「米ドル安のスピード調整あり」、「英国とユーロ圏の早期利上げを期待するコンセンサスとは距離を置くべき」と主張したが、足元の相場はほぼそのとおりとなっている(「日本の格下げはいずれ蒸し返される!米国のソブリン危機は日本以上に危険だ!」を参照)。
特に、市場センチメントがかなり変わり始めているようだ。
■ユーロ圏と英国の利上げ期待が後退した
まず、ウェーバー独連銀総裁がECB(欧州中央銀行)の次期総裁に立候補しないと報じられたことが、ユーロ圏の早期利上げ期待を後退させる引き金となったようだ。
次期総裁候補の最有力とされていたウェーバー氏はインフレに厳しいスタンスで、タカ派として名を馳せていただけに、ECBの次期総裁に立候補しないならば、利上げコンセンサスに打撃を与えたのは当然だ。
また、ポルトガル国債の利回りが、ユーロ導入後の最高水準まで一時上昇していた。これはユーロのソブリンリスクの根深さを投資家に意識させることであり、2つの材料が重なったことから、再び見通しが混迷してきた。
(詳しくはこちら → 経済指標/金利:各国政策金利の推移)
また、先週行われた金融政策委員会で、英国の中央銀行であるBOE(イングランド銀行)が金利据え置きを決定し、英国の早期利上げ期待が後退した。
一部には、BOEが英ポンド高によるマイナス効果を懸念し、利上げを断念したとの見方もあるようだが、英国の金融大手であるHSBCのアナリストのように、「利上げがあったとしても短期スパンを除いては、英ポンドを押し下げる要因になる」といった論調も散見される。
これは、利上げで資金調達コストが上昇し、英国企業に打撃が与えられ、景気の大幅悪化は避けられないというもので、ひいては英ポンド売りを招くというのが根拠らしい。
もちろん、筆者が2月4日(金)の時点でこのようなファンダメンタルズの材料を予測できるはずはなく、あくまで市場コンセンサスの先走りを感じていただけだ。
特に、ユーロに関しては、一部の頑固な「ユーロ崩壊論者」さえユーロの利上げ余地云々と言い始めたから、そろそろ修正があってもおかしくはないと見ていた。
この意味でも、ファンダメンタルズの変化は常に相場の内部構造を証左するものと言えるだろう。
■米ドル/円は86円の上値ターゲットが視野に入ってきた
ところで、市場センチメントの変化が米ドルを押し上げていると筆者は見ているが、エジプト情勢によるリスク回避云々でと解釈する向きもあるようだ。
しかし、基本的にエジプト情勢はあまり関係ないと思っている。
なぜなら、リスク回避の視点では、足元で進行中の株高を説明しきれず、恐怖指数とも呼ばれる「VIX指数」が安定的に推移している事実は、さらに解釈しにくい。
また、先週の米ドル高は米ドル/円の上昇ともリンクしていた。
米ドル/円は83.42円で1週間の取引を終了し、一気に50日移動平均線と100日移動平均線を抜いてきた。テクニカル的な話は筆者のブログをご覧いただきたいが、前々回のコラムでも指摘した86円の上値ターゲットは一段と視野に入ってきたと思う(「『人民元のユーロ買い』にはワケがある。通貨の興亡は人民元抜きでは語れない!」を参照)。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
それでは、テクニカル面以外で、米ドル/円の切り返しがもたらすファンダメンタルズ的な材料、あるいは、そういった材料に対する思惑とは何か?
それは、前回のコラムでも指摘した「日本のソブリンリスクの蒸し返し」だと思っている(「日本の格下げはいずれ蒸し返される!米国のソブリン危機は日本以上に危険だ!」を参照)。
日本の財務省が2月10日(木)に発表したデータによると、2010年の年末時点で日本が背負う債務の総額は919兆円を超えており、問題の深刻さを改めて印象づける数字となった。
しかし、日本の借金総額よりも、米国の思惑がより重要な要素ではないかと思っている。
前回も指摘した「S&Pの日本のソブリン格下げは、もっと深い意味合いを持つ」については、また次回に。
(2011年2月14日 10:00執筆)
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