201×年某月某日、中国の政府首脳が世界に向けて声明を発表した。要約すれば、その内容は次のとおりである。人民元と外貨との交換レート決定方式を完全な変動相場制へと移行したうえで、人民元の国外持ち出しや海外からの投資などに関する規制も大幅に緩和するというのだ。いわゆる人民元の完全自由化である。
——これは松田哲さんの新刊
『1勝9敗でも勝てる松田式FX!』(ダイヤモンド社)の一節だ。
ザイFX!の連載コラム
「FX一刀両断!」でもおなじみの松田さん。その新刊はどんな内容なのだろうか? その章立てをご紹介しよう。
第1章 人民元の自由化とともに超円高時代が到来する!
第2章 激動の時代を勝ち抜く「松田式FX!」の基本戦略
第3章 具体的にどう勝つか? 「松田式FX!」投資戦術
第4章 ドル・円、ドル・ユーロ、豪ドル・円、3大人気通貨ペアはこう攻める!
ご覧のとおり、
具体的なトレード戦術や負けないための秘策、さらには人気通貨ペアの傾向と対策など、盛りだくさんの内容となっている。
そして、中でも大きなテーマとして掲げられているのが冒頭でも引用した
「人民元の完全自由化」だ。
今回はこの新刊
『1勝9敗でも勝てる松田式FX!』について、著者の松田哲さんにあれこれ聞いてみた。
■松田さんの言う“第2のプラザ合意”とは?
プラザ合意——それは1985年9月にG5(アメリカ、日本、西ドイツ、イギリス、フランス)の大蔵大臣・財務長官・中央銀行総裁がニューヨークのプラザホテルに集まって行われた
為替に関する歴史的な合意だ。この
プラザ合意によって、急速な円高が進み、米ドル/円は2年3ヵ月でおよそ半値になるような、途方もない速度で下落することになった。
そして、松田さんが新刊
『1勝9敗でも勝てる松田式FX!』で唱えているのは
“第2のプラザ合意”。人民元についても上記のプラザ合意と同じようなことが起こるぞという話なのだ。
「“第2のプラザ合意”はあると思いますよ。というより、すでにそれに向かった動きとなっています。2005年の人民元改革が“第2のプラザ合意”へ向けた第一歩だったと言えるでしょう」
人民元相場のこれまでの推移については、
『1勝9敗でも勝てる松田式FX!』の中でも、チャート入りで詳しく解説されているが、1997年11月頃から2005年7月まで人民元相場は固定相場制(ドルペッグ制)となっており、人民元の対ドルレートは1ドル=約8.28元でほぼ固定されていた。
それが、2005年7月に
「管理フロート制」と「通貨バスケット制」が導入され、人民元の対ドルレートはジリジリ上昇、1ドル=7元を割るところまで行ったのだった。
ところが、世界的な金融危機の影響を受け、2008年7月頃からは1ドル=約6.83元で再びレートがほぼ固定されることとなった。
■弾力化発表以降の人民元相場をどう見るか?
それが動いたのが2010年6月19日。この日、
人民元相場の弾力化(柔軟化)が発表され、その翌週21日から人民元相場はジンワリと上昇し始めたのである。
それは
『1勝9敗でも勝てる松田式FX!』のまさに制作途中の出来事だったが、この直近の動きを松田さんはどう見ているのか?
「
この動きは小さいです。本当に小さい。ほとんど動いているうちに入りません。通貨の切り上げ、切り下げというのは通常10%、20%ぐらいのことだと思うんですね。それぐらい動かないと経済的な効果はほとんどないと言っていい。
人民元レートがどれぐらいであるべきかということは、なかなか正確にはわからないけれど、大まかに言って、
現状の人民元が安すぎるのは間違いない。これは世界中の有識者がそう思っていることでしょう。
だから、アメリカをはじめとした世界中から人民元に対する切り上げ圧力がかかっているわけですが、それに対し、自国の輸出企業を助けたい中国当局は『これぐらいの変動でお茶を濁せるんだったら、儲けもの』ぐらいの気持ちなんじゃないでしょうか。
人民元の問題に限らず、中国という国はとても外交上手。したたかだと思いますよ」
■1ドル=2元割れの大胆予想!
松田さんの言う“第2のプラザ合意”はそれに向けて歩み出してはいるものの、本年6月の弾力化(柔軟化)程度ではそれが本格的に到来したとは言えないことはわかった。
では、“第2のプラザ合意”が本格的に到来した場合、人民元はどこまで上昇するのだろうか?(米ドル/人民元レートはどこまで下落するのだろうか?)
これについては
『1勝9敗でも勝てる松田式FX!』でも詳しく述べられているのだが、松田さんは1ドル=2元割れという、大胆な予想を展開している。
これについては
『1勝9敗でも勝てる松田式FX!』でも詳しく述べられているのだが、松田さんは1ドル=2元割れという、大胆な予想を展開している。
それは、1985年のプラザ合意からの類推だという。
■1ドル=2元割れの筋書きとは?
