高値更新を目指している。
菅総理は、バカ正直と言えばそれまでだが、今夏の参議院選挙前に消費税アップの論議を喚起したように、自らを窮地に追いやるクセがあるように見える。
今回もそうだ。円高の本質が米ドル安にあるにもかかわらず、中国と韓国を名指しして批判した。批判しても、円高をすぐに改善できないことは本人もわかっているはずだ。
現在の状況下で、自らの発言で自分の手足をしばってはどうにもならない。ある意味で、円高を進行させているのは日本政府自身とも言える。
一貫した戦略を持たない国は相手にされるはずがない。マーケットもしかりだ。
■米ドル売り一辺倒の足元の状況には警戒すべき
ところで、事情はなんであれ、荒海では船の片側に皆が集中してきたら終わりだ。
米ドル安が確実視されていても、思ったとおりに進まないのがマーケットの常である。
つい数ヵ月前、ユーロのソブリンリスク(国家に対する信用リスク)が騒がれていた最中に、ユーロの暴落が行き過ぎであることが明白であるにもかかわらず、マーケットの雰囲気はユーロ売り一色だった。
つまり、米国が日本型デフレに陥るのではないかという恐怖こそが、前人未踏の領域まで踏み込む決断をさせる、FRBの原動力となる。
1990年代、日本当局の無策を激しく批判していたバーナンキ議長は、米国が日本の二の舞にならないようにと躍起になっている。
ここでも、日本は反面教師となっている。
■一貫した戦略を持たない国は相手にされない
そうした流れの中、一貫した国家戦略を持たない日本(首相さえよく変わるのだから、当然と言えば当然だが…)は、為替問題において再びスタンスを修正したように見える。だが、それはある意味では「一貫性」がある。
G20(20カ国地域・首脳会合)を前にして、菅総理は中国と韓国を名指しで批判し、自ら円高阻止を放棄したような声明を出した。特に、今回のG20はソウルで開催されるだけに、韓国への批判はインパクトがある。
リーマン・ショック以降、円は米ドルに対して30%近く上昇しているが、その一方で韓国ウォンは米ドルに対して上昇するどころか、わずか1.2%とはいえ下落しており、対円では23%の下落となっている。
日本政府の考え方は理屈としては正しい。だが、そのやり方は賢いとは言えない。
他国を批判するにはコストがかかり、そのコストをふだんは負担できるとしても、足元で負担できないことは明白だ。
要するに、他国にやるなと言っているのだから、日本も市場介入できずにいるということだ。
実際、マーケットはそれを見透かして円買いを進めており、円は対米ドルでの史上最高値更新を目指している。
菅総理は、バカ正直と言えばそれまでだが、今夏の参議院選挙前に消費税アップの論議を喚起したように、自らを窮地に追いやるクセがあるように見える。
今回もそうだ。円高の本質が米ドル安にあるにもかかわらず、中国と韓国を名指しして批判した。批判しても、円高をすぐに改善できないことは本人もわかっているはずだ。
現在の状況下で、自らの発言で自分の手足をしばってはどうにもならない。ある意味で、円高を進行させているのは日本政府自身とも言える。
一貫した戦略を持たない国は相手にされるはずがない。マーケットもしかりだ。
■米ドル売り一辺倒の足元の状況には警戒すべき
ところで、事情はなんであれ、荒海では船の片側に皆が集中してきたら終わりだ。
米ドル安が確実視されていても、思ったとおりに進まないのがマーケットの常である。
つい数ヵ月前、ユーロのソブリンリスク(国家に対する信用リスク)が騒がれていた最中に、ユーロの暴落が行き過ぎであることが明白であるにもかかわらず、マーケットの雰囲気はユーロ売り一色だった。
ユーロ/米ドル 日足
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
今回の米ドル売り一辺倒の状況では、同じ警戒をすべきである。
米ドルの深刻なオーバーシュートといったテクニカルの視点でも結論は明白であり、近々、米ドルの買い戻しが見られるだろう。
最後に、前回のコラムで論じた米ドル/円の史上最安値を更新する前に、いったんリバウンドがあるとの可能性について(「市場は『通貨戦争』における米ドルの優位を確信している。日本は負ける可能性が高い」を参照)。
ここに来て、それを事実上論議する意味がなくなってきたので、見送りさせていただくことを、おわび申し上げる。
(2010年10月15日 午前9:30執筆)
今回の米ドル売り一辺倒の状況では、同じ警戒をすべきである。
米ドルの深刻なオーバーシュートといったテクニカルの視点でも結論は明白であり、近々、米ドルの買い戻しが見られるだろう。
最後に、前回のコラムで論じた米ドル/円の史上最安値を更新する前に、いったんリバウンドがあるとの可能性について(「市場は『通貨戦争』における米ドルの優位を確信している。日本は負ける可能性が高い」を参照)。
ここに来て、それを事実上論議する意味がなくなってきたので、見送りさせていただくことを、おわび申し上げる。
(2010年10月15日 午前9:30執筆)
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)