「過去の事例は過去の事例にすぎないから、それが将来のことにも当てはまる確かな根拠になるか? と問われれば、そこまでのことではありません。ただ、
為替相場の世界では歴史的に同じことが繰り返されてきたという経験則があるんです。
その意味で、プラザ合意について考えてみると、米ドル/円はプラザ合意前の240円から2年3ヵ月で120円になりました。
約半分になったんです。さらに言えば、プラザ合意の年、1985年の米ドル/円の高値は263円でしたから、半分以下になったとも言えます。
人民元の場合もスタート地点がどこかという問題はあります。2005年7月までの1ドル=8.28元なのか、2008年7月以降の1ドル=6.83元なのかですね。これは小数点以下を切り捨ててざっくり言えば、8元か6元ですね。
そして、プラザ合意と同様にレートが2分の1になるとすれば、8元の半分は4元、6元の半分は3元となります。
さらに今の人民元は人為的にレートが堰き止められているようなものですから、
一度動き出したら土石流じゃないけど、ウワーッと押し流されるようなとてつもない動きとなり、オーバーシュート(行き過ぎ)することが考えられます。
そうなると、
3元が本来的なターゲットだとしても、さらにそこからオーバーシュートして、2元割れまでいくことが想定できるのです」
■アメリカの命令をすぐに「ハイ、ハイ」ときく日本
1ドル=2元割れとはすごい見通しだが、1985年のプラザ合意とこれから本格到来するであろう“第2のプラザ合意”には違いもあると松田さんは言う。
「1985年、プラザ合意時の世界を振り返ってみましょう。当時、まだ東側と西側は冷戦状態にありました。世界の大国はアメリカとソ連であり、『アメリカ VS. ソ連』という対立軸になっていたのです。
プラザ合意はG5でやったことになっていますが、実際にはG3、すなわち、米国、日本、西ドイツでの合意だったと言えます。この時、米国も日本も西ドイツも同じ西側陣営です。
そして、表現が難しいですが、日本も西ドイツも属国ではなく一応独立国ではあるんだけれども、西側諸国の中では覇権国であるアメリカが、日本に対しても、西ドイツに対しても実質的な命令権を持っていた状態と言えるでしょう。
ソ連に対抗する、東側諸国に対抗するという大義名分のもと、西側諸国はアメリカを中心に結集し、アメリカの命令をすぐに「ハイ、ハイ」ときく状況にあったわけです。
それだけに、プラザ合意後の円高はものすごいスピードで進んだという面はあったでしょう」
■ベルリンの壁崩壊で世界のパワーバランスは変わった
では、松田さんの言う“第2のプラザ合意”本格到来を前にした現在の世界はどのような状況になっていると言えるのだろうか?
「ベルリンの壁が崩壊し、東西対立はなくなりました。今の世界の大国はアメリカと中国だと思います。「アメリカ VS. 中国」という対立軸ですね。
ただ、中国は一応、社会主義国を名乗っていますが、それは形骸化していて、ほとんど資本主義に近い状態と言えます。
そして、中国は13億人の人口を抱えていますから、潜在的にものすごく大きなマーケットでもあるわけです。アメリカだってその中国と敵対するより、ある程度仲良くして、これから中国にモノを買ってもらいたい面もあるのです。
また、1985年当時と比べ、世界の中でのアメリカの力が相対的に弱まっているという事情もあります。
このように、世界各国のパワーバランス、対立軸が1985年当時と現在では異なっているために、人民元の上昇スピードがそれほど速くないというところはあると思います」
今のところ人民元は取引に大幅な制限があり、2010年8月現在、日本の証券会社、FX会社で取り扱っているのは、記者が確認した限り、
SBI証券とユナイテッドワールド証券ぐらいしかない。
それも、スプレッドが広かったり、買っても売ってもスワップ金利を支払わなくてはならなかったりと、残念ながら本格的な取引はしにくいのが現状だ
(これはおそらく通常のFXとは異なるしくみでサービスが提供されているためと推測される)。
だから、FXで、松田さんの言うような
人民元の大相場を直接的に取りに行くのは現状では難しい。ただ、そのための準備や情報収集は続けておく価値はあるだろう。冒頭で引用したような「人民元の完全自由化」が実現されれば、FXでも普通に人民元が取引できるようになる可能性はあるからだ。
ただ、
直接的に人民元を取引する以外にも手はある。人民元の動きと関連した他の相場を取りに行くやり方だ。これについては
『1勝9敗でも勝てる松田式FX!』で詳しく解説されているので、ぜひ、そちらを見てほしい。
(
「松田哲さんの米ドル/円相場大予想! 1ドル=65円を目指す大きな流れとは?」へつづく)
(取材・文/ザイFX!編集部・井口稔 撮影/和田佳久)
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